インタビュー=岩本義弘

【第二回】中田英寿がFIFAでやろうとしていること

中田英寿が現在、FIFAの評議機関であるIFAB(国際サッカー評議会)のオファーでFootball Advisory Panel (サッカー諮問委員)を務めていることを知る者は少ないだろう。自ら語るように、現役引退後はサッカーを通じた社会貢献に意義を見いだし、協会やクラブによる強化・発展の取り組みとは一線を画してきた。そんな彼が今、サッカーのルールを検討・変更することができる唯一の機関、IFABにどんな思いで参加し、何を感じているのか。そこでの活動を通じて認識を新たにした、日本サッカー発展の課題や可能性と併せて、大いに語ってくれた。

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選手に対して何をすれば、夢を見せられるのか

——今の日本サッカーは、世界から見て、どのような状況にあると感じていますか? 代表だけじゃなくて、その国のサッカー全体についてお聞きしたいです。代表もJリーグも、クラブチームも含めて。ここからどうしていけばいいと思いますか? Jリーグができてからの20数年は、ある意味、そこまで考えずに伸びてこれたんじゃないかと、個人的には感じています。ただ、ここからはその国のアイデンティティーを持つことも含めて、しっかりとした方向性を打ち出していなかければ、伸びていかないと思っています。

中田 一つはリーグの考え方ですよね。リーグの考え方として、じゃあ、この先どうしていくのかとなった時に、一番は、選手に対して何をすれば、夢を見せられることにつながるのか。選手がそのリーグに夢を見ることができなかったら、選手もリーグもきっと伸びていかないと思う。夢がないと、間違いなく今のマーケット規模で終わってしまう。日本において、プロ野球がなぜここまでの規模に成長したのか。試合数が多いこともあるでしょうが、何よりも日本のプロ野球で活躍したら、次はメジャーリーグで活躍するという夢が見られる。今、メジャーで活躍している選手たちのことが、あたかも将来の自分たちのことのように日本でも報道されるし、日本のプロ野球界の延長上にメジャーリーグがある様にファンも選手も思える世界になっているわけです。つまり、野球はそこの夢がつながっているから成功した。でも今のJリーグとヨーロッパのサッカーが、同じような文脈で話をされるかと言ったら、全く違うと思います。現状では、日本は日本、向こうは向こうとなってしまっていて、そこがつながっていない。そういう状況だと、じゃあ、日本の夢ってなんだろう、となってしまい、それに対する答えが今はない気がします。実力がどうこうというよりも、選手に対する夢が必要。Jリーグの先には、アジアのチャンピオンズリーグがあって、その先には昨年末のクラブワールドカップでの鹿島のような、レアル・マドリーとFIFAの公式戦の決勝で対戦できるような可能性もある。ただ、それが一番大きい夢なのかなと思ってしまうわけです。じゃあ、中国のクラブが目指しているように、規模としてもアジアでトップのクラブを目指すための仕組みをJリーグとして作っていくのかのが夢につながるのか。とにかく、どこを夢に持っていくかというところが、きっと、リーグ全体を語る、レベルを語るところの根本だと思います。

——今回、Perform社と10年2100億円の放映権契約をしましたが、それでも、選手の待遇が一気に上がるかと言えば、そうではないと思います。

中田 これまでよりお金が入ったら、じゃあより発展させていくために何をするんだ、ということなんです。選手側の努力は当然ですが、リーグ全体として、サッカー業界全体としてどうやっていくかだと思うんです。

——JFAやJリーグが、そことしっかり向き合ってやっていくしか道がない、ということですか?

中田 夢がないところに成長はないと思う。選手の成長もそうだし、きっと、サッカーのレベルという面でも、そうだと思います。

クラブW杯は、優勝チームのホームで開催すれば劇的に価値が上がる

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——先日、名波浩さん(元日本代表/現ジュビロ磐田監督)とトークイベントをやった際に、参加者の質問で「中田英寿と一緒にプレーして感じたことを教えてください」という質問があって、名波さんは「ヒデだけは俺たちとは全然レベルの違う高みを見てやってたと思う」と答えたんです。当時のヒデさんは、実際、どこまで意識してプレーしてたんでしょうか。言ってしまえば、山梨の高校生だったわけじゃないですか。

中田 世界を意識するようになる上で、アンダーの代表にずっと入ってたのは大きかったですね。15歳の頃から、世界を当然のように意識してたわけじゃもちろんない。最初はただ、そこでやらされるまま試合をしてたわけです。ただ、代表として、普通にドイツやフランスに行って、レヴァークーゼンとかフランクフルトのユースとも試合して、そこにはプロ予備軍がいた。さらには世界大会に出れば、世界で名だたるクラブでやっているプロ予備軍の選手達がいた。そういうことが当たり前にあったのは本当に大きかったと思います。環境によって、当たり前じゃないことが当たり前になって、それがスタンダードになってくるわけですから。環境というのは、本当に大きい。

——そう考えると、ユース年代の選手たちが、海外遠征することの意味は大きいんですね。

中田 僕は大事だと思います。もちろん、人によって、その経験によって得るものは違うだろうし、同じ環境で育ったら、同じような意識を持つようになるわけではないですけど、人間って経験していないことに対しては、想像だけじゃあどうにもならない。だからそれも含めて夢だと思います。

——昨年のクラブワールドカップ決勝で実現した、ヨーロッパのトップクラブとの対戦も、10回大会にして初めて実現しました。ああいう試合が頻繁にあったら、かなり世界との距離感が変わるんじゃないかと感じましたが。

中田 確かに。ただ、あの試合、前半のレアル・マドリーは明らかにギアが入っていなかった。後半、逆転されて初めてギアが入ったわけです。残念ながら、UEFAチャンピオンズリーグでのプレーぶりとは明らかに違う。FIFAとして、クラブワールドカップの価値を上げていくために、現状の大会方式から改革していく必要があると思います。

——どのような改革をすれば、変わると思いますか?

中田 例えば、それは開催地の決め方を変えるという案。クラブワールドカップは、前年度の優勝チームのホームで開催することにすれば、劇的に価値が上がると思います。つまり、今年のクラブワールドカップは、去年レアル・マドリーが勝ったから、マドリッドでやるということです。

——レアル・マドリーが開催国枠で出るわけですから、当然、UEFAチャンピオンズリーグの優勝チームと合わせて、ヨーロッパから2チームが参加することになりますね。これは良いアイデアですね!

中田 でしょう(笑)。しかも、レアル・マドリーも自分たちのホームでやるわけだから、100パーセント手が抜けない。この改革をすると、一気に大会自体のレベルが上がるのは間違いないです。もちろん、放映権料も絶対に上がる。各大陸代表のクラブが出る国でも、価値は跳ね上がる。こういう改革を、FIFAがもっと仕掛けていけば面白くなると思います。

【第四回】 中田英寿がFIFAでやろうとしていること

中田英寿が現在、FIFAの評議機関であるIFAB(国際サッカー評議会)のオファーでFootball Advisory Panel (サッカー諮問委員)を務めていることを知る者は少ないだろう。自ら語るように、現役引退後はサッカーを通じた社会貢献に意義を見いだし、協会やクラブによる強化・発展の取り組みとは一線を画してきた。そんな彼が今、サッカーのルールを検討・変更することができる唯一の機関、IFABにどんな思いで参加し、何を感じているのか。そこでの活動を通じて認識を新たにした、日本サッカー発展の課題や可能性と併せて、大いに語ってくれた。

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岩本義弘

著者プロフィール 岩本義弘

サッカーキング統括編集長/(株)TSUBASA代表取締役/編集者/インタビュアー/スポーツコンサルタント&ジャーナリスト/サッカー解説者/(株)フロムワンにて『サッカーキング』『ワールドサッカーキング』など、各媒体の編集長を歴任。 国内外のサッカー選手への豊富なインタビュー経験を持つ。