早速の好感触

 日本相撲協会の仕事始めだった1月6日。東京・両国国技館内の事務所では、新しいジャケットに身を包んだ親方衆や職員の姿があった。相撲協会の前身、大日本相撲協会が財団法人設立の認可を得たのが1925(大正14)年12月だった。そして2025年新春。100周年を迎えるにふさわしい、新鮮な光景が広がっていた。

 このほど出来上がったオフィシャルジャケットは左胸に相撲協会、上腕部にユニクロのロゴマークがあしらわれている。そして背中の上部には、昨年9月の相撲協会理事会後に発表された100周年の記念ロゴ。特別感満載となっている。角界では現役を引退して親方になることを「紺色のジャンパーを着る」と表現することがある。本場所のテレビ中継で花道警備の親方が着用しているのを目にすることもあるように、ファンにはおなじみの紺色ジャンパーだったが、今回一新された。

 ユニクロによると、社内にプロジェクトチームをつくって開発に着手した。親方や職員が働いている様子をモニターして研究。デザイン性と実用性を追求した。事務所や館内に至るまで、季節を問わずに着こなせるように軽量、伸縮、速乾性に優れた高機能ウエア「感動ジャケット」の生地を採用。ポケットの大きさや配置、そでをまくり上げやすい仕様にする念の入れようで、もちろん特注サイズにも対応している。

 早速着用した相撲協会幹部は「伸縮性があって動きやすいね」と好感触を口にした。ユニクロを展開するファーストリテイリングの柳井康治取締役は100周年事業に携わることに「大変光栄に思います」とコメント。良好な関係性が示されている。

オフィシャルジャケットは左胸に相撲協会、上腕部にユニクロのロゴマークがあしらわれている

スポンサー集めの妙

 相撲協会自体を支える公式パートナー制度は2022年に始まった。協会ホームページによると、複数カテゴリーで最上位の「オフィシャルトップパートナー」には飲料メーカーの「伊藤園」、おつまみ各種を製造・販売する「なとり」が名を連ねる。その次の「オフィシャルパートナー」にはトマトケチャップで世界的に有名な「ハインツ」や「山崎製パン」が入り、もう一つの「HIROTSUバイオサイエンス」は、がんの早期発見サービス「N―NOSE」を協会員に無償提供するなど健康面でもサポートしている。「オフィシャルスポンサー」には今回の「ユニクロ」の他に「日本航空」などがあり、多岐にわたっている。

 相撲界のスポンサーといえば伝統的に、部屋単位や力士個人の後援者、後援組織がよく知られている。金銭面を含めて支援者を示す言葉として、今では一般的にも使われるようになった「タニマチ」も角界に語源がある。また、昔から相撲協会を後援する立場として東京、大阪、名古屋、福岡と本場所が開催される土地ごとの維持員がいる。一定額を寄付するなど条件付きで、座布団が置かれている土俵周りの「維持員席」で観戦できる。

 さらには、取組の際に力士名を呼び上げる呼び出しには独自のスポンサーが付いていて、着物の背中には「なとり」や「紀文」などの文字がしたためられている。公式パートナー制度はこれらとは違うアングルから大相撲の下支えとなっている。

ユニクロがサポートする意義

 時代の変化に対応しながら、伝統を積み重ねている角界。未来へ受け継いでいくためには財政的な基盤もしっかり固める必要がある。近年では新型コロナウイルス禍の影響を受けた。2020年春場所が無観客開催、同年夏場所が中止になり、その後も観客数を制限して実施するなど大打撃。相撲協会の決算は2020年度から3年間で、合計110億円以上の赤字を計上した。2023年度は4年ぶりに黒字に回復。今後は新型コロナ禍で失った分を取り戻していく流れとなっている。

 財政的側面でも公式パートナーの存在は大きい。部屋や力士の後援会、各場所の維持員などとの多層的なサポート体制に厚みが増した。そして、ユニクロのように世界的に事業展開する企業のバックアップは、海外における大相撲の知名度やステータスの向上につながる期待もある。ユニクロは今春、グラフィックTシャツブランド「UT」で、相撲協会とのコラボによる新商品を発売する予定。柳井康治取締役は「UTでの新たな展開において、日本の国技である大相撲の文化や魅力が、世界中のあらゆる人々に伝わることを今からとても楽しみにしております」と意義を表現した。

 今年7月の名古屋場所は、英国拠点のグループが命名権を持つ最新鋭の施設「IGアリーナ」に移って開催され、8月に大阪・関西万博の会場で巡業、10月にはロンドンのロイヤル・アルバート・ホールで20年ぶりの海外公演。12日初日の初場所のテレビ中継でも映り込むことになる新しい協会ジャケットは国内へのPRはもとより、次の100年に向けて国際的にも展開する「大相撲」の現在地を表している。


VictorySportsNews編集部