この企画の責任者はFanatics Japanのマネージャーウェブマーケティング山名知世さん。福岡に本拠地のある球団のイベントを関東でやろうと思ったきっかけについてお話を伺った。山名さん「ホークスのファンは九州の方が多いと思うんですが、(Fanaticsの)オンラインストアの利用者は関東、もう少し広げると静岡や東海にも非常に多くいます。でもホークスの試合をこちら(関東)で(現地)観戦したりユニフォームを着て何かイベントに参加する機会は限られます。なのでユニフォームを着たりグッズを身に着けられる機会を作れたら、という想いから始まりました」。ホークスのホーム・みずほPayPayドーム福岡のホークスストアでトークイベントなどを行ったことはあるが、関東では初めてとなる。日常の一コマにホークス愛を散りばめ、ファンの想いを体現する場を設けることが開催の意義となる。そのコメントに、社長の川名正憲氏が掲げる理念が重なる。“ファン体験を徹底的に高めるために何をするべきか” 社訓ともいうべき哲学を今回、山名さんが見事に具現化しイベント開催に漕ぎつけた。スタート前から店外に溢れんばかりに高まる参加者のボルテージを肌で感じ、山名さんの熱意が結実の時を迎えた事を確信した。

ベースボール居酒屋 リリーズ神田スタジアム

 栄えある第一回の会場に選ばれたのはベースボール居酒屋リリーズ神田スタジアムさん。JR神田駅から徒歩1分ほど。居酒屋が立ち並ぶ路地の一角で毎夜、野球好きの酔客を吸い込むオアシスの如く看板に灯をともしている。“ファン歴や贔屓球団を問わず、野球を愛する方であればだれでも楽しめる、「すべての野球ファンにとって第二の本拠地球場」を目指す”、がお店のコンセプト。2013年開業の全天候型居酒屋である。店内にはユニフォームやタオル、ポスター、フィギュアなど数千点にも及ぶ野球関連グッズが所狭しと並び入店直後から野球好きの目は釘付け。フローリングの床には人工芝が敷き詰められ、少年野球用のベースを座布団に使用するなど、細部にわたり拘りを発揮している。筆者もプライベートで必ず再訪しよう!と心に誓ったのは言うまでもない。

野球一色で染まったベースボール居酒屋リリーズ神田スタジアム

球団OBのレジェンド!五十嵐亮太さん登場!

 鷹党の熱気に気圧され気味だった筆者。そんな中、“試合開始”時刻が迫る。そして。スペシャルトークゲストにしてイベントの主役!福岡ソフトバンクホークスのOBであり元メジャーリーガーの五十嵐亮太さんが会場に姿を現す。割れんばかりの拍手。鷹祭のカチドキレッドのユニフォームに身を包み、こちらもホークス愛全開。1997年ドラフト2位でヤクルトスワローズ(現東京ヤクルトスワローズ)に入団。その後、活躍の場をアメリカに移し、ニューヨーク・メッツ、トロント・ブルージェイズ、ニューヨーク・ヤンキースでメジャー通算83試合に登板。帰国後は福岡ソフトバンクホークスで2013年から6年間、東京ヤクルトスワローズで2年間を過ごし2020年、惜しまれつつユニフォームを脱ぐ。もはや説明不要のレジェンドである。司会進行はスポーツアナウンサーの福田太郎さん、そして熱烈なホークスファンとして知られる福岡出身のタレントでインフルエンサーの新谷あやかさん。このお三方の登壇がイベントの開会を告げる。居酒屋からスタジアムへ。店内のボルテージは最高潮に!17:50、五十嵐亮太さんの乾杯の御発声でファンミーティングはスタートした。

左から福田太郎アナ、新谷あやかさん、五十嵐亮太さん

日本一奪還に向けた展望

 今季、球団史上初となる開幕3連敗から始まった福岡ソフトバンクホークス。4月から5月にかけては下位に低迷したが、小久保裕紀監督が見事に立て直し、2年連続23回目(リーグ分立前優勝2回/パシフィックリーグ制覇21回目)の優勝を勝ち取った。次なる目標は5年ぶりとなる日本一奪還。そのためにはまずクライマックスシリーズ(CS)を勝ち抜かなければならない。最初のお題は現状の強みと抱える問題点。ストロングポイントは投手陣。チームでは20年ぶりとなる“二桁勝利カルテット”が誕生。有原航平投手14勝、大関友久投手13勝、上沢直之投手12勝、リバン・モイネロ投手12勝。ブルペンに目を移すと、守護神のロベルト・オスナ投手が6月中旬に故障離脱。その緊急事態を救ったのは進境著しいパシフィックリーグセーブ王(31S・1位タイ)杉山一樹投手、そしてその前を受け持つ最多ホールド(44HP)松本裕樹投手、リーグ7位タイ21HPの藤井皓哉投手。“樹木トリオ”の活躍で勝ちパターンは完成を見た。先発四本柱にブルペンの充実。CSは強みである投手陣がしっかり試合を作る事が絶対条件。一方ケガ人続出で苦しいやりくりとなった野手陣は、柳田悠岐選手故障の穴を埋める活躍を見せ打率.292でランキング2位、リーグ6位の129安打を記録した柳町達選手、出場116試合中40試合で4番を務め打線を牽引した中村晃選手に称賛コメントが集中。そしてもう一人のキーマンとして今季スランプに苦しんだ山川穂高選手の復活と大爆発が勝利へのカギと結論づけられた。

ホークスグッズ談義

 ポストシーズンに臨む若鷹軍団への期待を思い思いに語り合い、その熱気で場は完全に温まった。頃合いを見計らっていた司会の福田太郎アナがメインイベント、ホークスグッズ談義の開会を告げる。これはファン目線から応援グッズを考案し、プレゼンしてみよう!という画期的な企画である。集いし30名の紳士淑女にアイディアを求めたところ、出るわ出るは、まるで打ち出の小槌の如し。スペシャルトークゲストの新谷あやかさんからは、「方言×福岡、福岡と言えばホークスだから福岡をもっと出してほしいと思って大喜利タオルを提案します!」「例えば、周東選手で考えた時に、周東もうそんなとこおると⁈これは周東選手があまりの韋駄天で二塁とか三塁に到達していた時に驚きの気持ちを込めて言う博多弁とシュウトウのゴロを大喜利風にかけた言葉。そのセリフがプリントされたタオルをスタンドで掲げて応援するんです。他の選手のも考えて作って欲しい」この発案には多くの共感が寄せられた。また司会の福田太郎アナウンサーからは、選手のボブルヘッド人形の提案がなされる。「子供の頃、福岡ドームに行ったときに買った人形が、いま実家に帰るとまだリビングに飾ってある。時を越えて大事にしてもらえるものが一家に一つあってもいいかな」これにも賛同の拍手多数。参加者からは、選手の声が出るキーホルダー、企業とコラボしたぬいぐるみ、似顔絵入りのタオル、コアなところでは夏場の暑さを凌ぐための冷感素材のユニフォーム、OB戦のグッズなど日頃温め続けているであろうアイディアが湧き水の如く溢れ出て、終了の時間を若干オーバーするほどの盛り上がりを見せた。

タオルプレゼン中、想いを熱く語る新谷あやかさん

ファンミーティングに無限の可能性

 大盛況のうちにイベントはお開きとなった。今回の取材を通して感じた事。それはファンミーティングが持つ無限の可能性である。情報発信、そして共有の場と捉えるならば、参加者の皆さんは互いの持つ情報を交換した事でホークスに関して更なるアップデートに成功したに違ない。筆者は思う。この試みが12球団全てで可能になり、スタジアムでの現地観戦が簡単ではない地域にお住いのファンの皆さんにも、野球の楽しみ方の選択肢のひとつとしてイベントを提供する事が出来たなら、きっとそれは野球人気の裾野を広げる事に寄与する。そこで起こる自然発生的なファン同士の交流は全国規模で拡大し、コアな情報を共有できた一体感は応援文化の更なる醸成を引き出す。企画責任者の山名知世さんは「今回1回きりではなく今後も開催しながらユニフォームやグッズに関してファンの皆様のアイディアを吸収させて頂きたいと思っています。そして東京や関東といった枠を越えて全国展開に向けた取り組みも可能性はゼロではないと思います」と話す。全国展開が実現すれば参加者の延べ人数は飛躍的に増える。一人一人が持つグッズの新たなコンセプトはファンの数だけ存在し“ファン体験を高めるための商品開発”を目指すFanatics Japanにとってファンミーティングは宝の山となる。参加者、そして主催者サイド双方にとってwin winの関係が築かれる。それこそが、このイベントの持つ意義であり、秘めたる無限の可能性であると思う。第一回の成功を足掛かりにファーストペンギンとなったFanatics Japanは次なるステップへの扉を開く。会場を後に駅へと向かう中、イベントの熱気で上がった体温に秋の夜風が心地よかった。


渡邉直樹

著者プロフィール 渡邉直樹

1967年4月8日生まれ 東京都出身  1993年7月:全国高等学校野球選手権西東京大会にて”初鳴き”(CATV) /1997年1月:琉球朝日放送勤務(報道制作局アナウンサー)スポーツ中継、ニュース担当 /琉球朝日放送退社後、フリーランスとして活動中 /スポーツ実況:全国高等学校野球選手権・東西東京大会、MLB(スカパー!、ABEMA) /他:格闘技、ボートレース、花火大会等実況経験あり /MLB現地取材経験(SEA、TOR、SF、BAL、PIT、NYY、BOS他)