数々の印象的な優勝と冷静さ

 アントネッリは昨シーズンにF1デビュー。早速、表彰台に3度立ち、今季一気にブレークした。3月15日決勝の第2戦、中国GPでポールポジション(PP)からスタートし、19歳で初優勝を果たした。これはマックス・フェルスタッペン(オランダ)が2016年にマークした18歳7カ月に次いで史上2番目の若さでの勝利。勢いに乗って次戦の日本GPでもPPからトップでゴールした。三重県の鈴鹿サーキットで2位に13秒余りの大差をつける快勝。約13万人の観衆に存在感をアピールし「この特別なコースで勝てたことは本当にうれしい」と笑顔だった。

 6月のモナコGPではPP、最速ラップ、優勝、全周回リードのグランドスラムを達成し、伝統のレースで足跡をしるした。圧巻だったのが9月6日決勝の第13戦イタリアGP。19番手からスタートすると次々に抜き去り、終わってみれば最初にチェッカーフラッグを受けた。1983年に記録された22番手スタートに次ぐ、後方からの逆転劇。奇跡的な優勝に「信じられない、信じられないよ!本当に、本当にうれしい」と歓喜の感情を隠さなかった。イタリア勢として母国のGPを制するのは1966年以来、実に60年ぶりと祝福が重なった。〝フェラーリの聖地〟とも称されるモンツァ・サーキットでもファンを沸かせた。

 直近のスペインGP終了時点のランキングで、同じメルセデスに所属する2位のジョージ・ラッセル(英国)に81点もの差をつけている。次は9月26日決勝のアゼルバイジャンGP。「リードは大きいけど、何が起きるか分からない。あらゆることに対応する準備をしてチャンスを最大限に生かし、最後にどのポジションにいるかだね」。レース同様、心憎いばかりの冷静さを保っている。

10歳で320キロを操る素顔

 これまでの最年少年間王者は2010年のセバスチャン・フェテル(ドイツ)で、23歳4カ月だった。もしアントネッリが今シーズンで年間チャンピオンになると大幅に記録を塗り替えることになる。末恐ろしさが漂うが、生い立ちをたどると元来のポテンシャルに目を見張るものがあった。

 レーシングドライバーを父に持ち、ボローニャで生まれた。父マルコによると、赤ん坊のころからガレージで遊ぶことが多く、成長していくにつれサーキットで過ごす時間が増えた。マルコは息子が10歳のときに才能の片りんを感じた瞬間があったという。父子でランボルギーニのレーシングカーに乗り込み、父がペダル操作、息子がハンドルとギアを担当していた。時速320キロ近くで走行中、カーブで曲がり過ぎそうになった場面があった。しかしアントネッリ少年は即座に修正することに成功し、走行を続けた。カートレースで活躍し、12歳だった2019年からはメルセデスのジュニアプログラムに加入。生来のレーサーと呼ばれるほどの環境で腕を磨いた。

 海外メディアによると、気さくで社交的な性格。さわやかな風貌でも人気を博す。趣味は米プロバスケットボールのNBA観戦。現代の若者らしい一面を持ち、若さにまつわるエピソードが付いて回る。例えばF1での自身初の表彰台は、3位に食い込んだ2025年6月のカナダGPだった。しかしまだ高校に通っている身で、勉学にいそしむために祝賀会も控えめにしたという。また学業とともに励んだのが、公道を走るための運転免許証の取得。レースで乗るマシンと普通の乗用車の違いから、苦労したエピソードを明かした。「冗談なんかではなく、運転免許テストは大変だった。普通のマニュアル車を運転したことはなかったし、縦列やバックの駐車も経験がなかったからね」。昔からレースに打ち込んできた故の戸惑いも、どこかほほ笑ましかった。

因縁の強豪も白旗状態

 メルセデスのドライバーに起用が決まる際には、強豪の電撃的なニュースが絡んでいた。現在、歴代最多の通算106勝を誇るルイス・ハミルトン(英国)。2024年のシーズン前、7度目の総合優勝など数々の栄光を築き上げたメルセデスを後にし、翌年からフェラーリに移籍することが発表された。これに伴って2024年8月、当時18歳のアントネッリが起用されることが公表された。メルセデス首脳によると、ハミルトンからチームを去ると伝えられたわずか「5分後」に、アントネッリを後釜に選んだ。ジュニア時代からの走りで、潜在能力の高さを存分に証明していた。

 ハミルトンは今季、6月のバルセロナ・カタルーニャGPで2年ぶりの復活優勝。ポイントランキングで3位につけている。しかし、アントネッリとの差は101点と大きい。若武者の躍進についてチームも絡めて次のように語った。「今季、彼とメルセデスを止めることはできないだろう。素晴らしい仕事をしているし、それに値する結果だ」。白旗を揚げるようなコメントだった。

 日本でのF1といえばフジテレビが1987年から中継を開始し、セナとアラン・プロスト(フランス)による名勝負などで一大ブームを巻き起こした。その後、地上波放送はなくなったが、今シーズンを前に動きがあった。昨年12月、フジテレビが2026年から2030年まで国内におけるF1の独占オールライツ契約を締結したと発表。地上波で11年ぶりの放送、動画配信サービスでもライブ配信を初実施するなどと明らかにした。普及促進へ向け、変化の時流の中で登場したアントネッリという若きスター。「とにかく頑張って結果を出し続け、コースに出るたびにベストを尽くすよう心がけている」。その先に最年少総合王者という歴史的偉業が待っている。


高村収

著者プロフィール 高村収

1973年生まれ、山口県出身。1996年から共同通信のスポーツ記者として、大相撲やゴルフ、五輪競技などを中心に取材。2015年にデスクとなり、より幅広くスポーツ報道に従事