ゲームチェンジャーになり得る男が、横浜に帰還する。バウアーのDeNA復帰が決定。1月27日に開催されたイベント「横浜DeNAベイスターズ2025初春の集い」にビデオメッセージを寄せた右腕は「絶好調で、投手としてこれまでで最高の状態だ。僕にとって沢村賞とサイ・ヤング賞を取ることは野球人生で最高の栄誉であり、今年はそれを成し遂げたいと思っている。そして、何より横浜スタジアムで皆さんに会う時が待ち切れない」と思いを吐露し、集まった約1000人のファンを沸かせた。
2020年に米大リーグでサイ・ヤング賞(最優秀投手賞)に輝いた世界最高クラスの投手だ。21年にDV疑惑(のちに証拠不十分で不起訴、和解成立)でMLBから194試合の出場停止処分を受けるなどした影響で海外に活躍の場を求め、23年シーズンの開幕直前にDeNAに電撃移籍。同年5月に日本球界デビューを果たし、シーズン途中からの合流、さらに終盤のけがでの離脱がありながら10勝4敗、防御率2.76と好成績を残した。
優勝への不可欠なピースとして、昨季もDeNAは再契約に向けて交渉を重ねたが、メジャー復帰を熱望するバウアーは最終的にメキシコ・リーグでのプレーを選択。このオフもメジャー復帰を諦めず、最低年俸でのプレーも受け入れる意思を示していた。しかし、手を差し伸べるメジャー球団はなかった。背景には、投手の粘着物質使用疑惑を指摘するなど“忖度”のない姿勢への米球界の拒否反応があったとも米メディアで報じられている。
そんな中で、DeNAの姿勢は一貫していた。コミュニケーションを欠かさず、高額になる契約費用を常時確保しながら復帰への門戸を開き続けてきた。バウアーの代理人を務めるレイチェル・ルーバ氏は、複数のNPB球団から獲得の打診があったことを明かしており、DeNAの粘り強い姿勢が“誠意”として伝わり、今回の早期合意へとつながったといえる。
個人ファンクラブの設立やアパレルブランドとの提携で協力体制を敷くなど、23年の獲得時に築いた関係性も、大きな後押しとなった。編成トップの萩原龍大チーム統括本部長は、復帰を打診する中で、協業のアイデアをバウアー側に提示してきたことを過去に明かしている。科学的な野球へのアプローチを紹介するYouTubeチャンネルについては、前回も球団施設内での撮影を認めるなど全面協力がなされた。個性的な活動への理解や柔軟な姿勢は、信頼関係を築く上で重要な要素となった。
大型補強に成功したことで、DeNAは悲願のリーグ優勝、日本シリーズ連覇を大きく引き寄せたと言っても過言ではない。先発陣は昨季13勝4敗、防御率2.16の成績を残したエース左腕の東を筆頭に、8勝を挙げて規定投球回の143回を投げた来日2年目のジャクソン、24試合とコンスタントに先発してポストシーズンでも輝いた同じく来日2年目の左腕ケイがおり、ここにバウアーが加わることで不動の「4本柱」が形成される。
先発の枠は残り2。これを20、21年に2桁勝利を挙げ昨季6勝の大貫、復活を期す平良、高卒4年目の飛躍を狙う小園、プロ2年目の石田裕、昨季終盤に才能の片鱗を見せた3年目の吉野、昨季イースタンで2位の8勝を挙げ開幕までの支配下登録が期待される庄司、高卒5年目の松本、先発転向を表明した伊勢、ルーキーのドラフト1位・竹田(三菱重工West)、同2位の篠木(法政大)らが争う構図となる。まさに三浦監督から“うれしい悲鳴”が聞こえてきそうなほど、充実した陣容だ。
そして、特筆すべきはバウアーのタフネスぶり。23年シーズンの10勝は5~8月だけで記録した数字。日本球界では今や珍しくなった中4日の登板間隔を好み、短期間で驚異的な成績を残した。前回来日時の登板間隔は中4日が6試合、中5日が6試合。防御率は中4日で登板した際の1.84が最高だった。
バウアーは沖縄・宜野湾での春季キャンプこそ参加していないが、米国で順調に調整を続けており、開幕直前の合意で合流が遅れた前回と状況も異なる。前回の来日時は出場停止処分により長く実戦を離れており、低めのボールを効果的に使う必要がある日本特有の打者攻略パターンに慣れるまでに時間も要した影響で、序盤にややもたついた。昨季はメキシコ・リーグで負けなしの10勝をマークし、最優秀投手賞を受賞。今回は臨戦過程にも不安がない。
仮に年間を通して中4日で回れば「火→日→金→木」と3週間で4試合に登板できるため、単純計算で年間32~35試合ほどの先発登板が可能になる。2桁勝利どころか、13年に田中将大(楽天、28試合登板で24勝)が達成してから途絶えている20勝も視野に入る数字。2000年代で年間31試合以上先発した投手は、以下のように、いずれも2桁勝利を挙げ、9人中6人が15勝以上をマークするなど鮮烈な活躍を見せている点も強調すべき材料だ。
00年 広島・ミンチー(31試合、12勝10敗)
01年 西武・松坂(32試合、15勝15敗)
02年 ヤクルト・ホッジス(32試合、17勝8敗)、広島・ミンチー(32試合、15勝14敗)、
近鉄・パウエル(32試合、17勝10敗)
03年 日本ハム・ミラバル(31試合、16勝11敗)
08年 巨人・グライシンガー(31試合、17勝9敗)
11年 広島・前田(31試合、10勝12敗)
14年 阪神・メッセンジャー(31試合、13勝10敗)
また、外国人枠は1軍登録が5人、ベンチ入りは4人だが、先発投手が同時にベンチ入りすることはないため、野手のオースティンと救援のウィックを登録しながら、バウアー、ジャクソン、ケイの先発3投手を同時に運用することが可能だ。ジャクソンはメジャー流の中4日での登板が可能で、6人で6連戦を回す日本流に縛られる必要もない。ローテーションから漏れた先発投手を救援へ配置転換することもでき、投手運用の幅は確実に広がる。
数字上の効果だけではない。バウアーの加入で期待されるもう一つの要素が精神面だ。21年にドジャースでバウアーと同僚だった筒香は「野球に対してストイックで真面目。チームにとって間違いなく大きな戦力」と歓迎する。23年に巡回コーチを務め、昨季限りで退団した前2軍監督の青山道雄氏は、1月28日に配信された元楽天監督・大久保博元氏のYouTubeチャンネルで「影響力のある投資」と表現。23年7月1日の中日戦で、挟殺プレーでミスがあった際に怒りをあらわにした場面を振り返り、「(ミスをした)選手に怒っているというより、チームが勝つために何をしているんだということ」と勝利への情熱がもたらす好影響に触れている。
昨季チーム防御率がリーグ5位の3.07で、リーグ終盤やポストシーズンで先発の頭数が足りず苦労を強いられただけに、三浦監督も「ワクワクしているし、1年間フルで回転してもらいたい」と期待を隠さない。昨季のDeNAは71勝69敗3分けで、優勝した巨人は77勝59敗7分け。巨人も前中日の守護神、ライデル・マルティネス獲得という大型補強に成功しており単純計算はできないが、10勝を積み上げられれば数字上は逆転する。少なくとも、バウアーの加入により「横浜奪首」がより現実味を帯びてきたのは間違いない。
トレバー・バウアーがベイスターズに電撃復帰! 決断の理由とチームにもたらす計り知れない効果とは
横浜DeNAベイスターズは1月27日、トレバー・バウアー投手(34)の2年ぶりとなる復帰を発表した。単年の契約総額は9億円規模(出来高払いを含む)で、背番号は前回と同じ「96」。横浜市内で行われた「初春の集い」で新ユニホーム、新スローガン「横浜奪首」とともに公表され、多くのファンを喜ばせた超大物右腕の電撃加入。その獲得の舞台裏と、27年ぶりのリーグV&日本シリーズ連覇に向けたチームへの絶大なる効果に迫る。
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2025年ベイスターズに舞い戻ったトレバー・バウアー、リーグ優勝の切り札として期待される(トレバー・バウアーHPより)