計量超過は重罪

 この試合の前日、公式計量で平岡の対戦相手の佐々木尽(八王子中屋)が規定体重を作ることができないという事件が起きたのだ。この世界、オーバーウェイトは即座に試合をぶち壊す“重罪”と目される。

 スーパーライト級の上限体重は63・50キロで、これを上回ることはできない。ただしタイトルマッチ等の興行的な理由で中止にしないケースがある。超過分が上限体重の3パーセント未満であり、かつ試合当日の再計量(同様に8パーセント未満)をクリアすることが条件だ。

 佐々木は前日計量が65・3キロで、当日は68・1キロにとどめて試合中止を免れた。しかし仮に試合で勝ったとしても、スーパーライト級の規定体重を守れなかった佐々木が王座を獲得することはできない、いびつなタイトルマッチである。

 結局佐々木は敗れた。持ち前のダイナミックなパンチで会場をどよめかせる場面もあったが、どうしても計量失格のフィルターを通して見てしまうのだから罪なものである。

 ところで、試合を開催するか否かにかかわらず、体重超過ボクサーには相応のペナルティーが科せられる。ボクサーライセンスの一定期間の停止や制裁金である。

 日本ボクシングコミッションの定めるルールでは、試合が中止になった場合は1年間のライセンス停止や階級変更が義務付けられ、ファイトマネー相当額の制裁金を納めねばならない。試合を中止にしない場合も、6ヵ月間のライセンス停止処分に加えて制裁金の罰則があり、こちらはファイトマネー相当額の20パーセントという。

 これらのルールは世界タイトルマッチなどの大舞台も含めて国内で計量失格が相次いだ2018年に改定されたものだ。

海外では計量失格で何十万、何百万ドルの損失に

 2005年10月の世界ライト級再戦で挑戦者ホセ・ルイス・カスティージョ(メキシコ)が犯した失態は語り草だ。5ヵ月前の初戦で相手のディエゴ・コラレス(アメリカ)と稀に見る激闘を繰り広げ、待ち望まれたリマッチに完全に水を差した。

 1度目の計量でカスティージョはライト級リミットを2ポンド(約900グラム)上回る137ポンド。当然これでもダメだが、1時間後に設けられた2度目の計量では138・5ポンドに増量していたのだからあきれる。

 カスティージョはファイトマネーの半分にあたる12万ドルを罰金として支払い、リマッチはノンタイトル戦に変更となった。

 試合はカスティージョが4ラウンドKO勝ちで一応はリベンジに成功した。こうなると決着戦の声が高まり、実際に第3戦のリングが用意されたが、今度はなんと4・5ポンドもオーバーしたカスティージョ。コラレスもさすがに試合開催を拒否し、幻のラバーマッチとなった。カスティージョは試合を管理するはずだったネバダ州コミッションから25万ドルもの罰金を科されたという。また試合をすれば120万ドルのファイトマネーが約束されていたコラレスも「訴訟に踏み切る」とカンカンになった。無理もない。

悪童ネリの繰り返す愚行

 近年では、日本の山中慎介(帝拳)戦で知られるルイス・ネリ(メキシコ)が海外でも問題児としてありがたくもない評判をとっている。

 ネリは2019年11月にエマヌエル・ロドリゲス(プエルトリコ)とバンタム級の挑戦者決定戦を行うはずだったが、あと1ポンドが落とせずに計量失格。猶予時間を与えられても体重は変わらなかった。そして試合を成立させたいがためにロドリゲス側に違約金を払うと申し出たが、あえなく対戦を拒否されてしまった。

 驚くのがこの時ネリが持ち掛けた罰金で、最初は5万ドルを断られ、最後は10万ドルにつり上げたという。ロドリゲスは自身のファイトマネー(7万5000ドル)を上回る違約金にも首を縦に振らなかったのである。それ以上の減量で戦力ダウンするのを避けて勝利にこだわったネリだが、その思惑はロドリゲスに見透かされてしまったわけだ。

 世界王座の数が増えた現代は計量に失格しても試合に勝てば次のチャンスは遠からず訪れるから、こういったケースが結構ある。厳罰ルールを一層厳格化するほかないのか。減量失敗の理由はそれぞれだが、計量に失格した側はプロ意識を厳しく問われることだけは肝に銘じておいたほうがいい。


VictorySportsNews編集部