■ついにバレット。レイドローも!

 ビッグニュースに慣れたファンも多いのではないか。

 2003年に国内最高峰トップリーグができた日本ラグビー界では、野球界でいう「アレックス・ロドリゲス、読売ジャイアンツ入り」に相当する大物加入例が相次いでいた。最近では2018年、元ニュージーランド代表として2015年までにワールドカップ(W杯)2連覇のダン・カーターが神戸製鋼に加入。チーム15季ぶりの優勝に喜んだ。

 2021年1月開幕予定の新シーズンへは、ニュージーランド代表83キャップ(代表戦出場数)でワールドラグビー年間最優秀選手に2度選出のボーデン・バレットがサントリー入り。神戸製鋼もベン・スミス、アーロン・クルーデンといったニュージーランド代表経験者を招いた。

 NTTコムにやって来るのは、元スコットランド代表主将のグレイグ・レイドローだ。シーズン日程の変更や昨今の感染症拡大による社会構造の変化もあってか、それまで縁の薄かった欧州勢も東アジアに誘われる。他にも、W杯日本大会で優勝した南アフリカ代表選手が新たにサインしたとのニュースが続く。

 ここにあるのは、逸材がこの国へ来る、もしくはこの国が逸材を招く明確な理由である。

■評判が評判を呼んだ?

 2019年に就任したサントリーの脇健太ゼネラルマネージャー(GM)は、2020年まで約3年在籍したマット・ギタウに施設面の要望をヒアリングしたことがある。

 オーストラリア代表103キャップを持ち、母国のほかフランスでもプレー経験のある戦士は首を横に振った。

「僕がいままでいたクラブのなかでも最高の環境だ」

 サントリーは東京都府中市に天然芝グラウンドにジム、ロッカー、ワーキングルームまでついたクラブハウスを持つ。そう。世界的な選手が日本を選ぶ理由には、優れたトレーニング環境が挙げられるのだ。

 ワールドクラスの設備を持つチームには他に、NTTコムがある。2018年に千葉県浦安市に天然芝グラウンド2面、プールや巨大ジムなどを完備したクラブハウスのある「アークス浦安パーク」を作った。関係者によれば、レイドローはW杯日本大会時にこの施設を訪れ、大企業の支援で成り立つ運営モデルに関心を抱いたという。

 過去には当該選手の出身国と日本とのレベルの差を指摘する声も多かったが、現在、日本ラグビー界の優れた点もお世辞抜きで共有されつつある。NTTコムの内山浩文GMは、昨シーズン契約した南アフリカ代表のマルコム・マークスからの言葉を記憶する。

「こんなにスキルフルな練習は過去にしたことがなかった。今後のレベルアップに向けすごくいい経験をさせてもらえた」

 さらには日本代表が初めて8強入りしたW杯日本大会ではホテル、飲食店の手厚いもてなしも注目された。ちなみに歴代の南アフリカ出身者からは、極東の治安の良さを喜ぶ声も聞かれたものだ。

 加えてニュージーランドとの時差は通常3時間。欧州よりも行き来が容易なうえ、2019年までは国際リーグのスーパーラグビーとトップリーグの日程が重なっていなかったため、「二期作」も可能だった。

 練習がしやすく、試合の質は高まってきていて、何より住み心地がいい。ここに恵まれたサラリーが加われば、実力者が日本に職場を求めるのは自然かもしれない。

 そしていまは、実際に日本を体験した選手の口コミ効果もあるようだ。内山GMは付け足す。

「去年の12月、我々が提携するLOUラグビークラブ(フランス・リヨン)の選手が、異文化に触れる目的で来日。うちとパナソニックの練習試合を見て、『こんなにレベルが高いの?』とびっくりしていましたよ。クラブレベルのサポート、日本のおもてなしといったラグビー以外の付加価値も選手マターで伝わっていると思います」

■獲得前に必要な「調査」とは

 来日したい選手が増えていると言っても、その全てが来日できるわけではない。

 サントリーは、採用を検討する選手の試合中の働き以外の影響力を厳しく調査する。結果として、通算5シーズン在籍したオーストラリア代表111キャップのジョージ・スミスは得意技の「ジャッカル(接点のボールに絡み、もぎ取る動き)」の手法などを当時いた同ポジションの日本人選手へ伝授。互いに助け合う文化を支えた。

 いわばチームの命ともいえるリサーチ業務には、クラブの元監督で現イングランド代表指揮官のエディー・ジョーンズ・ディレクターオブラグビーも寄与しているそうだ。脇GMは「ケースバイケース」と前置きし、述べる。

「エディーさんは世界中にネットワークを持っている。『彼のラグビーに取り組む姿勢は?』『彼はサントリーのラグビーに合うか?』といった、代理人からでは得られないアドバイスをいただいているところもあります」

 注目のバレット獲得の背景については、「チームを引っ張ってくれたギタウの後継者として、そのポジションのできる選手を探す必要がありました。そのなかで代理人から提案を受けた。昨年のW杯前に僕が1人でニュージーランドに行ってチームフィロソフィーを伝えたら、本人はすでにインターネットなどで我々の情報を知ってくれていました」。外国人選手補強の哲学については、こうも付け足す。

「日本の選手が彼らと一緒に練習、試合、生活をすることで、世界レベルの選手の練習態度、準備への姿勢、ラグビーナレッジを吸収して成長に繋げる…。それが外国人選手を採る理由のひとつになっています。一方、日本代表として活躍したい選手は彼らを学ぶ対象であると同時に『ここを超えたら世界レベルになれる』と捉えてくれている。学びの部分、目標としての部分、両方の側面があると感じます」

 外国人選手の獲得を戦力補充のみならずチーム全体の底上げに繋げたがるチームは、年を追うごとに増えているような。

 神戸製鋼はカーターを呼ぶのに先んじて、ニュージーランド代表のアシスタントコーチのウェイン・スミスを総監督に招聘している。この人もジョーンズと同じく、日本へのアプローチを試みる母国出身者の内部情報に精通しているのだろう。福本正幸チームディレクター(TD)は「外国人の補強ポイントについてウェインと相談しながら決めていきます」。自身の就任前の補強事情については言及しづらいのを前提としながら、こうも続ける。

「(今回加わった)2人とも人間性に優れ、リーダーとして引っ張っていってくれるだろうと聞いています。ウェインが見るのは、そこなんです。『プレーが凄いのは、見ればわかるだろう』と。過去には『試合で活躍するから練習は…』という風に特別扱いされるような外国人もいたかもしれませんが、ウェインが来てからはそれもなくなりました。いまのコーチ陣のもとでは、練習から100パーセントの力を発揮しないと試合で使ってもらえなくなりますから」

 この談話からは、サントリーが過去のトップリーグで通算5度も優勝したわけと2018年の神戸製鋼が頂点に立ったわけとの共通点が伝わる。いずれも選手が献身的でないと居づらい空気を作りながら、献身的な実力者と契約しているのだ。

■新リーグへの波及効果は?

 グラウンド内のみならず、グラウンド外にもプラスアルファをもたらしたいのはNTTコムの内山GMだ。何度も日本代表と対戦してきたレイドローの持つ物語性、キャラクターにも注目。知名度、長らく代表チームの主将を張り、複数国のリーグを経験してきた点にこんな期待を寄せる。

「彼の象徴的なキーワードとして、リーダーシップ、キャプテンシーが挙げられます。彼は交渉時にも『全員が団結し、共通した目標を持つことの重要性を理解している(のが重要)』といった内容のことを話していましたが、それは会社組織にも通じる話です。いままでラグビーの強化のために来ていた選手を(チームの外にも)オープンにして、クラブを活用した地域連携活動、管理職者向けの講演活動などにタイアップできるのではと考えています」

 この国では2022年1月以降、従来のトップリーグと異なる新リーグが発足予定。クラブの事業性(チケット販売などによる利益の確保)や地域活動がこれまで以上に求められる。内山GMは「(自軍の新リーグに向けた計画を、レイドローらが)一流の目線で評価してくれるのはプラス」とも語ったうえで、こうも続けた。

「ラグビーの価値を僕らが届けていかないと。せっかくW杯をやったのに、伝えられる人が誰もいなくなったらもったいない!」

 閉塞した世の中でこの競技のよさを再提示するのも、いまのスター選手に課せられた使命なのかもしれない。

向風見也

著者プロフィール 向風見也

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年にスポーツライターとなり主にラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「Yahoo! news」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。