サッカーW杯は1930年に第1回大会がウルグアイで開かれてから世紀をまたぎ、あまねく人々を惹き付けてきた。主催する国際サッカー連盟(FIFA)によると、前回ロシア大会の視聴者数は推定35億7200万人に上った。当時の世界総人口の約半数という途方もない数字である。フランス―クロアチアの決勝の1試合だけでも、その数は実に約11億2千万人。世界で最も注目を集めるイベントといっても過言ではない。FIFAのインファンティノ会長は、今回のカタール大会では総計50億人がW杯を視聴すると予想している。

 この数字がいかに並外れているか、他のスポーツイベントと比較してみよう。2019年のラグビーW杯日本大会は、国際統括団体ワールドラグビー(WR)によれば、大会全体の総視聴者数が約8億5700万人だった。これはラグビーW杯にとっては過去最多の数字だったが、世界3大スポーツイベントの一つに挙げられることもある大会といえども、サッカーW杯の決勝の1試合に及ばないのである。

 サッカーW杯に並ぶ国際スポーツイベントである夏季五輪はというと、国際オリンピック委員会(IOC)の発表によれば、2021年東京五輪のテレビとデジタルを合わせた全世界の視聴者数は約30億5千万人だったという。やはりサッカーW杯に軍配が上がる。たった一つの競技で、五輪をも凌ぐ注目度の高さは、放送権料やスポンサー料の高騰につながり、莫大な富をもたらし続けている。サッカーW杯は、FIFAにとっての最良のコンテンツであり続けているのだ。

 今大会は優勝チームに4200万ドル(約58億3800万円、12日現在1ドル=139円で換算)が賞金として支払われる。これは過去最高の金額で、順位に応じて出場するチームの各協会に支払われる賞金総額は4億4000万ドル(約611億6000万円)という破格の金額(前回大会は優勝賞金が3800万ドルで、賞金総額は4億ドル)だ。また、これ以外にもFIFAは選手を供出するクラブに対しての補償金(合計2億ドル以上を見込む)などを計上している。

 ただ、以前からW杯の賞金がこれほど高額だったわけでは、もちろんない。過去の大会でFIFAが各協会などに配分した総額を比較するにあたって、米経済誌フォーブスが前回大会までのものを分かりやすく数字をまとめていたので、引用したい。

出典:米経済誌フォーブス FIFAが公表している82年大会以降

 ブラジルのジーコら「黄金のカルテット」が世界を魅了し、イタリアのロッシが得点王となった1982年スペイン大会は総額2000万ドルだった。これは、カタール大会の賞金総額の22分の1に過ぎない。「神の手」「5人抜き」が有名で、優勝したアルゼンチンのマラドーナの大会として刻まれる86年メキシコ大会でも総額2600万ドルである。90年大会から全参加チームへの支度金もわずかながら追加されるようになり、総額は5400万ドルとなった。

 ただ、そこから金額は急激に右肩上がりをたどる。初めて総額1億ドルを突破したのが、98年フランス大会。出場チームが、それまでの24チームから32チームへと拡大し、日本が初出場を果たした大会だ。この大会に前後して、サッカーは欧州と南米だけのものという古い概念を打ち破り、開催地に94年の米国や、02年の日本と韓国を選んだこともW杯の価値向上に大きく貢献しただろう。大会の門戸を世界各地に広げたことで、放送権料やスポンサー料は上昇し続けた。

 日本中を熱狂に巻き込んだ2002年大会は総額1億5660万ドル。そこからは増額の幅も1億~2億ドルというスケールの大きさで、18年ロシア大会は7億9100万ドルにまで膨らんだ。優勝したフランスは賞金だけで3800万ドルを手にしており、これは82年大会や、86年大会の大会総額を軽々と上回る。

 また、06年大会で負傷選手への「保険」という形をとっていたものが、10年大会からはクラブへの補償金として正式に組み込まれた。18年のロシア大会ではプレミアリーグ勢を抱えるイングランドに対し、優勝賞金に匹敵する約3740万ドルが支給されている。そのうち、最多16人の代表を大会に送り込んだマンチェスター・シティーには約500万ドルが支払われた(日本は海外組の選手が多いこともあって補償金の合計は364万ドルで、アジアで3番目。1位はサウジアラビア、2位はアラブ首長国連邦)。

 世界一の称号を懸けた熱く、きらびやかな闘いの舞台には世界各地から今大会も32チームが参加する。2連覇を目指すフランスのエムバペ(パリ・サンジェルマン)、アルゼンチン代表のメッシ(パリ・サンジェルマン)、ポルトガル代表のロナルド(マンチェスター・ユナイテッド)らスーパースターが競い合い、スペインのペドリ、ドイツのムシアラら新世代の台頭も著しい。森保一監督が率いる日本は7大会連続7度目の出場。過去最高成績を上回るベスト8以上という目標を掲げ、まずは1次リーグE組で23日にドイツ、27日にコスタリカ、12月1日(日本時間2日早朝)にスペインに挑む。


土屋健太郎

共同通信社 2002年入社。’15年から約6年半、ベルリン支局で欧州のスポーツを取材