人々の健康や生命がなによりも大切なのは言うまでもない。それでも「オリンピックなんてやめたほうがいい」という「中止」論は、あまりにも乱暴な意見だ。

「すでにスポーツ界は、新型コロナウイルスでかなりのダメージを受けています。大相撲が無観客で約10億円の払い戻しがあるとか、プロ野球が1試合開催できないと1億円以上の損失になるとかという話がありますが、このふたつはまだ余裕があるほうだと思います。プロ野球のように安定した親会社を持たずチーム数も多いJリーグやBリーグ、卓球のTリーグなどは深刻なダメージを受けています。私もB3リーグに所属する埼玉ブロンコスのオーナーになりましたが、試合がなければ収入が途絶えます。それでも社員や選手、関連企業などへの支払いはありますから、今後の資金繰りについてかなり頭をつかっています」

池田氏が心配するのは、プロチームそのものだけでなく、そこから収入を得ている人たちの存在だ。

「たとえば、プロ野球の試合をするとなると、チアガールやMC、選手を運ぶバスのドライバーなど、たくさんの人の力が必要です。こういう方々は日当で働いているパターンが多い。つまり試合がなくなると彼らは収入が途絶えてしまうんです。もちろんパンフレットの印刷やウェブの製作、他にもたくさんの人、中小の企業に支えられている。オリンピックとなると、そういった協力者、協力企業の数も桁違い。もし中止ということになると、彼らは仕事を失い、下手をすると倒産してしまう企業も出てくるでしょう。

スポーツビジネスはいま、かなり大きな産業になっています。いまは旅行関係や飲食業、イベント関連などの苦境が伝えられていますが、スポーツビジネス全体を見たら、かなりの人が影響を受ける。オリンピックがなくなると、影響はスポーツ界だけではなく、日本経済そのものが崩壊しかねません。そこまで考えたら、簡単に中止なんてできるわけがない。それが、“延期“を必死に議論して、どうにか”延期“の具体策に辿り着かなくてはならない理由なんです。やっと偉い人も皆“延期”議論に本格的に入ってもらえました。背負っているものが大きすぎる、ということなのです」

日本政策金融公庫では、新型コロナウイルス問題で業績が悪化した企業に対して、「新型コロナウイルス感染症特別貸付」という最大6,000万円の無担保融資を行っている。

「もしオリンピックが延期や中止になってしまうとしたら、同じようにスポーツビジネスに関わる人たちのセーフティネットになるような対策が必要です。そうでなければ、ここまで2020年を目指して盛り上がってきたスポーツ界が一気にしぼんでしまうことになりかねません」

アスリートも、関係者も、そしてもちろん観客もみんながハッピーなオリンピックが実現できることを、いまはただ祈るしかない。





取材協力:文化放送

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VictorySportsNews編集部