私自身も20代でゴルフを始めたが、2000年当時のゴルフの教えは「ボールを打ったらクラブを3本持って走れ」というもので、最初はゴルフがあまり好きになれなかった。今はそういった体育会系の教えはよくないということが広く知られるようになり、乗用カートが普及したことでクラブを3本持って走るよりもカートに乗ったほうがプレーの進行がスムーズなケースも多くなっている。ゴルフ本来の楽しさを満喫できる環境が整っているので、できるだけ多くの若者がゴルフを好きになり、長く続けてほしい。

さて、ゴルフを始めたばかりのころはゴルフ練習場やゴルフ場へ行っても何をしたらいいのか分からず、ゴルフショップへ行っても何を買ったらいいのか分からなかった。そんなとき先輩が、ゴルフクラブに関するアドバイスはいろいろくれるのだが、ゴルフボールに関しては「どうせなくすんだかから何でもいいよ」と言われたのを覚えている。

実際、初心者のうちは本当によくボールをなくす。ティショットのOBでボールがなくなり、前進4打の特設ティから池にボールを打ち込み、池の手前からの6打目がトップしてグリーン奥のOBに突き刺さったりする。ラウンド中に持ち歩くボールの数は2個か3個が一般的だと思うが、3個で安心してプレーできるようになったのはゴルフを始めて数年経ってからだった気がする。

とにかく安いボールをたくさん買い、ボールに傷がついても池越えホールのティショット用にキャディバッグに温存していた。OB区域に打ち込んだボールを拾いに行く際、きれいなロストボールを見つけると拾って使ったりもしていた。

でも、ゴルフを始めてしばらく経つと、ゴルフが上手な人の多くはボールの銘柄を決めていることに気づいた。それは上級者になってボールをなくす機会が減ったからなのかと思っていたが、どうやらボールの銘柄を決めているからこそショットが安定するようだ。

一方で、スイングは安定しているのにボールの銘柄を決めていないことによってショットが安定しないゴルファーを見かける機会もあった。そこで自分もボールの銘柄を決めたところ、ショットの安定感が明らかに増した。

性能の違い

多くのゴルファーはボールに飛距離性能を求めるが、飛ぶだけのボールは安い価格帯でもけっこうある。ただ、そういうボールはグリーン上で止まってくれない。そうするとグリーン奥からアプローチをする機会が増える。グリーン奥からのアプローチは難しい。しかも、その難しいアプローチで止まらないボールを打たなければならないのだから、ピンに寄るわけがないのである。

ゴルフのスコアに直結するのはボールのスピン性能だ。そのため、上級者はスピン性能を求める。ただ、スピン性能が高いと一般的にボールは飛ばなくなる。その二律背反を克服するためにボールメーカーはしのぎを削っており、そのためボールの価格帯が高くなっている。その価格帯が適正かどうかはここでは議論しないが、高価格帯のボールは低価格帯のボールよりも明らかにスピン性能が高い。

でも、プロゴルファーが試合で使っているような銘柄のボールは1球500円以上する。そんな高いボールを買うのは勇気がいるし、そんなボールを使うほど本格的にやるかどうかも分からないという人は、まずは低価格帯のボールの中で使う銘柄を決めればいい。使う銘柄がバラバラだと、ボールが止まらなかったのがショットのせいなのかボールのせいなのか分からない。いつも決まった性能のボールを使っていれば、それが分かるようになる。

そして自分のスイングが安定してきたのに、ボールが止まらないことに不満を感じるようになったら、高価格帯のボールを試してみるといい。高価格帯の中でもスピン性能重視タイプ、飛距離性能重視タイプ、バランスタイプと大きく分けて3種類ある。いろんな種類のボールを1スリーブ(3個入り)ずつ買ってコースで使ってみると、性能の違いがけっこう分かる。

ただ、高価格帯のボールを使うと同伴競技者と銘柄が重複しやすいという新たな問題も発生する。プロゴルファーもアマチュアの上級者も最も使用率の高い銘柄はタイトリストのプロV1・プロV1xシリーズだが、このボールを使うとかなり頻繁に同伴競技者と重複する。そのため上級者の中にはオウンネームを入れている人もいるが、お試しで使う場合はボールラインマーカーで目印を入れるのがオススメ。また、プロV1・プロV1xシリーズを使うと上級者の一部が「その程度の腕前でV1なんて使うなよ」という厳しい視線を向けてくることがあるのも多少やっかいだ。

もちろん、上級者でもボールの止まり方などの好みで他の銘柄を使っている人もたくさんいる。これはクラブとボールの相性の問題もあるかもしれない。いずれにしても、スイングが安定してきたのにスコアが安定しない人は、クラブを替えるよりもボールを替えるほうが費用対効果は高いので、ぜひ試してほしい。


保井友秀

1974年生まれ。出版社勤務、ゴルフ雑誌編集部勤務を経て、2015年にフリーランスとして活動を始める。2015年から2018年までPGAツアー日本語版サイトの原稿執筆および編集を担当。その他、ゴルフ雑誌や経済誌などで連載記事を執筆している。