一方、東京ドーム内のコンコースでは、スーパーナイターのテーマである「スポーツとともに、もっといい未来へ。A BETTER FUTURE TOGETHER」に合わせて作られたアトラクションやブースなどが設置され、開場と同時にファンや観客が各ブースに殺到し、列を成すなど大盛況だった。スポーツを介してどう良い未来を作っていくか。球場に訪れた人々に提示し、試合観戦の楽しみとともにスポーツの価値や意義を示す場にもなった。

サンボマスター山口さん「投げるのって気持ち良い」

 昨年7月に続き2年連続の開催となった「楽天スーパーナイター」。宮城県仙台市が拠点のチームということもあり、東京でのホームゲームをファンが楽しめるのはこの日だけ。パ・リーグは東京に拠点を置くチームがないだけに、セ・パ交流戦や日本シリーズ以外で、パ・リーグ球団の試合を東京で楽しめる数少ない機会。しかも相手はソフトバンクホークスとあって、前売り券は完売していた。午後4時の開場と同時に、多くのファンが押し寄せた。普段は読売ジャイアンツのホームグラウンドということもあって、ジャイアンツカラーに染まった装飾になっている東京ドームが、この日だけはドーム内の巨大LEDモニターや、通路の装飾などそこら中が楽天一色となっていた。

 初めての東京ドームでの演奏で、人生初の始球式だったというサンボマスターの山口さんは「こんなに(マウンドで投げるのが)大変なのかと思いました(笑)。でも、投げるのってあんなに気持ち良いものなんですね」と嬉しそうに話した。スーパーナイターのテーマに引っかけて、山口さんにとって良い未来とはという質問には「素晴らしい舞台で、素晴らしい方々とやらせてもらえるのも素晴らしい未来ですし、教室の片隅でパンクロックを聴いてるのも、勝るとも劣らないくらい幸せだった。大きさにかかわらず、その人にとっての色んなキラキラな未来があったらいいな」と話した。

楽天が冠試合で取り組んだ2つの考え方

 「楽天スーパーナイター」は訪れた観客やファンに野球の試合だけではなく、ダイバーシティ、気候変動、環境問題などといった社会性のあるテーマを意識づける場も用意している。それが、掲げる「スポーツとともに、もっといい未来へ。A BETTER FUTURE TOGETHER」だ。

 言葉の通り「スポーツをきっかけに多くの良い未来を作っていくことを目的にした活動」(担当者)で、普段の生活でなかなか意識する機会がないことを、スポーツ、好きなチームや選手と紐付けることで目を向けさせていく。

 「ダイバーシティ、公平性、インクルージョンを意識し、スポーツに関わる色々な場面において、誰もが自分らしく楽しめる環境を創り出す『Sports for Everyone』という考え方、気候変動対策や資源の好循環を実現して、これからもスポーツを楽しめる空間を目指す『Green for Future』という二つの考え方を元に取り組んでいます」(楽天担当者)

銀次さんが目隠しして2人乗り自転車を体験

 今回用意されたのが、ペットボトルキャップ回収ボックス、2人乗りタンデム自転車を体験できるブース、自分の考える良い未来の世界とはどの様なものかを、アンケートと生成AIを組み合わせて画像を作るタッチモニターなど。体験すると選手のトレーディングカードがプレゼントされることもあって、多くの人が並んでいた。

 会場の特設コーナーで集めたペットボトルキャップは回収業者に回収され、最終的にその売却益は世界の子供たちにワクチンを提供するための資金に充てられる予定だという。

 2人乗りタンデム自転車はビデオゲーム形式で楽しめるようになっており、大画面の前に用意された自転車に乗って、2人がタイミングを合わせてペダルを漕がないと前に進むことができない。後方で漕ぐ人は目隠しをして、前に乗る人のかけ声に合わせて漕いでいくというもの。まずプレス向けの説明では、銀次さんとスタッフが2人乗りを体験。目隠しをした銀次さんは、前方に乗るスタッフの「ストップ!」「漕いでください!」といったかけ声に合わせながら、ゲームを楽しんだ。

 さらに、障がいの有無に関わらず誰もがダンスを楽しめる場づくりに取り組むダンスチーム「SOCIAL WORKEEERZ」のリーダーであるDAIKIさんと銀次さんの2人で体験した。DAIKIさんは低身長などの症状が引き起こされる難病・軟骨無形成症だが、それでも楽しめるように、手でこげる仕様のものも用意されていた。「身長の低い子供、足が不自由な人、どんな人でも楽しめるように」(楽天担当者)という考えに沿った形だ。DAIKIさんと銀次さんは共にペダルを手で漕ぎながら、呼吸を合わせてゲームを体験した。

 銀次さんは「目隠しをして恐怖感がある中で漕ぐのは難しくて、声かけが無いと何もわからないですね」と視覚の無い世界の難しさを実感し、DAIKIさんは「僕の身体特性的に普通の自転車に乗れないことが多いので、こういう手で漕げる自転車が日常化されたら良いな」とダイバーシティ対応だったアトラクションの実用化を期待していた。

イーグルスの守護神は、スポーツを通じた良い未来作りを自ら実践中

 試合前には、今シーズンから守護神として活躍する、楽天イーグルスの投手キャプテンの則本昂大投手が取材対応した。楽天スーパーナイターのテーマについて問われると、

「一人一人がやりたいこと、目指したいものとか、なりたいものに向かって、進めるような環境作りというのがもっと整っていけば良いのかなと思います。小さなところでは、ゴミの分別や節水。個人でできることは小さいかもしれないが、一人一人やることで積み重なる。それは野球も同じ。一人一人がやれることをやっていけば勝てる。形は違うけれど考え方は同じ。プロ野球界が率先して広めていければ」

 と答えた。さらに則本選手はスポーツを通じたより良い未来作りを自ら実践しており、その活動についても紹介した。

「成績流動型ですが『チャンス フォー チルドレン』という活動を団体と協力してやっている。まだまだ(活動)範囲が狭いので、もっと知ってもらいたい。経済的に困窮されている家庭に対して、給付金ではないが、チケットみたいなのを配布して、塾や水泳教室に通ったりとか体験できるものにたいして寄付している。それを去年、今年と数は限られていますが、球場に招待して、触れ合っています」

 楽天はグループ内の他のスポーツチーム、サッカーJリーグのヴィッセル神戸(今年6月)、台湾プロ野球の楽天モンキーズ(7月)と、それぞれの公式戦で同様のテーマで冠試合を行い、今回の楽天イーグルスの試合と合わせて「スーパーサマーシリーズ」と題して実施した。イーグルスだけに留まらず、ヴィッセル、モンキーズでも行うことで、より幅広く多くの人たちが、楽天の掲げる「スポーツとともに、もっといい未来へ。A BETTER FUTURE TOGETHER」を考えるきっかけになっただろう。


大塚淳史

スポーツ報知、中国・上海移住後、日本人向け無料誌、中国メディア日本語版、繊維業界紙上海支局に勤務し、帰国後、日刊工業新聞を経てフリーに。スポーツ、芸能、経済など取材。