世界戦で6連続KO勝ちの充実ぶり
階級を上げても軽快なフットワーク、パンチの切れは抜群だった。サウスポーのロドリゲスは昨年11月、世界ボクシング協会(WBA)などのスーパーフライ級3団体統一戦で10回TKO勝ち。そこから半年以上かけて体をつくり上げた。米アリゾナ州グレンデールでWBAバンタム級王者のアントニオ・バルガス(米国)に挑み、6回KO勝ちを収めた。身長など体格差で劣る場面もあったが徐々に対応。素早く右に回り込んでの鋭い左などで盛り返し、5回に左フックでダウンを奪った。そして6回、ボディーの後の右、左のコンビネーションで鮮やかにキャンバスへ沈めた。
テキサス州サンアントニオ出身の26歳。2017年に17歳でプロデビューして以来、戦績は24戦全勝(17KO)を誇る。2023年12月以降、全て世界タイトル戦で6試合連続KO勝ち。米専門誌「ザ・リング」選定の全階級を通じた最強ランキング「パウンド・フォー・パウンド(PFP)」で4位に浮上してきた。KOシーンの中でも印象深いのが、フライ級からスーパーフライ級に上げた2024年6月。PFPの常連だった世界ボクシング評議会(WBC)王者のフアンフランシスコ・エストラダ(メキシコ)をボディーショットで倒し、鮮烈な強さを披露した。
今回バルガスを倒して3階級制覇を果たした。試合後、PFP1位の井上尚との対決へ準備は整ったかと問われると、こう応じた。「いつでも誰とでも闘う準備はできている。目の前に誰を連れてきても、イエスと答えるよ」。そして「井上と闘わずして引退することはないと感じている。もちろん倒す」とまで言い切った。33戦全勝(27KO)の〝モンスター〟井上尚を向こうに回しての強気な姿勢は、ファン垂涎のカードへ期待感をあおっている。
バムが漏らした言葉
井上尚―ロドリゲスへの待望論は以前から存在し、いやが上にもムードは高まっている。5月上旬には早々に、両雄が来年1月に対戦する計画があるとの情報が駆け巡り、会場として東京・MUFGスタジアム(国立競技場)も取りざたされた。ただ、ネームバリューが大きい選手同士のマッチメークは難度が高くなりがち。契約間近で交渉が決裂する場合もあるという。試合のタイミングや多額のファイトマネー、動画配信業者との契約、会場など、両陣営のさまざまな思惑が絡んでくるからだ。
ロドリゲスの場合、階級転向が一つのポイントで、試合スケジュールについて陣営内でもスタンスが異なっている。トレーナー兼マネジャーを務めるロバート・ガルシア氏は、井上尚に挑む前にバンタム級でもう1試合挟むことを主張している。目的は階級の差に慣れるため。確かにバルガス戦では圧力に押され、連打を許すシーンがあった。ガルシア氏によると、ロドリゲス本人も体格の違いを口にしたといい、現地メディアに次のように話した。「試合の後、バムは『大きい選手の強度を体感したよ』と言っていた。もう1戦必要。強打の持ち主で、今後のテストになるような相手がいい」。有力候補に世界ボクシング機構(WBO)王者のクリスチャン・メディナ(メキシコ)を挙げた。早ければ9月にリングに上がることもあり得るとし、10月~11月上旬の線も否定していない。
一方、プロモーターのエディ・ハーン氏は迅速に井上尚戦を実現させる重要性を強調する。「もし速やかにやらなければ、多分話はなかったことになる。適切なオファーであれば、バムとロバートは恐れることなく応じるはずだ」と期待を込めた。マッチメークの難しさを熟知している立場で、絶好のチャンスを逸してしまうことの恐れをにじませていた。
ビッグバンの証言と試合間隔
6月下旬、井上尚の所属する大橋ジムの大橋秀行会長の発言が注目を集めた。出演したユーチューブ番組で、来年2月にビッグマッチを行うべく、準備を進めていると明らかにした。ここで気になるのがロドリゲスの試合間隔。過去に階級を上げたタイミングでは6カ月以上空けてきた。例えばフライ級で最後の世界戦を闘ったのが2023年12月16日で、スーパーフライ級でエストラダを下したのが翌年6月29日だった。前述したように、今回のバルガス戦もしかり。9~11月にバンタム級でもう1試合組むとなると、来年2月までに急ピッチでの体づくりが必要になる計算だ。
さらに、スーパーバンタム級へ転向する際の大変さを指摘する声がある。フライ級からスーパーフライ級を挟んでバンタム級まで、各階級の制限体重の差は約1・3キロなのに対し、バンタム級とスーパーバンタム級は約1・8キロ。この隔たりについて以前、〝ビッグバン〟中谷が実体験を基に語っていた。5月2日の井上尚との大一番を控え、スーパーバンタム級に上げて闘った試合について、こう述懐していた。「今までは1・3キロくらいの幅だったが、2キロ弱の増量だった。慎重に自分の感覚を確かめながら階級を上げていった。(試合中)今までだったら倒れていたであろうパンチが、相手に効かなくなっているという部分を感じながら闘っていた」。自らの動きや相手のパワー。適応しなければならないことが従来より多い様子だった。
メガファイトが実現した場合、井上尚有利との予想が支配的なのは無理もない。パワー、スピードなど全て秀逸。スーパーバンタム級では2023年から闘い、9戦全勝(6KO)と申し分ない。井上尚には早くも、もう一つ上のフェザー級に関するうわさも出てきた。ロドリゲスは井上尚という破格のターゲットを逃さず、リングで相対することができるか。「お金はとても大切だけど、レガシーはそれと同様に大切なものだ」。不利は承知でも、当面の人生最大の一戦にはプライスレスな価値がある。