選手兼アシスタントデザイナー

新生・埼玉ブロンコスのモーガンが、珍しい契約形態で来季に臨むことになった。それが“二足のわらじ”契約。その肩書は「選手兼アシスタントデザイナー」というもの。モーガンは今回の契約について「前向きに捉えています」と迷いなく言い切る。

今年3月に埼玉ブロンコスのオーナーに就いた池田氏は、ベイスターズを5年間で屈指の人気球団へと変貌させた人物。今回も早速、クラブスタッフを総入れ替えするなど、経営手腕を発揮するべく改革に着手している。その中で、まず重視したというのが選手との契約形態。池田オーナーは、「新型コロナウイルスの影響でクラブ経営も先行きが分からない中、より一層経営の戦略を理解してもらうことの重要性が高まっています。“二足のわらじ”を理解してくれて、将来のブロンコスを背負ってくれる可能性のある選手と契約を更新する運びとなりました」と説明する。

そして、選手兼アシスタントデザイナーとして来季の契約を結んだのがモーガン。自身のアパレルブランドを手掛けてきた経験を生かし、今後はチームグッズのTシャツ、タオルなどをデザインする計画がある。ハワイ出身のモーガンは、池田オーナーのこれまでの実績については「あまり詳しくは知らなかった」というが、「池田さんが『(デザインを)手伝ってくれますか』と言ってくれて、うれしかった。そこでも自分の経験をチームに還元したいと思いました」と、選手以外の部分でも評価してくれた新オーナーに、大きな刺激を受けたことを明かす。

「良いオーナーだと思いますね。チームの新しいロゴ、カラーとかも考えていて、いいチームとして育てたいと思っていることを強く感じます。自分が何をしたい、どういうイメージにチームをしたいというのが分かっている人だなという印象です。こういうチームをつくりたいというのが明確にある人。2回目のZoomでの会談の時にオファーをされたときは、すごくありがたかったですね」

デザインを独学で学び、立ち上げた自身のアパレルブランドでは月の生活の足しになるレベルでは副収入があるという。「バスケットボール選手としての人生は短い。バスケットもできて、ブロンコスのためにデザイナーの勉強もできる。選手としての人生が終わった後に何ができるかと考えると、これはすごくいいチャンスだと思う。自分の会社のブランドではデザインしていますが、他の人に依頼されてデザインする仕事はまだやったことがない。こういうチャンスはめったにないと思います」と目を輝かせる。

身長175センチとバスケットボール選手としては小柄だが、抜群のジャンプ力から繰り出すダンクが武器。自身のSNSでアップしたダンクの映像が注目を集め、インスタグラムのフォロワーは4万人超を抱えるほど。そんな発信力にクラブ側も目を付け、情報発信者としてチーム公式SNSアカウントのディレクション、さらには試合前などの「ダンク担当」も務めることが契約に盛り込まれている。

「試合前のアップでダンクをする役割です。勿論試合でもチャンスがあれば狙っていきますが(笑)。まだ特に決まりはないですが、試合に来てくれるファンを盛り上げるためにもダンクはやりたいですね。僕の身長でダンクできる人はなかなかいない。小さくてもダンクができるんだということをアピールしたいですね」

ベストな選手ではなかった

実にサービス精神旺盛なモーガンだが、その源泉は自身の幼少期にある。

「自分は高校とか大学の時も、ベストな選手ではなかった。でも、ベストな選手になることを目指して頑張ったらプロになれる、ということを自分は信じてやってきました。それをどういう風に子供たちに伝えられるかなと思っています。Tシャツをつくって、ダンクの動画を載せて、全てはそんな思いから始まったものです。最初はバスケット選手に憧れてほしい、興味を持ってほしいという気持ちが強かったんですけど、バスケットだけじゃなく、自分が夢を持っているなら、そこに向かって頑張ったほうが良いということを周囲に伝えたいと思っています」

池田オーナーは、サッカーに続くスポーツ文化としてさいたまにバスケットボールを根付かせ、普及させ、地域活性化につなげたいとの思いを抱いている。こうしたモーガンの取り組み、考え方は、まさにオーナーの哲学と通じるものがある。

「今まで、ほとんどの所属したチームは会社みたいな感じで、僕にとって今回のようなことは初めての経験。もっと頑張りたいし、楽しいチームをつくれる感じがしています」

また、池田オーナーが構想する、子供たちにバスケットボールを教えるスクール活動などにも積極的に取り組む意向だ。

「バスケットを広げる、チームのファンを広げることができると思うので楽しみ。プロの選手からバスケットを習う機会もなかなかないと思うし、僕も子供の時にそういう経験はなかった。すごくいいことだと思いますね。ブロンコスとして、それができるのは選手としてもハッピーです」

ちなみに、そんな子供たちに代わって「ダンクのコツ」を聞くと「僕の場合は、8歳くらいからジャンプの練習をよくやっていて、高校に入ったら毎日跳んでいました。筋トレとかも必要ですが、リングめがけて毎日ジャンプを20回するとかが一番だと思う」と明かしてくれた。

「デザイナーとしての仕事も、まだ今は想像できないですけど、アイデアを考えていこうと思っています。いつB3が開幕できるかは分からないですけど、ブースターの皆さんが我慢して、やっと試合に来られるようになった時に、試合がない時期にこれくらい努力していたんだということをアピールできるようなプレーをしたいと思っています。頑張ります!」

池田オーナーのもと、7月から本格的に新たなスタートを切り、チームの再建と地域を巻き込んだプロジェクトに着手していく埼玉ブロンコス。池田オーナーの“二足のわらじ”戦略を理解し、全力で取り組もうと意気込むモーガンの熱い思いもまた、チームの大きな推進力となりそうだ。



【プロフィール】
モーガン・ヒカル・エイケン
1994年7月15日生まれ、25歳。米ハワイ州出身。テキサス大からbjリーグ・秋田ノーザンハピネッツ、B3東京サンレーヴス、B2香川ファイブアローズを経て2019年から埼玉ブロンコスでプレー。今季から選手兼アシスタントデザイナーとして契約。175センチ、72キロ


VictorySportsNews編集部