※『Shadowverse』は、株式会社Cygamesが開発・運営するデジタルトレーディングカードゲーム(TCG)です。プレイヤーはカードを使ってバトルを行い、相手の体力ポイントをゼロにすることを目指します。

大学生はコミュニティを作る力が強い

まずは、大会責任者である株式会社Cygamesの担当に話を伺った。

ーー大学生リーグを発足した背景について教えてください

大学生リーグが始まったのは2019年なのですが、『Shadowverse』はリリースされた直後から、様々な地域・世代のユーザーコミュニティを作っていくことが一つの目標でもありました。

その中でも、特に大学生の方々は、サークルを中心にコミュニティを作る力が強いということ、また「Shadowverse」はリリース直後から大学生のユーザーが多かったということもあり、サークルを立ち上げていただけるきっかけの一つとして同じ大学のメンバーでチームを組んで参加できる大学生限定のリーグを設立しました。

ーー特定のカテゴリに限定した大会をする上で、何か懸念点はありましたか?

特に懸念点はありませんでした。というのも我々は当時から既に、高校生限定大会や各地域での大会など、特定のカテゴリに限定した大会を数多く開催していました。

大学生に限定した大会は「Shadowverse」リリース直後から待ち望まれていたものでもあったので、大学生の皆さんには喜んでいただけているのではと考えています。

ーー確かに『Shadowverse』は大学生の方々が多くプレイされている印象です。

スマホ1つで気軽に始められるという点が、大学生の方々に遊んでいただけている理由なのかと思います。

大学に集まったときに、空き時間にサクッとプレイしていただけるeスポーツですので。

ーー大学生リーグスタートの時期とコロナの時期が重なっているので、なかなか思うようにオフライン大会を開催できなかったのは歯がゆかったのではないでしょうか?

そうですね。今年で4年目になるのですが、有観客の大会として開催できたのは初なので、やっと思い描いていた大会を実現できた感覚があります。

今日のイベントで、選手のご友人の大学生や保護者の方々が、観客として応援されている姿を目の当たりにしたとき「これが私たちが思い描いていた大学生コミュニティなんだ」と再認識させられました。

ーー大学生リーグを開催していく中で得られた気づきや知見は何でしょうか?

「Shadowverse」はRAGEや世界大会など、個人戦としてのeスポーツの側面を大きく押し出すことが多かったのですが

アマチュアのプレイヤーたちが、チーム戦に特化した形で年間通して戦うのは大学生リーグだけなんです。(プロプレイヤーがチーム戦を戦うプロリーグ・プロツアーは存在している)

同じ大学のメンバー同士によるチームだからこそ生まれる一体感とか、大学間でのチーム戦ならではの面白さというのは、他の公式イベントだけでは気づけなかったことですね。

また大学生の方々には、卒業という避けては通れないゴールもあるので、そこはプロリーグ・プロツアーとはまた異なった独特の緊張感や感動があります。

学生さんも学業やアルバイトがある中で、サークル活動の一環として大学生リーグの優勝を目指して頑張ってくれているので、この大学生リーグが、学生時代に打ち込んだことの1つとして社会人になったときの自信になってくれれば嬉しいですし、青春の1ページとして思い出に刻んでもらえるといいなと思います。

ーーチーム戦は人間関係も学べるのでとても良いですね。

そうですね。チーム戦のルールについても、大学生の方々に取り組んでいただきやすいよう、毎年少しずつ調整しています。

今年からは、人数限定ではありますが、他の大学からの助っ人を入れられる制度も採用しました。

それによって大学を横断して、人間関係が築かれるようになったという声も聞いています。

ーー対戦中は個人戦になる『Shadowverse』において、チーム戦であることの意義を出すためにどのような工夫をされましたか?

ルールとして勝ち抜けの5vs5を採用しています。つまり自チームの5人全員が勝たないとチームが勝つことはできません。チームに1人強い人がいたとしてもチームとして勝てるわけではないので、事前にチーム全体が結束して準備する必要があります。

大会会場の様子

大会運営を務める現役大学生が語る「将来ずっとeスポーツ業界を盛り上げるため、選手ではない道に挑戦した」

ーーお二人の自己紹介をお願いします。

ワタナベさん(以下、ワタナベ):千葉工業大学のワタナベと申します。学生実行委員会のリーダーをしています。実行委員会の前身の“大学生リーグ広報部”も合わせると3年間携わっています。『Shadowverse』はリリース当初からプレイしていて7年目です。

マキさん(以下、マキ):法政大学3年のマキと申します。学生実行委員会に合流したのは2022年5月です。『Shadowverse』はリリース直後からプレイしています。

ーー本日は大会の運営で走り回る中、たくさんのメディアの取材対応もされているようにお見受けしました。メディア対応で苦労されたことはありますか?

ワタナベ:やりがいを感じている反面、メディア対応はとても大変です。「昨年、同じ媒体さんでも同じようなことを喋ったから、今年は少し変わったことを喋ったほうがよいのかな?」といった迷いがおき、何についてどこまで配慮をすべきなのか難しいです。

ーー本来、昨年と同じ質問がきたら同じような回答になるのは仕方ない気もするのですが、ワタナベさんはとてもサービス精神旺盛ですね(笑)マキさんはいかがでしょうか?

マキ:とても貴重な機会をいただいていると感じています。今日もいろんなメディアさんの取材があると聞いていたのでとてもワクワクしていました。「え!僕が取材受けていいの!?」という嬉しい気持ちが強く、緊張はほとんどしていません。

ーー学生実行委員会に参加した動機はなんでしょうか?

ワタナベ:もともとeスポーツ業界に興味がありました。この大学生リーグにも選手として参加していたのですが、大会・リーグ運営に携われるという募集を目にしてすぐに応募しました。「やりたいと思ったことはすぐにやろう!」という気持ちでした。

マキ:僕はすでに学生実行委員会がある状態でしたので、メンバーの方に誘っていただきました。

ーー大変だったことや学びになったことについて教えてください。

ワタナベ:大学生リーグを盛り上げるための企画をゼロから作っていく仕事を任せてもらえたので、思いついたアイデアを掛け算して企画書を作っていきました。

本当にゼロからの企画作りだったので、学生同士のアイデア出しの会議だけでもすごく時間がかかり大変でした。頑張って作った企画がコロナの影響でなかなか実現できなかったり、作った企画がとん挫してしまったり。心が折れそうな時期がありました。

マキ:僕は途中から合流した人間なのですが、合流したばかりの時に早速、RAGEで大学生リーグ関連のイベントを出展する企画に携わらせていただきました。出展に向けて段階的に課題に取り組んでいくのが大変ではありましたが、とてもやりがいを感じていました。

ーー運営側として裏方にまわるよりも、自分も選手として参加したいという気持ちにはなりませんか?

ワタナベ:選手として出たいという気持ちはありました。ただ将来について考えたときに、運営側の仕事であればこれからもeスポーツと関われると思い、気持ちを入れ替えてこの選択をしました。

マキ:僕も似ていまして。仕事としてゲーム業界に入られる方は、そういった方が多いと思います。多くのゲーム好きは最初はいちプレイヤーとしてゲームに関わります。やっていく中で、プロゲーマーの仕組みがあるものの、全員がそこに到達できるわけではないと考えるようになるので、自分の興味をモチベーションにできる仕事としてeスポーツイベントの運営が1つの選択肢になっているのだと思います。

スポーツ界隈がeスポーツから学ぶことは多い

現地取材をしていく中で特に驚いたのが、実行委員会の大学生たちに与えられているのは、形式的な職業体験ではなく、責任ある実務だということでした。

Cygames管理のもと、企画、運営、宣伝広報、当日の案内、大会後のパーティーの主催、トラブル対応など、ほとんどが大学生だけで完結されていました。企業側が与えるのは場所と機会のみで十分なのかもしれません。社会人たちは見守ること&指南することに徹して、その中で若者たちは活き活きと動き回り自己実現をしていくのです。

eスポーツは単なるスポーツの電子版ではありません。

集客方法やマネタイズなどにおいては、フィジカルスポーツの伝統的な手法を取り入れつつも、随所では若い世代による挑戦的かつ実験的な手法が試されています。

スポーツ興行において当事者といえば、選手、観客、スポンサーなどが思い浮かびますが、
運営者も立派な当事者であると気づかされました。さらに今回の学生実行委員会のように、運営側の門戸をオープンにすることで「自分も参加できる」という魅力も加わります。

「プレイする」「観戦する」だけはない、「スポーツへの参加方法」の新たなアイデアの宝庫として、eスポーツはますます注目されていくことでしょう。


小川翔太

1987年生まれ。会社経営者。システムエンジニア→人材コンサルタントを経て(趣味のカードゲームで世界大会に出場したことをきっかけに脱サラ)2017年にメディア業界に飛び込む。5年に渡りeスポーツの取材を続け、これまで総勢100名以上のプロゲーマー&ゲーム関係者にインタビューしている。