このグループリーグの戦いの中で、第2節のウズベキスタン戦は、2点を奪ったあとなでしこジャパンが75分間攻めなかったことが賛否両論の議論を呼びました。

 そもそも、なぜそんな戦いを行わなければならなかったのか。それを考えるとなでしこジャパンの思惑がハッキリします。

 まずオリンピック女子サッカーのアジア枠は2つ。2次予選は12カ国が3グループに分かれて戦い、各グループ首位のチームと、それぞれの2位の中でもっとも成績のいいチームが最終予選に進出します。また、グループごとに試合の開催国がオーストラリア、中国、ウズベキスタンと違っていました。

 そのため、グループCのなでしこジャパンはウズベキスタンと戦う前に、同節でグループAのオーストラリアが8-0とフィリピンに大勝するところを確認できました。そしてオーストラリアの強さを目の当たりにして、最終予選での対戦を避けたかったのだと思います。

 チーム力から考えると、グループAの1位はオーストラリアで、グループCの1位はなでしこジャパンで確定と考えていいはずでしたし、実際そうなりました。そして2位のチームがどのグループから出るかで、最終予選の組み合わせが決まります。

 2位のチームがグループAから出た場合はどうなるか。グループCで1位のなでしこジャパンは、グループAの1位と戦うことになっていました。しかもホームアンドアウェイで開催されるため、初戦が日本、2戦目はオーストラリアでの開催ということになります。

 グループBの2位チームが進出した場合はその2位チームがなでしこジャパンと対戦することに、そしてグループCの2位チームが進出した場合は、なでしこジャパンと対戦するのはグループBの1位チームということになっていました。

 グループBは北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)、韓国、中国、タイで構成されていて、それぞれFIFA女子ランクでは、北朝鮮がランクなし、韓国20位、中国15位、タイ46位と、11位のオーストラリアより下です。

 そこでオーストラリアとの対戦を避けるためには、グループCまたはグループBの2位のチームが最終予選に進出してくれたほうがいいと判断したのです。ならばウズベキスタンに大勝しないほうがいい。2点を取ったあとになでしこジャパンがボールを回し始めると、ウズベキスタンも意図を理解して攻撃を控えました。

 結局、ウズベキスタンが最終予選に進出しています。日本とウズベキスタン、双方の思惑どおりになったと言えるでしょう。

 これは大会のレギュレーションが生んだ事態だと思います。決してなでしこジャパンが悪いわけではありません。見ていた人は何も起こらない展開にイライラしたかもしれませんが、サッカー界では時折起きることです。

 少し状況は違いますが、2018年ロシアワールドカップのグループリーグ第3戦で日本がポーランド戦で大幅にメンバーを入れ替え、0-1で敗れたときも論争が起きました。あのときは、他の会場で行われていたセネガルvsコロンビアの結果を見つつ、西野朗監督が負けていながら攻めなかったので、今回よりも非難されてしまうことになったと思います。

 あのとき、もしも反撃に出てポーランドに逆襲され、点差を広げられていたら日本はベスト16に進出できませんでした。そのリスクを避けたのですから、僕は「正しい」判断だったと思います。そして進出したベスト16では、ベルギーをギリギリまで追い詰め、日本への批判は一気にプラス評価へと転換されたと思います。

 今回のなでしこジャパンもオーストラリアと対戦しないことになったところまでは「正しい」判断だと言えます。もっとも、次の対戦相手となった北朝鮮にしっかりと勝利を収めなければ、ここまでの戦略は何の意味も持たないことになります。

 北朝鮮とは10月6日に開催されたアジア大会決勝で対戦し、日本は4-1と勝利を収めました。ただし、それでも相手はそこまで勝ち上がってくるだけの強さは見せています。北朝鮮は2020年以降、国際試合をしていなかったのでランクはついていませんが、実力はあります。

 男子の日本代表も2026年アメリカ・カナダ・メキシコワールドカップのアジア2次予選で北朝鮮と対戦します。どれくらいの実力があるか測りかねる北朝鮮は、男女とも非常に不気味な相手です。しかも北朝鮮のホームゲームが北朝鮮国内で開催されるのなら、相手はより力を発揮してくるでしょう。

 3月に開催される男子の試合の前に2月になでしこジャパンがしっかり勝利を収めて、自分たちの狙いは正しかったことを証明してほしいと思います。それこそが、今、ボール回しに対して「否」の意見を持っている人たちに対する答えになります。



■パリ五輪女子サッカーアジア最終予選(ホームアンドアウェイで勝利を収めたチームがパリ五輪に出場)
・2024年2月24日
 ウズベキスタンvsオーストラリア
 北朝鮮vs日本

・2024年2月28 日
 オーストラリアvsウズベキスタン
 日本vs北朝鮮

前園真聖

前園真聖

鹿児島実業高校からJリーグ・横浜フリューゲルスに入団。アトランタオリンピック本大会では、チームのキャプテンとしてブラジルを破る「マイアミの奇跡」に貢献。その後日本だけでなくブラジル、韓国などの海外クラブでもプレーし、2005年に現役引退。現在は、サッカー解説などメディアに出演しながらも、サッカースクールや講演を中心に全国の子供たちにサッカーの楽しさや経験を伝えるための活動をしている。