「この度はファンの皆さま、野球関係者の方々、チームメイトや球団の方々をはじめ、多くの方々に多大なご迷惑とご心配をおかけしたことを深く反省し、おわび申し上げます」

球界初の感染者は、陽性判定を公表することで、異変に気付くきっかけとなった、味覚、臭覚の不具合という、当時ほとんど世に知られていなかった症状を啓蒙した。その勇気も、感染したのが、球団外の人物に誘われた大人数の会食の場だったようだという状況が判明すると一変。複数の女性が参加していたことも分かり、猛烈なバッシングを受けた。

■伸び悩む阪神の宝

自宅待機中の藤浪の様子はわからないが、漏れ伝わってくる話では、相当落ち込んでいるようだ。この四面楚歌の状況で、球団のサポートはどこまで行き届いているのか。入団から3年連続2桁勝利を挙げ、球界のエースに駆け上がっていった剛腕は、4年目から成績が鈍化。昨年は初めて0勝に終わった。復活を期すシーズンを前にコロナ厳戒態勢の下、会食に出かけて、感染。評判ガタ落ちになった藤浪のトレード放出の可能性を論じるネットニュースなどを見て、伸び悩む阪神の宝を心配する人に会ったことを思い出した。

ソフトバンクの久保康生2軍投手コーチである。2019年の春季宮崎キャンプで、藤浪について、話す機会があった。

「晋太郎はどうなったんや。誰か、見てやるコーチはおらんのか。まだ20代やろ。まだまだこれからの選手やないか」

久保コーチが阪神の2軍チーフ投手コーチだったころ、1軍にいた藤浪の成績が急下降。救いの手を差し伸べる機会をうかがっていた。
「最初はゴルフに誘ってね。そうしたら来たんだよ」
シングル級の腕前の久保コーチは、コース上ではあえて野球の話はしなかった。指導する、指導を受ける関係を構築する準備段階として、少しずつ本人との距離を縮めていこうと考えていた。

「次は食事に誘って…と思っていたんだけどね」。久保コーチは17年限りで阪神との契約が満了になり、退団。すぐにソフトバンクからオファーを受けて、18年から2軍投手コーチに就任した。来日直後、奮わなかった大柄なメッセンジャーを開花させた同コーチは、体の大きな藤浪の技術的な問題、課題の分析を終えていた。「教えたかったなあ」としみじみ。そういえば、この当時の1軍の首脳陣からは「彼がこれからどうしていくか」など、受け取りようによっては、突き放したような印象を受けるコメントをよく耳にしていた。久保コーチと話した後、阪神には暗闇でもがく藤浪に寄り添う存在がいないのでは…と強く思うようになった。

■復活の糸口は

18年オフ、矢野監督が就任。明けた19年はキャンプから制球難に陥り、プレシーズンから死球を連発。けがを恐れる対戦相手はすっぽ抜けが頭に当たってはいけないと、右打者を引っ込める徹底ぶりだった。結局、藤浪は1軍登板1試合で0勝。1年のほとんどを2軍で過ごした。

だが、矢野監督には考えがあった。中日の先輩、山本昌氏を秋春のキャンプ臨時コーチとして招いた。50歳まで現役を続けた通算219勝左腕は、高知・安芸市での秋季キャンプ初日から藤浪に密着。頑固者と言われた早熟の大器が、助言を素直に聞き入れる姿があった。山本昌氏は藤浪専属コーチではなかったが、袋小路に迷い込んでいた背番号19は、安心して寄りかかれる大樹を見つけたような心境だったのではないだろうか。

思い返してほしい。キャンプ、オープン戦での藤浪は明らかな良化の気配を漂わせていた。3月11日のヤクルトとの無観客試合(神宮)ではテンポよく投げ、4回2安打無失点。12球団でも屈指の投手陣に、ボーア、サンズといった外国人野手の積極補強で得点力アップが見込まれる今季の阪神を優勝候補に挙げる評論家は少なくなかった。制球難のすべてが解消したわけではないが、そこに昨季0勝の藤浪が復活して加われば、優勝争いの主役を演じても不思議ではない。

阪神の歴史を紐解けば、田淵幸一、江夏豊らといった球団の看板選手をそれぞれ西武、南海にトレードに出した過去がある。最近では鳥谷敬の去り方も円満には程遠かった。確かに今回の藤浪の騒動で、球団のイメージダウンは計り知れない。厄介者は放出-という歴史を繰り返せば、これから阪神のスカウト陣は有望な高校生選手に対して、どうアプローチすればいいのだろうか。

矢野監督は7日、取材に応じ、3選手が新型コロナウイルスに感染したことを謝罪した上で、こう話した。
「未来は俺らで変えられる。それをどうしていくか、チームとしても個人としても考えていかないと。みんな苦しんでいる状況だからこそ『阪神、優勝して感動させてくれた』とか『あれがあったから前を向けたな』とか、言えるようになる」

藤浪も退院後、こうコメントしていた。「今後はプレーでファンの皆さまの期待に応えることができるように、より一層野球に精進してまいります」。

阪神ファンは藤浪が好きなのだ。だから、心配なのだ。こんなもんじゃないと思っている。期待しているから、ついついキツく当たってしまうのだ。
シーズン開幕が決まれば、ぜひ山本昌氏を巡回コーチとして再招へいし、球団を挙げて、藤浪の再起を徹底サポートしてもらいたい。コロナウイルスから立ち上がる日本の先頭に藤浪が立っている姿をぜひ見てみたい。

大澤謙一郎

著者プロフィール 大澤謙一郎

サンケイスポーツ運動部長(大阪)。1972年、京都市生まれ。アマチュア野球、ダイエー(現ソフトバンク)、阪神担当キャップなどを務め、2018年10月から現職。1999年ダイエー日本一、2002年サッカー日韓W杯、2006年ワールド・ベースボール・クラシック(日本初優勝)、阪神タイガースなどを取材。趣味マラソン、フットサル、登山。