これは何も最近だけの話ではなく、黄金時代と呼ばれた1990年代などはその典型と言っていい。1993年に15年ぶりの日本一に輝いてからは日本一と4位を繰り返すのだが、Bクラスに落ちて前評判が下がったところで、これを覆してまた日本一まで上り詰めるのが、野村克也監督時代のヤクルトだった。

 今シーズンも開幕前の順位予想では、圧倒的に多かったのが「セ・リーグ6位=ヤクルト」。なにしろ昨年は5位の中日ドラゴンズにも9ゲーム離されての最下位である。高津臣吾二軍監督を新監督に据えて心機一転とはいえ、大掛かりな補強をしたわけでもなく、むしろ球団歴代2位の通算288本塁打を誇るウラディミール・バレンティンが福岡ソフトバンクホークスに移籍したことで、攻撃面のマイナスを指摘する声も多かった。

 ところがフタを開けてみると、開幕から本拠地・神宮で行われた15試合を7勝7敗(雨天中止が1試合)の五分で終えたヤクルトは、続く7月7日の中日戦(ナゴヤドーム)から12日の読売ジャイアンツ戦(ほっと神戸)にかけて引き分けを挟んで4連勝。これで巨人を抜いて、昨年4月20日以来の単独首位に躍り出た。

■中継ぎ陣の奮闘

 好調の要因は、攻守のバランスが取れてきたことにある。昨年のヤクルトは、投手陣が両リーグワーストのチーム防御率4.78と苦しみ、失点は1試合平均5.17。打線はチーム打率.244でリーグ最下位ながら同2位の656得点(1試合平均4.59得点)をたたき出していたが、「得点<失点」なので当然勝つ確率は低くなる。

 翻って今シーズンは、首位に立った7月12日の時点で1試合平均得点4.84に対し、失点は同4.79。「得点≒失点」であり、勝って当たり前と言える数字ではないものの、勝っても不思議ではないというところまで改善されていたのである。着目すべきは、投手陣だろう。その時点でチーム防御率4.24はリーグ4位と飛び抜けて良いわけではなかったが、救援陣に限ればダントツの3.59。特に23歳の清水昇、いずれも21歳の梅野雄吾、寺島成輝、長谷川宙輝といった若き中継ぎ陣の奮闘が目に付いた。

 そもそも高津新監督は、現役時代は球団記録の通算286セーブをマークした「燕の守護神」である。今春のキャンプを前に「僕もずっとリリーフをやってきたので、そういう意味ではリリーフを固めて少ない点差で逃げ切るっていうのができないと、強いチームじゃないと思っています。もちろん先発も大事ですけど、それ以上にリリーフはしっかりしたものを固めていきたいなっていう気持ちはあります」と話していたように、ブルペンに対するこだわりは人一倍強い。

 一軍投手コーチを務めていた2015年には、オーランド・ロマン、ローガン・オンドルセク、トニー・バーネットという3人の外国人投手でゲーム終盤を固めるという大胆な発想で、投手陣を立て直してリーグ優勝につなげたこともある。ただし、この時も最初から「勝利の方程式」が固まっていたわけではなく、抑えがバーネットに決まったのが開幕直前なら、開幕ローテーションに入っていたロマンが、調子の上がらない秋吉亮(現日本ハム)に代わってセットアッパーとして定着したのは、5月も半ばになってからのことだった。

 今シーズンも当初は7回=梅野、8回=スコット・マクガフ、9回=石山泰稚という「方程式」でスタートしたが、マクガフが結果を残せずに苦しむと、開幕から無失点を続けていた清水を「8回の男」に抜てき。清水は7月16日の阪神タイガース戦(甲子園)で今季登板12試合目にして初めて失点し、黒星を喫したものの、7ホールドはリーグトップ。梅野がこれに次ぐ6ホールドで、チーム全体では2位以下を大きく引き離す28ホールドを記録している。

■守備の改善と若き4番

 もっとも「失点」が減ったことについては、リリーフ陣を中心とした投手陣の健闘と併せ、守備の向上も見逃せない。バレンティンの退団により、外野では俊足で守備範囲の広い山崎晃大朗の出番が増え、昨年はレギュラー不在の状態だったショートには、メジャーでゴールドグラブ賞受賞経験のある新外国人のアルシデス・エスコバーが収まった。プロ入り後に取り組んだ三塁の守備で苦労していた村上宗隆も、今季は驚くほどの成長を見せている。

 その結果、昨年はチーム守備率リーグワースト、失策数も2番目に多い97を数えたのが、今シーズンはここまで守備率.989で2位の横浜DeNAベイスターズと僅差の3位、失策数は2番目に少ない9つ。さらに併殺数は両リーグ最多の29と、守りでも投手陣を盛り立てている。

 一方でバレンティンが抜けた打線は、今のところ得点力では昨年を上回る。これはなんといっても昨年の新人王、20歳の村上が4番バッターとして機能していることが大きい。昨年は36本塁打、96打点をマークしながらも得点圏打率は.252だったが、今年は得点圏に走者を置いた場面で.481と勝負強さを発揮し、24打点はリーグ1位。村上自身「僕の前の先輩方が出塁してくれるんで」と言うとおり、1番の坂口智隆が.430、3番の青木宣親は.391と上位が高い出塁率を誇っているからこそだが、若き4番が彼らをしっかりとかえしていることになる。

■今後の課題は

 一度は首位に立った後、7月14日からの対阪神3連戦を1勝2敗で負け越したヤクルトは現在、貯金3で2位。今後の課題はどこにあるのか? 投手陣でいえば、気になるのはリリーフ陣の“登板過多”だ。ヤクルトの先発陣は開幕からの22試合中、5回を持たなかったのは4試合だけで、序盤から試合を壊すケースは少ないものの、5回でマウンドを降りたゲームも8試合ある。勢いブルペンは忙しくなり、ヤクルトの救援陣はここまで中日の89イニングに次ぐ87イニングを投げている。

 もちろん首脳陣はブルペンを疲弊させないよう気を配っているだろうが、長いイニングを投げる先発が出てこないことには、やりくりは相当難しくなってくる。ちなみに今季、先発で最も長いイニングを投げたのは、6月21日中日戦の山田大樹(現在は二軍で再調整中)と6月25日阪神戦の高梨裕稔で7回。ここは昨季、チームで唯一の規定投球回到達を果たし、通算で13完投をマークしている小川泰弘に、メジャーリーグでいうところの「イニングイーター」になってほしいところだ。

 打線で気がかりなのは、今月に入って打率.146、0本塁打と精彩を欠き、15、16日と続けて試合を欠場した山田哲人。欠場はこの先のシーズンを見据え、疲労を考慮した積極的休養のようだが、「2番・山田」は攻撃面において高津野球の目玉。少しでも良い状態で、ラインナップに戻ってくることを期待したい。

 6月19日の開幕から約1カ月。シーズンはまだ100試合近く残っているが、ヤクルトが“定説”どおり下馬評を覆すことができるか、今後もその戦いに注目だ。
(了)


菊田康彦

1966年、静岡県生まれ。地方公務員、英会話講師などを経てメジャーリーグ日本語公式サイトの編集に携わった後、ライターとして独立。雑誌、ウェブなどさまざまな媒体に寄稿し、2004~08年は「スカパー!MLBライブ」、2016〜17年は「スポナビライブMLB」でコメンテイターも務めた。プロ野球は2010年から東京ヤクルトスワローズを取材。著書に『燕軍戦記 スワローズ、14年ぶり優勝への軌跡』、編集協力に『東京ヤクルトスワローズ語録集 燕之書』などがある。