成長を支える思考回路

 今大会には団体戦の要員として日本代表に選ばれた。五輪デビューは8月5日の1回戦、ポーランド戦。第2試合のシングルスに登場すると速攻がさえ、重圧をものともせずにストレート勝ちを収めた。続くタイとの準々決勝でもシングルスでストレート勝ち。ドイツとの準決勝では第2試合で敗れた後、2―1で迎えた第4試合のシングルスで雪辱した。銀メダル以上を確定させる立役者になって感涙。五輪の舞台の特別感も想起させた。

 宿敵中国との決勝戦では期待の大きさが表れた。最初のダブルスの試合で、それまで平野美宇(木下グループ)が務めていた早田ひな(日本生命)のパートナーに抜てきされたのだ。力強いドライブで攻勢に立つなど起用に応えた。ゲームカウント2―2から最終ゲームは9―5とリード。金星まであと2点と迫って見せ場をつくった。最終的に逆転を許してチームとしても敗戦。2大会連続の銀メダルに終わったものの、確かな足跡を記した。

 兄の背中を追うようにして、2歳で卓球を始めた。国際大会を含めて試合の場数を踏み、既に客観的に自己分析する力を備えている。五輪を終え「夢の舞台で戦えたというのもあるし、逆に少し現実的というか、いつも通りの試合をしたという感覚もある。負けた試合があってすごく悔しい気持ちもあるけど、自分の目標としていた、最後まで諦めず戦うことはできた」。自分の中にしっかりとした評価軸を持っていることは、ステップを踏みながら着実に成長していることと無関係ではあるまい。

女子充実の一翼

 ここ数年の伸びは目覚ましいものがある。2021年に世界ユース選手権U―15で4冠に輝いた。昨年11月のパリ五輪国内選考対象大会では早田や東京五輪で三つのメダルを手にした伊藤美誠(スターツ)を破って優勝。今年4月のワールドカップ(W杯)では当時世界ランキング3位の王芸迪(中国)を撃破した。8月20日に発表されたシングルスの世界ランキングでは、5位の早田に次いで日本勢2番手の8位につけている。4年後のロサンゼルス五輪では、シングルス代表の有力候補なのは間違いない。

 こうした状況は卓球界全体にとっても好ましい。例えば福原愛、平野早矢香、石川佳純―。日本女子の主力は時代とともに変遷を遂げてきた。2012年ロンドン五輪で準優勝して以降、五輪のメダルが途切れたことがない女子。特にここ2大会は連続して団体で銀メダルなど、中国を追う2番手の地位を確立した。張本は「平野選手と早田選手に引っ張っていただいたおかげで、貴重な経験をさせていただいた」と感謝。健全な世代交代の繰り返しが日本女子の充実ぶりにつながっている。

 その一翼を担う張本は身長166cmと恵まれ、シェークハンドからの得意なバックハンド、パワフルなドライブは、海外の年上の強豪たちとも渡り合う。関係者によると、筋力トレーニングにも積極的と向上心豊か。「もっともっとシングルスを頑張らないといけない。自分の実力を上げていくことが一番大事」と今後をにらんでいる。

愛されキャラ

 集中した試合中の表情から一転、普段のキャラクターでもタレント性を感じさせる。例えば、試合の前や合間には、好きというK-POPグループをまねて切れのあるダンスを披露。TikTokなどで紹介されて話題を呼んでいる。

 テレビ番組に出演したり、試合後などにインタビューを受けたりする際は飾りすぎることなく、自然体の姿勢が目を引く。パリ五輪からの帰国会見では、やりたいことについて次のように話した。「もちろん、おいしいものをいっぱい食べたいし、夏ですごく暑いのでウオータースライダーとか満喫して、遊園地とかっていうよりプールとかで遊びたい」。両手で丁寧にマイクを持ちながらの、10代らしさが交じった受け答えは好感を与えた。中学で地元の宮城県から神奈川県川崎市に引っ越したが、競技だけではなく学校生活との両立を重視。社会生活をおろそかにしない側面が人間性を育んでいるともいえる。

 国内では当面、8月24日に開幕したノジマTリーグでプレーする姿を見ることができる。優勝チームには賞金1千万円などが贈られるリーグで、木下アビエル神奈川の一員として2季ぶりの制覇を狙う。埼玉県越谷市にある日本最大級の巨大ショッピングモール、イオンレイクタウンmoriで同19日に開かれたリーグ開幕記者会見に出席し、招待されたファンたちの前で笑みを振りまいた。「オリンピックが終わって卓球人生が終わりではなくて、ここからがスタートだと思う」。4年後のロサンゼルス五輪のときは20歳。ともに8歳年上に当たる早田、平野らと切磋琢磨しながら、日本女子種目未踏の五輪金メダルを目指す。


VictorySportsNews編集部