Kリーグは2013年にリーグ創設30周年を記念して「Kリーグ・レジェンドベスト11」を発表しているが、GKシン・ウィソン、DFにはチェ・ガンヒ、キム・テヨン、ホン・ミョンボ、パク・キョンフン、MFにキム・ジュソン、シン・テヨン、ユ・サンチョル、ソ・ジョンウォン、FWにチェ・スンホ、ファン・ソンホンらが選ばれている。

 Jリーグ開幕前に行なわれていた「日韓定期戦(1972年〜1991年)」を知るオールドファンたちの間では、ホ・ジョンム、チョ・グァンレ、チェ・スンホ、キム・ジュソンらの名前が上がるかもしれない…と、かなりマニアックで収拾がつかなくなるが、少なくともこの3人を選んでおけば間違いはないだろう。

 チャ・ボングン、パク・チソン、ソン・フンミンだ。世代によって異なるが、韓国ではこの3人の中から「歴代最高選手」が選ばれることが多い。

■ヨーロッパにおける韓国人選手の系譜

 50代以上のサッカーファンたちの間で圧倒的な支持を集めているのは、チャ・ボングンだ。1979年にフランクフルトに入団して韓国人として初めてヨーロッパに進出。83年からはバイヤー・レバークーゼンに移籍し、87-88年UEFAカップ優勝も経験した。

 ドイツ在籍10年間でブンデスリーガ通算98ゴールを含む通算121ゴールを決めて、国際サッカー歴史統計連盟(IFFHS)から「20世紀を代表するアジア選手」と表彰されたこともある。韓国代表としても歴代最多出場(135試合)・最多得点(58得点)の記録保持者だ。

 このチャ・ボングンが「20世紀韓国サッカーの最高選手」とすれば、パク・チソンは21世紀の韓国サッカー新時代を切り開いた英雄だろう。

 明知大学を休学して2000年に京都サンガに入団してJリーグでプロキャリアをスタートさせたパク・チソンは、2002年ワールドカップで大活躍。当時の韓国代表を率いたフース・ヒディンク監督にその成長ぶりを買われて2003年からオランダのPSVアイントホーフェンに移籍して欧州進出すると、2006年には韓国人選手として初めてイングランドの名門マンチェスター・ユナイテッドに引き抜かれて“赤い悪魔”の一員になった。

 2012年-2013シーズンのみQPRレンジャーズでプレーしたが、プレミア在籍8シーズンで154試合19得点21アシストを記録。韓国では2006年以降、イ・ヨンピョ(トッテナム)、ソル・ギヒョン(レディンク、フラム)、イ・ドングッ(ミドルスブラ)、キム・ドウヒョン(ウェストプロムヴィッチ)、チョ・ウォニ(ウィガン)、イ・チョンヨン(ボルトン、クリスタルパレス)、チ・ドンウォン(サンダーランド)、パク・チュヨン(アーセナル)、キ・ソンワン(スウォンジー、サンダーランド、ニューカッスル)、ユン・ソギョン(QPR)、キム・ボギョン(カーディフシティ)など多くのプレミアリーガーが誕生しているが、それもパク・チソンがもたらした功績だと言っても過言でもないだろう。

 そしてこの韓国人プレミアリーガーの系譜を受け継ぎ、今や「現役最高」と称されているのがソン・フンミンだ。

■現役最高と称されるソン・フンミン

 18歳だった2010年にドイツ・ブンデスリーガのハンブルグSVでプロデビューしたソン・フンミンは、2013年からかつてチャ・ボングンも所属したバイヤー・レバークーゼンでも活躍。ブンデスリーガ5シーズンで135試合41得点9アシストの実績をひっさげ、2015-2016年シーズンからプレミアリーグのトッテナムに移籍。1年目こそ28試合4得点と適応に苦しんだが、2年目からはゴールを量産し、昨季まで3年連続二桁ゴールを記録。韓国人として初めてFIFAバロンドールの最終候補者27名にも名を連ねた今季も9得点を挙げるだけではなく、偉大な先人たちの記録を次々と塗り替えている。

 例えば得点記録だ。ヨーロッパ進出した韓国人の歴代最高記録はチャ・ボングンが持つ通算121得点だったが、ブンデスリーガとプレミア、さらにはカップ戦やUEFAカップ戦など試合数が多いソン・フンミンは、2019年10月にその記録を塗り替えてしまった。現時点で134得点にまで伸ばした記録は、まだまだ伸びていくだろう。

 プレミアリーグでの出場試合数でもパク・チソンを超えた。パク・チソンはプレミアリーグ154試合に出場し、UEFAチャンピオンズリーグでも65試合5得点を記録しているが、現在進行形のソン・フンミンはプレミア通算158試合出場。チャンピオンズリーグは通算59試合22得点だが、それが更新されるのも時間の問題だろう。

 こうした記録更新により、最近は「ソン・フンミンこそ韓国サッカー史上最高の選手」という意見が多いが、ソン・フンミンには欠けているものがある。優勝タイトルがそれだ。

 チャ・ボングンはフランクフルトとバイヤー・レバークーゼンで2度のUEFAカップ優勝を経験しているし、パク・チソンはマンチェスター・ユナイテッド時代にリーグ優勝4回、UEFAチャンピオンズリーグ優勝2回を経験しているが、ソン・フンミンはブンデスリーガでもプレミアリーグでも優勝経験がない。昨季は韓国人選手としてはパク・チソン以来8年ぶりにUEFAチャンピオンズリーグ決勝のピッチに立ったが、準優勝で涙を飲んだ。

 こうしたことから「個人記録ではソン・フンミンが史上最高だが…」という一言がついて回るが、ソン・フンミンがチームタイトルを手にした暁には誰にも難癖がつけられない正真正銘の「史上最高の選手」になるだろう。

 そして、まだ28歳と若く、選手として脂が乗ってきたソン・フンミンにはその可能性が十分にある。プレミアリーグとUEFAチャンピオンズリーグでアジア人最多得点保持者でもあるソン・フンミンが韓国だけではなく、アジアサッカー史上最高の選手になる日もそう遠くはないかもしれない。


慎 武宏