リヤド・シーズンはサウジアラビアの娯楽庁が2019年に立ち上げた一大プロジェクト。スポーツ、コンサート、展示会などのエンターテインメントを国際的に展開している。

 スポーツ界ではサッカーのリオネル・メッシ(アルゼンチン)や陸上のウサイン・ボルト(ジャマイカ)らとイベントを開催した。そしてボクシングでもヘビー級をはじめとするメガファイトを実現させている。

ボクシングファン垂涎のカード

 ボクシングに積極的に乗り出したのは1年ほど前から。ヘビー級チャンピオンのタイソン・フューリー(イギリス)と総合格闘家フランシス・ガヌー(カメルーン)のノンタイトル戦を開催し、ボクシングファンを驚かせた。そして今年5月にはフューリー対オレクサンドル・ウシク(ウクライナ)のチャンピオン対決を挙行。ボクシングがメジャー4団体時代になってから初めての世界ヘビー級全王座統一戦だった。

 特に、ヘビー級のビッグマッチなどは従来アメリカやイギリスの大アリーナで行われるのが相場だったが、オイルマネーの威力はすさまじく、サウジアラビアで立て続けに開催することで新マーケットとしての存在感を急速に増している。一方でアメリカ、イギリスにも進出してイベントを打ち、8月、ロサンゼルスのメインイベントではテレンス・クロフォード(アメリカ)が4階級制覇に成功した。ウシク、クロフォードは井上と熾烈なパウンド・フォー・パウンド(PFP)トップ争いを繰り広げるビッグネームである。

 「サウジ・パワー」の立役者が、リヤド・シーズンを主導するサウジアラビア娯楽庁長官のトゥルキ・アル・シェイク氏だ。

 大のボクシングファンであることはリヤド・シーズンの展開に注ぐ情熱を見ていればすぐに分かる。イギリスのエディ・ハーンやフランク・ウォーレン両プロモーターと有効な関係を築き、去る6月に開催したプロモーション同士の5対5対抗戦などは、なるほどファン的な発想を具現化したものと言えるかもしれない。

 そしてトゥルキ氏がモンスター井上に熱い視線を送っていることもよく知られていた。先月は都内で開かれたサム・グッドマン(オーストラリア)戦の発表会見に井上を訪ね、ツーショット写真に納まった。

日本とサウジの架け橋に

 11月4日にサウジアラビアで契約を締結した井上は、「キャリア後半に差し掛かってくる中で、モチベーションとなる契約ができた」と心境を述べた。グッドマン戦からはトランクスのベルト部分にリヤド・シーズンのロゴが入るという。もっとも、だからといって「僕のボクシングそのものが変わるわけではない」とも。

 井上はリヤド・シーズンのアンバサダーの役割も担い、2025年に外交関係70周年を迎える日本とサウジアラビアの架け橋として大きな期待をかけられている。トゥルキ氏は来年にもサウジアラビアで井上戦を開催したい意向だ。井上は「これまで僕の試合を見ていただいたことをとても嬉しく思っていますし、今回の契約をきっかけに今後サウジアラビアで試合をすることは、自身のキャリアにとっても非常に楽しみなものになってくると思っています」と意欲的に話している。

 井上はリヤド・シーズンのイベントについて「限られた選手しか辿り着かない場所」と、その印象を述べている。世界王座4団体統一、PFPランキング1位……日本人ボクサーが前人未踏の世界的偉業をいくつも成し遂げてきた井上が、また新たに道を切り拓こうとしている。


VictorySportsNews編集部