新型コロナウイルスの影響による4カ月以上の中断から7月に再開したJ1は、10月31日に今季の大会成立が確定した。8月に鳥栖、直近では柏で新型コロナの集団感染が起きて一部混乱もあったが、前例のない過密日程を組んで、再開前に設定した全306試合の75%以上を消化する条件をクリア。これにより、順位決定と賞金の支給が行われることも決まった。
見通しの立たない収入
今季はコロナによる無観客試合の開催やその後の入場者数の制限によって、クラブ収入の大きな柱となる入場料収入が激減。Jリーグによると、今年度はJ1、J2、J3の全56クラブの約8割で赤字を見込み、このうち約4割が債務超過に陥る危機的な状況にある。優勝経験のある強豪クラブにおいて、今季の勝利給を半額前後に下げた対応を見てもその窮状が分かる。来季も以前のように、シーズン開幕直後からスタジアムを満員にした開催は考えにくく、入場料収入の見通しを立てることはままならない。さらに、コロナ禍で打撃を受けたスポンサーの撤退なども追い打ちを掛けている。こうした惨状にあって、選手、監督らの人件費を含む強化費の編成も難航しているが、「億単位」の削減はやむを得ないのが現状という。
「あるクラブでは、ベテランをばっさり切ると聞いている」「元日本代表クラスの選手に50%減を提示しているようだ」「小規模クラブでは、戦力獲得よりも選手を放出することを優先している」。複数のクラブ関係者らからは、不穏な声が聞こえてきている。特にこの「50%減」が何を意味するか。レギュラークラスに対して出されたのであれば、「戦力外通告」に等しい扱いと言える。
早々に債務超過の見込みを公表した仙台では兵藤慎剛らベテランの一掃、阿部勇樹、柏木陽介、槙野智章ら高年俸の元日本代表クラスを抱える浦和では若返りへさらに舵を取ることが噂され、C大阪ではU23(23歳以下)チームの整理を進めるとの見方だ。J2ではG大阪から磐田へ期限付き移籍した遠藤保仁の動向にも注目が集まるほか、新型コロナの影響で3億~4億円の減収が見込まれる東京Vは、現状のままでは元日本代表のストライカー、大久保嘉人を抱えきれないと取りざたされている。
サッカー界では、クラブがベテランに対して単年契約、有望な若手、中堅には複数年契約を結ぶ傾向がある。この単年契約の選手は、これから厳しい交渉が待ち構えている。これまでは出場時間が限られていても、チームの「顔」として抱えることできていたベテランも例外ではないという。ある代理人は「クラブの『広告塔』になっているベテランも、これまでのようにその役割を求めて契約を更新するのは苦しい。シビアにいくクラブもあるはず」と見ている。
厳しい現実
新型コロナの影響はベテランだけにとどまらず、主力クラスも厳しい現実と向き合うことになりそうだ。「今季でいくら結果を残していたとしても、現状維持が最高に近い評価になるのではないか。引き留めたい選手であっても、ダウン提示もあり得ると思っている。『厳しい日程を戦って結果を残したのになんで?』となって、他クラブの評価を聞こうとする選手も出てくるだろうけど、今年に限らず来季以降を含めて、どのクラブも財政的に厳しい。現状より高い年俸で獲得してくれるクラブが、どのくらいあるか。現実に目を向ければ、今年の年俸アップは割り切って諦めて、出来高を加えてもらうとかするしかないだろう」と、別の代理人は見解を示す。誰もこの新型コロナの影響を予想することはできなかっただけに、今季前に複数年契約を選択していた選手は結果的に救われた形と言えるだろう。
今季は川崎が無類の強さを誇って首位を独走して史上最速の優勝が目前に迫り、降格のない下位チームではどこか緊張感の欠いた試合も見られる終盤戦になっている。だが、来季のJ1は20チームでの戦いとなって試合数が増え、降格も復活。長丁場となる本来の厳しいリーグ戦に向けて、チーム側もある程度の戦力を確保しなくてはならない。これに関しては、新型コロナの影響で今年導入された5人の交代枠が来季も継続されるかが、一つのポイントになりそうだ。他クラブでは優にレギュラークラスとなれる選手がベンチ要員を占める川崎や横浜Mなどは、3人交代では出番に恵まれなかったはずの選手の出場が格段に増えた事実がある。来季以降、レギュラーとしての出場機会を求めて移籍を探るこうした選手たちを、どう引き留めるかにもクラブ側は頭を悩ませている。
来季の観客動員の動向が読めない上に、過密日程や、柏の集団感染によるルヴァンカップ決勝の開催中止(代替開催日未定)とリーグ戦日程の再調整なども影響して、各クラブでは大幅に契約交渉が遅れているという。来季は例年に比べて早い2月上旬の開幕が見込まれるが、「ほとんどの選手は契約がまとまらずに年を越す可能性がある」と、あるクラブ関係者は言う。来年1月のキャンプイン後に契約更新や移籍のニュースが相次ぐ前例のない事態となりそうだ。