このアプリのブランドアンバサダーを務めているのは井上莉花プロ。彼女もゴルフインフルエンサーの1人と言えるだろう。BS日テレの人気番組「ゴルフサバイバル」など多くのテレビ番組出演実績があり、インスタグラムのフォロワー数8万人、ユーチューブチャンネル「井上莉花のStance tv.」のチャンネル登録者数4.67万人(2022年1月25日現在)と、トップツアープロ並みの数字を持っている。

ただ、彼女はプロゴルファーではあるが、日本女子プロゴルフ協会(JLPGA)の会員ではない。プロテスト受験経験は何度かあるものの、合格率わずか3パーセントと言われる高い壁に阻まれている。

女子ツアーの出場資格を決めるクォリファイングトーナメント(QT)は以前、プロテスト不合格の非会員でも受験可能だったが、2019年度から会員以外は受験できなくなった。その制度改定の是非はここでは言及しないが、ツアーに出場したくても出場できない選手が激増した。

その結果、彼女たちは活躍の場をツアー以外に求めた。インスタグラムやユーチューブなどで自らのプレーを露出するようになった。そんな立場の選手を応援する潮流も生まれ、前述の「ゴルフサバイバル」だけでなく、「女子ゴルフペアマッチ選手権」(BS朝日)、「激芯ゴルフ」(BSフジ)、「ゴルフ女子 ヒロインバトル」(BS12トゥエルビ)など彼女たちが活躍できる舞台が増えている。

かつての女子プロゴルフ界はレギュラーツアーで賞金シードを獲得しないとスポンサーがつかなかったが、今はツアーの出場権を持たない選手にもスポンサーがどんどんつくほどの大人気だ。

ゴルフインフルエンサーという言葉を初めて聞いたのは確か2015年ごろだったと思う。米国でツアー出場を目指していたペイジ・スピラナックという選手が自らのトリックショットの動画などをインターネットで配信するようになり、美貌とスタイルのよさで注目を集めた。だが一方で、露出の多い服装でセクシーさを強調するスタンスは批判も受けた。

結局、彼女はツアー出場を諦め、ゴルフインフルエンサーの道を選んだ。当時の日本にはそういう文化がなかったので、対岸の火事のように彼女の動向を眺めていた。そうしたら彼女はインスタグラムのフォロワー数323.9万人、ツイッターのフォロワー数48.9万人、ユーチューブのチャンネル登録者数26.1万人を誇る超有名人になった。

日本で彼女の成功を追随する選手は現われなかったが、ツアー出場を目指しているのにツアーに出られない選手が増えたことで、結果的に彼女と同じような道のりを歩むケースが目立つようになっている。

少し前まで日本のツアーに出場できない選手は台湾ツアーや中国ツアーに挑戦するという流れもあったのだが、新型コロナウイルスの世界的な流行でそういった道も閉ざされているので、日本国内でゴルフインフルエンサー活動を充実させる選手が増えるだろう。

必ずしも専業ではない

また、ゴルフインフルエンサーは何もプロゴルファーのような腕前を持つ選手だけの専売特許ではない。大人になってからゴルフを始め、楽しさを伝えているうちにゴルフインフルエンサーになった人もいる。

別のコンペで知り合ったmisarasara.golfさんは2019年7月からゴルフを始め、インスタグラムでゴルフの投稿を続けているうちに、フォロワー数が1.5万人になったという。

「周りでゴルフをしている友人が少なかったので、最初は交友関係を広げたいという趣味目的でインスタグラムを始めました。そこからゴルフインフルエンサーが集まるコンペに参加させていただいたことで友達ができ、別のコンペやゴルフにまた誘っていただき、だんだんと交友関係が広がるとともにフォロワー数も少しずつ増えていきました」

そしてフォロワー数の増加にともない、企業からPR目的で商品提供を受ける機会や撮影に呼ばれる機会が増えたそうだ。

「ゴルフを通して今までまったく関わることのなかった世界の方とお会いできる機会があることをとても光栄に感じています。私自身は営利目的でインフルエンサー活動をしているというよりは、そこでお知り合いになれた方々に少しでも恩返しができればと思っているので、少しでもPRのお役に立てるようになりたいです」

misarasara.golfさんは千葉県松戸市で美容室を経営しており、ゴルフインフルエンサー活動が美容室のPRにもつながっているとのこと。これからの時代は副業や複業が必須と言われるが、ゴルフインフルエンサーは必ずしも専業である必要はなく、副業や複業で始める人も増えると思われる。

ゴルフインフルエンサーが活躍するようになったのは、ゴルフというスポーツのイメージが以前と比べて極めてポジティブになったことが大きな要因だろう。

ゴルフはかつてオジサンのスポーツというイメージだったが、宮里藍の出現をきっかけに女子ツアーが大きく発展し、オシャレで健康的なスポーツに様変わりした。その素晴らしさを若い世代がSNSで積極的に発信してくれるようになった。

コロナ禍でも安全に楽しめるスポーツというポジションも確立しており、ゴルフインフルエンサーたちが牽引する好循環が今後も続きそうだ。


保井友秀

1974年生まれ。出版社勤務、ゴルフ雑誌編集部勤務を経て、2015年にフリーランスとして活動を始める。2015年から2018年までPGAツアー日本語版サイトの原稿執筆および編集を担当。その他、ゴルフ雑誌や経済誌などで連載記事を執筆している。