「優勝するためには何が足りないのか」自身に問い続ける日々

プロになってから3回の転機があったと以前のコラムでお話ししましたが、今回は2回目の大きな意識改革につながった話をします。それは2016年から2018年にかけての話なのですが、その頃の僕は広島記念に勝つことのみを目標にやっていました。地元の広島記念でなんとしても勝ちたいと強く望むようになり、2016年は実際に決勝まで進むことができたのです。ですが、その決勝では何もできずに5着という結果でした。その後の取材で、「優勝するためには何が足りませんでしたか?」と聞かれたときに、ハッとさせられました。
その問いに思いを巡らせ、その1年間を振り返ったのですが、「広島記念で優勝するために、この1年間をしっかりやってきたのか?」という自問自答に、自信を持って肯定することができませんでした。決めたことをやらなかった日もあれば、手を抜いたと思える日もありました。そういった後悔の念から、次の広島記念まではそういったところをなくそうと決意したのです。そして「これからの毎日を広島記念での優勝のために過ごそう、1日1日を一生懸命に生きよう」と一念発起しました。それからは毎晩寝る前に「今日1日に悔いを残していないか」を自分に問うようにし、自分にできることを精一杯にやり続けるようになりました。
そう決意してからは、やはり練習の1本1本にかける重みが異なってきました。トレーニングのスタイルを大きく変えたわけではないのですが、取り組む姿勢が変わっただけで、その効果に大きな変化があったのだと思います。また、そういった練習の姿勢だけでなく私生活にも変化がありました。食事や睡眠などもしっかりと考えるようになり、すべてを広島記念優勝のために過ごした日々だったと思います。

毎日毎日「悔いがないか」自分に問いかけた

そうして、2017年の広島記念を迎えました。
365日を悔いなく過ごすことができ、「今年こそは」という強い思いで臨んだレースでした。ですが、準決勝で落車してしまい6着。決勝にすら残ることができませんでした。翌日に行われた負け戦の特秀では1着という結果で終えたのですが、そのレース後のインタビューで思わず泣いてしまったのです。この1年を広島記念に懸けてやってきたのに、決勝にすら残れなかったという悔しい思いが込み上げ、気づくと自然に涙がこぼれ落ちていました。
その涙を見て、「そうやって悔しがれるほどやっているのであれば、もう大丈夫だ」「それだけ頑張っているってことだよな、気持ちはわかる」と、先輩たちに慰めてもらいました。自分自身を振り返ってみたときも、前年とは違い、このためにやり尽くしたという感覚がありました。そして、本気の悔し涙が出るほど頑張ってこれたのだから、これをこのまま続ければ大丈夫、必ず結果は着いてくると感じられたのです。
レース前にはあれこれシミュレーションをするのですが、レースは相手がいることなので、やっぱりわからない部分というか想定と違ってくるところはあります。ですが、自分自身のスピード感であったりレース感覚というものは、この頃になるとそのシミュレーションとほとんど誤差がなくなっていました。ですので、勝つ方法を考えやすくなったという自信が生まれてきた頃でしたね。それから同じように、それ以上に悔いのない日々を送り、迎えた2018年の広島記念ではようやく優勝することができました。
2016年から2018年は、広島記念に懸けた日々でした。目標に向けて、本当に一生懸命に頑張りました。1年間の毎日をさぼらずに取り組むのは難しいことかもしれません。僕の場合は、毎日毎日「悔いがないか」自分に問いかけたのが良かったのかもしれませんね。

松浦悠士(まつうら・ゆうじ)
1990年11月21日生まれ(30歳)、広島県出身。98期生として日本競輪学校(現:日本競輪選手養成所)を卒業し、2010年7月に熊本競輪場でデビュー。G1タイトルは2019年11月小倉競輪祭、2020年8月オールスター競輪、そして今年5月には日本選手権競輪を制して「ダービー王」の称号を手にしている。S級S班は今年2年目で、現在の獲得賞金ランキングでは首位を独走。株式会社チャリ・ロトとは 2017年7月よりスポンサー契約を結ぶ。

(協力)チャリロト パーフェクタナビ編集部
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VictorySportsNews編集部