関連グッズなども飛ぶように売れ、なかでも大谷が9月19日(日本時間20日)のマイアミ・マーリンズ戦で達成した「50-50」の記念Tシャツは、発売からわずか4日間で累計3万枚を超える売り上げを記録したという。そこでこのTシャツを販売しているMLB公式オンラインショップの岡崎マネージャーに話を聞いた。

「WBCで発売した『ペッパーミルTシャツ』もおかげさまでかなり好調だったのですが、今回のTシャツはそれよりもはるかに速いスピードでかなりの売り上げを取れているという感じですね。実は(8月23日の)『40-40』達成後に急いで準備を始めて、『50-50』を達成した試合の最中にはもう販売を開始していました」

 MLB公式オンラインショップは世界最大級の公式スポーツライセンスマーチャンダイジング企業であるFanatics Inc.の日本法人、ファナティクス・ジャパン合同会社(以下。ファナティクス・ジャパン)が運営しているもの。ここではTシャツのみならず、MLBに関するさまざまなグッズを扱っている。

 昨年はWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)に侍ジャパンの一員として出場し、コショウを挽く真似をする「ペッパーミル・パフォーマンス」が新語・流行語大賞のトップ10にも選ばれたラーズ・ヌートバー(セントルイス・カージナルス)と大谷をデザインした『ペッパーミルTシャツ 大谷&ヌートバー』を発売。こちらも発売から14日間で売り上げ3万枚を突破しているが、今回の『50本塁打50盗塁記念Tシャツ』に対する反響は、大谷の人気を考慮しても予想をはるかに超えるものだったという。

「(売り上げは)その時の成績によったりもするのですが、(『50-50』を達成した)その日が6打数6安打で、『50-50』も超えてホームランは51本になったんですよね。本当に最高のシチュエーションだったのかなと思っていて、それはさすがに予想できませんでした。その時点で『60-60』のグッズも準備しなければというのも一部でありまして、結果的に達成はできなかったですけど、大谷選手に関しては本当に予想外のことばかりという感じでした」

 達成当日の試合中にオンラインで発売されたTシャツは、全3種類。予想を上回る反響を受け、10月1日には達成時の写真や、6打数6安打3本塁打10打点2盗塁という当日の成績を織り込んだものなど、新たに3種類のTシャツの追加販売を開始した。Tシャツ以外にもフラッグやタオル、ピンズ、キーストラップ、缶クーラーなど、記念グッズは追加販売されたものを含めると20種類以上にもおよぶ。

「Tシャツ以外のグッズも想定をはるかに上回る売り上げです。記念商品のおまとめ買いと言いますか、Tシャツだけでなく小物類だったり、そういうものも一緒にお買い求めいただいている方がけっこういらっしゃいます。おそらくTシャツに引っ張られる形で、他の商品もいろいろと購入していただいているパターンが多かったのではないかと思います」

 こうした記念グッズはMLB公式オンラインショップでのみ購入が可能で、注文の時期にもよるものの、既に商品の発送は始まっているという。このスピード感の陰には、独自のビジネスモデルとして『V-commerce』(ファングッズの企画、製造、販売までを垂直統合的に行うモデル)を掲げる同社ならでは“強み”がある。

「『ホットマーケット』と呼んでいるんですけど、ファンの方の熱が一番アツい時に、ファンの方が求めるグッズをなるべく早く購入できる状態にするというのが我々の得意とするところです。弊社では生産も一部自社でやっていますので、たとえば今回のように記録を達成したら、そこからグッズをお客様にお届けするまでのリードタイムを短くできるというのももう一つの強みで、これを『V-commerce』と言っています」

 このMLB公式オンラインショップでは、大谷や他の日本人メジャーリーガーはもちろん、全30球団のグッズを扱っている。Tシャツの背にネームと背番号の入った「ネーム&ナンバーTシャツ」を販売しているのはここだけ。大谷の活躍により、MLBに対する関心は日本でも年々高まっている印象だが、グッズの売り上げなどはどうなのか。

「大谷選手のチームメイトの(ムーキー・)ベッツ選手とか(フレディ・)フリーマン選手とか、その辺りはグッズの販売はけっこう順調です。日本人選手ですと、今年は(シカゴ・)カブスの今永(昇太)投手のアイテムも人気ですね。街中ではドジャースのキャップを見かける頻度がかなり多くなりましたし、たぶんファッション的なところもあってダルビッシュ(有)投手のいる(サンディエゴ・)パドレスのキャップを被っている方もかなり見かけるようになりました。ただ、これをアメリカと比べた時にはまだまだ伸びしろがあるというか、もっと広がっていく余地はあるのかなと思うので、その辺を広げていくのが我々の使命なのかなと思っております」

 プロスポーツ史上でも最高額と言われる10年総額7億ドル、日本円にしておよそ1000億円の契約で今季からドジャースに移籍した大谷は現在、自身にとって初めてのポストシーズンでの戦いに臨んでいる。10月5日(日本時間6日)に行なわれたナ・リーグ地区シリーズ第1戦では同点3ランを放つなど、このポストシ―ズンでの活躍にも期待は高まるばかりで、岡崎氏も「もちろんワールドシリーズまで行って優勝すれば記念グッズを発売する予定ですし、かつての松井秀喜さん(ニューヨーク・ヤンキース)のようにワールドシリーズMVPということもあるので、いろんな可能性に対応できるようにと、社内で話しているところです」と言う。

「今年ももしかしたらワールドシリーズで優勝するかもしれないですけど、(10年という)長期契約の中では優勝のチャンスは何度もあると思っています。たとえばWBCで優勝した時のように大谷選手が最後に胴上げ投手になって、しかもその試合でホームランを打つ、そんな想像もできなくはないです。これまでも我々の想像をことごとく超えてきた選手なので、これからもそういったところで我々を、ファンを熱狂させてほしいなと思っています」

 冒頭で紹介したとおり今シーズンは数々の偉業を達成し、打率.310、54本塁打、130打点、59盗塁という、およそ考えられないような成績を残した大谷。来年も日本で行われる開幕戦を手始めに、活躍するたびにさまざまなグッズが作られていくはずだ。「全てはファンのために」とはMLB公式オンラインショップを運営するファナティクス・ジャパンが掲げるテーマだが、そうしたグッズを集めるのもファンにとってはたまらない喜びだろう。


菊田康彦

1966年、静岡県生まれ。地方公務員、英会話講師などを経てメジャーリーグ日本語公式サイトの編集に携わった後、ライターとして独立。雑誌、ウェブなどさまざまな媒体に寄稿し、2004~08年は「スカパー!MLBライブ」、2016〜17年は「スポナビライブMLB」でコメンテイターも務めた。プロ野球は2010年から東京ヤクルトスワローズを取材。著書に『燕軍戦記 スワローズ、14年ぶり優勝への軌跡』、編集協力に『東京ヤクルトスワローズ語録集 燕之書』などがある。