総会後も各議案に対する賛成票と反対票の数が開示されなかったとの批判を受け、JGTOは4月7日に「第8回定時社員総会についてのご報告」というタイトルで決議事項を報告するとともに、賛成票と反対票の数も公表した。

その票数を見ると、JGTOの定時社員総会がどういった理由でゴタゴタしたのかが一目瞭然だ。決議事項の中で反対票が多かったのは、第2号議案の「2019年度決算報告に関する件」と、第3号議案の「理事18名選任の件」における上田昌孝専務理事の項目。いずれも賛成97票に対して反対86票と賛否が拮抗している。

一方、それ以外の議案については、総数183票のうち賛成177~182票、反対1~6票と、賛成が大多数を占めている。

つまり、多くの選手は上田専務理事の言動や予算の使い方に対して不信感を抱いていたことになる。

■必要とされる改革

上田専務理事は1955年生まれの実業家。銀行勤務を経て、クレジットカード会社に転職。その後、アメリカンホーム保険会社会長、セシール会長を歴任。現在は公益社団法人会社役員育成機構の理事などを務めている。青木会長とはクレジットカード会社時代に知り合い、2018年9月にJGTOの改革を手伝うため専務理事に就任した。

ところが、改革の目玉企画として2019年3月にスタートした「JGTOゴルフFAN!プロジェクト」をめぐって、上田専務理事から選手たちに不信感を抱かせる発言があったと関係者は語る。

「JGTOゴルフFAN!プロジェクト」とは、活躍が期待される若手選手を中心にJGTOの注目メンバーをクローズアップし、ファンとの交流イベント、トーナメントの観戦ツアー、懇親会、レッスン会、プロアマなどを開催したもの。

発言に対して上田専務理事はすでに謝罪したと前出の関係者は語るが、そのときのわだかまりが原因で、決算報告と上田専務理事の選任に多くの反対票が投じられたようだ。

ただ、結果的に賛成票が反対票を上回ったということは、選手たちも「2019年度のやり方や予算の使い方が正しいかどうかは別にして、何らかの改革を行わなければ男子ツアーは今のままではマズイ」という危機感を抱いているのだろう。

■ファンに応援してもらうためには

2014年に松山英樹が日本ツアーを離れ、PGAツアーを主戦場にして以来、男子ツアーの人気は低迷している。2007年から2012年まで人気の中心だった石川遼に加え、松山まで渡米したことで注目度が急落した。

その後、石川はPGAツアーのシード権を失い、2018年に日本ツアーに復帰したが、かつての集客力を取り戻すには至っていない。2019年シーズンは年間3勝を挙げ、大車輪の活躍を見せたが、それでもツアーの人気回復につながっていないのが悩ましいところだ。

石川以外の若手選手が育っていないわけでもない。2019年シーズンは浅地洋佑、大槻智春、堀川未来夢、比嘉一貴といった20代の選手が初優勝を挙げ、21歳の金谷拓実は11月の「三井住友VISA太平洋マスターズ」でアマチュア優勝を成し遂げた。

だが、2019年のゴルフの話題と言えば、渋野日向子が「AIG全英女子オープン」で海外メジャー制覇という快挙を達成した印象が強烈すぎて、他の話題はすべて吹き飛ばされてしまった。

女子ツアーの人気が高いから、男子ツアーの人気が相対的に低くなっているという側面もあると思う。ただ、過去には男子ツアーも女子ツアーも人気を集めていた時代があるので、それだけが原因とは言えない。

このところゴルフファンから「女子ツアーには応援したくなる選手がたくさんいるが、男子ツアーには応援したくなる選手があまりいない」という声をよく聞く。

男子ツアーもそういった声を耳にしていたからこそ「JGTOゴルフFAN!プロジェクト」を立ち上げたのだろうが、今後もさまざまな観点からファンに応援してもらうためにはどうしたらいいかを考え続ける必要があるだろう。

■当たり前ではない状況だからこそ

新型コロナウイルス感染拡大の影響で、2020年はあらゆるスポーツイベントが中止や延期を余儀なくされている。

中央競馬など一部のスポーツイベントは無観客で開催されているが、やはりファンがいるのといないのとでは雰囲気が全然違う。

男子ツアーも新型コロナウイルス感染拡大防止に関する緊急事態宣言および現在の感染状況を鑑み、少なくとも5月31日までトーナメントを一時休止すると発表している(4月9日時点)。

選手やツアー関係者はもどかしい日々を過ごしていると思うが、スポーツイベントを開催できるのが当たり前のことではなく、ファンに応援してもらえるのが当たり前ではない状況だからこそ、今までと違った気持ちでゴルフトーナメントを見つめ直すことができるかもしれない。

そして感染拡大が収束し、ゴルフトーナメントが開催できる状況になったら、より多くのファンに応援してもらえるような新しい取り組みにどんどんチャレンジしてほしい。


保井友秀

1974年生まれ。出版社勤務、ゴルフ雑誌編集部勤務を経て、2015年にフリーランスとして活動を始める。2015年から2018年までPGAツアー日本語版サイトの原稿執筆および編集を担当。その他、ゴルフ雑誌や経済誌などで連載記事を執筆している。