「メジャー移籍を目標としてやってきたっていうのも分かってるし、その夢が叶った瞬間でもあるので僕も嬉しいです。髙津監督(前ヤクルト監督の髙津臣吾氏)もホワイトソックスでプレーしていたので、その嬉しそうな感じもいいなと思いました」
村上のホワイトソックス入団の報を受けてそう話したのは、ヤクルトで共に選手として過ごした先輩であり、自身もメジャーリーグでプレーした経験を持つ五十嵐亮太氏。「日本であれだけ結果を残した選手なので、メジャーでやっている彼のプレーを見てみたいなという気持ちはありました」という五十嵐氏は、ホワイトソックスというチームへの入団をどう見ているのか。
「チーム自体は2年連続最下位だし、3年連続で100敗してるんですよ。再建中っていうところが、村上にとってはいいのかなと思います。やっぱり試合に出られないよりは出られたほうがいい。チームの状況を考えたらその機会は絶対に多いです」
五十嵐氏がそう話すとおり、ホワイトソックスはアメリカン・リーグ創設の1901年誕生の名門ながら、2024年には近代メジャーリーグ記録を塗り替えるシーズン121敗を喫するなど、ここ最近は低迷が続いている。今季は60勝102敗とやや持ち直したものの、ア・リーグ中地区では2年連続で5球団中の5位。ルーキーのコルソン・モンゴメリー(23歳)が7月のデビューから21本塁打を放ったものの、チーム本塁打はメジャー30球団中23位に終わっていることからも、村上のパワーに対する期待は大きいはずだという。
「やっぱり一番は長打ですよね。ホームランの数っていうのは大事になってくると思います。今年のホワイトソックスは同じような感じの選手でどうにかみたいな打線で、そこで村上がいきなり30本打ったらもうみんな大喜びですよ。大谷の1年目が22本なので、いきなりそれを上回るってなると簡単じゃないかもしれないけど、見たいですよね。おそらくは獲る側もそれくらいのイメージを持ってるんじゃないのかなと思います」
日本では主に三塁、そして一塁も守った村上だが、新天地ではどのポジションに就くのか。今季のホワイトソックスで最も多く三塁を守ったのは、ロサンゼルス・ドジャースからの移籍1年目で16本塁打、60打点をマークしたミゲル・バルガス(26歳)の79試合(先発76試合)。一塁もこのバルガスの63試合(先発55試合)が最も多く、スタメンだけでも8人の選手がこのポジションに就いていた。
「ファーストが固定できていなかったんですよね。だからそこがまず当てはまってくるのかなと思います。あとは DHですね。その辺りが基本線になってくると思います。ホワイトソックスは今、チーム再建中。これから強くなっていくチームなので、そこで『村上が入ったて良くなったよね』って言ってもらえるような選手になったら、めちゃくちゃカッコいい。先陣を切って、再建中のチームを変えるきっかけになってもらえたら嬉しいなと思います」
一時は総額で1億ドル(約156億円)を超える大型契約の可能性も取りざたされていたものの、実際にホワイトソックスと結んだのは総額3400万ドル(約53億円)の2年契約。ただし、五十嵐氏はこの契約は村上にとって決して悪いものではないと見ている。
「契約内容自体は決して悪くないというか、むしろ良かったんじゃないかと思ってます。2年契約っていうと短い感じもするけど(長期の)複数年で年俸を抑えられるよりも、しっかり結果を残して次(の契約)につなげたいっていう意識が伝わってきますよね。今年(ロサンゼルス)・ドジャースのマックス・マンシー(35歳)が1000万ドル(約16億円)で再契約(オプション行使)したんですけど、(単年の)年俸で考えたら村上のほうが700万ドル(約11億円)上回っている。それなりに評価は高いし、成績も残すだろうっていう期待も高いのかなと思ってます」
ヤクルトからポスティングでメジャーに移籍する選手は、野手としては岩村明憲、青木宣親(現ヤクルトGM特別補佐、次期GM)に次いで3人目。岩村は1年目の2007年にタンパベイ・デビルレイズ(現レイズ)で打率.285、7本塁打、34打点、OPS.770、青木は2012年にミルウォーキー・ブルワーズで打率.288、10本塁打、50打点、OPS.788の成績を残している(どちらも規定打席到達)。では五十嵐氏がメジャー1年目の村上に求める数字とは──。
「2年契約の1年目とはいえ、ある程度は成績を残さないといけない。僕はよくマンシーと比較するんですけど、彼は今年(打率).243、ホームラン19本で、OPSは.800を超えてるんです(.846)。だから村上も打率は2割台中盤ぐらいでいいのかなと思いますけど、どちらかといえば大事なのはOPS。これが.800を超えてホームラン20本台に乗ってくると、まずまずのシーズンなのかなという感じがします。日本人選手って1年目にある程度感覚を掴んで2年目に良くなる選手が多いので、そこを踏まえて2年目以降に期待したいですね」
OPSとは出塁率と長打率を足したもので、現在のメジャーリーグではかなり重視されている指標である。近年の日本人メジャーリーガーの1年目でいうと2018年の大谷翔平(エンゼルス、現ドジャース)が.925だったのはさすがだが、2022年の鈴木誠也(カブス)は.769、2023年の吉田正尚(レッドソックス)は.783。日本で通算OPS.951を誇った村上とはいえ、メジャー1年目に期待される数字として「OPS.800」は現実的なものに思える。
「メジャーの野球に対応できるかどうかっていうところが成功の分かれ目になってくるのかなと思います。対応できる能力はあるはずなんですよ。どこかで(気持ちが)揺らぐ時があると思うんですけど、すべて変える必要はない。自分の軸となるものをしっかり持ちながら環境に合わせていかなければいけないので、その辺のバランスを保てるかどうか。まずは自分がアメリカでやっていくためには何が必要なのかっていうものをしっかり見つけ出すことが、1年目は大事な気がしますね」
ヤクルトに復帰した2019年から2年間共にプレーした五十嵐氏は、村上を「チームを良い方向に持っていく、そういう雰囲気づくりがすごく上手かった」と評する。だからこそ低迷中のホワイトソックスで大きな存在になってほしいとエールを送る。
「あの長打を打つ魅力はもちろん、苦しい時でも自分のことをやりつつチームを見ながら幅広い視野でプレーができる選手。チームは再建中で若い選手も多いですし、村上自身も若いですけど、そこで中心となって活躍していくような選手になってもらいたいなと思います。必ず(アメリカに)応援に行きます」
かねてから憧れていたというメジャーリーグ。日本中の野球ファンや大先輩からの期待を背に受け、来年からはその夢の舞台で「村神様」と呼ばれた男の新たな挑戦が始まる。
村上宗隆がホワイトソックス入団 合格点は「OPS.800」
メジャーリーグ移籍を目指して東京ヤクルトスワローズからポスティングを申請していた村上宗隆(25歳)が、シカゴ・ホワイトソックスと2年契約で合意。12月22日(日本時間23日)に本拠地のレートフィールドで入団会見を行い、背番号5の真新しいユニフォーム姿を披露した。
ホワイトソックスに入団した村上宗隆 ©Eileen T. Meslar/TNS via ZUMA Press Wire/共同通信イメージズ「ZUMA Press」