パフォーマンスを見れば納得の代表招集

 なぜ、このタイミングでMF今野泰幸が招集されたのだろう。ヴァビド・ハリルホジッチ監督はメンバー発表会見で「驚きではない」と表現したが、当の本人は「驚きしかない」と目を丸くした。15年3月27日の親善試合チュニジア戦以来、約2年ぶりの代表招集。絶対に負けられないアウェーでのUAE戦を控え、A代表キャップ87を数えるベテランの招集はエポックメーキングだった。

 今季、今野は所属するガンバ大阪で3―3―2―2システムのインサイドハーフとして出色のパフォーマンスを見せている。鋭い出足でのボール奪取に長け、限界を超えて90分間走りきる〝根性〟。さらに公式戦8試合3得点1アシストと決定的な仕事にも多々絡んでいる。G大阪は今季公式戦4勝1分け2敗。まずまずのスタートダッシュを切れたのは、新しい戦術とポジションをいち早く習得した今野の高い戦術理解度によるものが大きい。ゆえに私にとっても「驚きではない」。

 ただ、今野個人のパフォーマンスだけが、今回の招集につながったとは言えないのも事実だろう。チーム編成をする上で、そしてアウェーでUAEという難敵と戦うことを見据えた上で、〝現在の〟今野が必要だったのではないか、と推察する。

 UAE戦のスターティングメンバーについて、おそらくハリルホジッチ監督は昨年のW杯アジア最終予選サウジアラビア戦のメンバーをベースに考えていたはずだ。サウジアラビア戦のディフェンスラインはDF酒井宏樹、DF吉田麻也、DF森重真人、DF長友佑都。中盤にはMF長谷部誠とMF山口蛍をボランチに並べ、MF久保裕也とMF清武弘嗣、MF原口元気を2列目に配置。1トップには大迫勇也が入った。欧州でも常時試合に絡む大迫や原口、久保の3人は前線からアグレッシブなプレーを見せ、サウジアラビアを自陣に張り付けた。清武も3人を巧みに操り、1得点をマーク。負傷のため久保は前半のみで交代せざるを得なかったが、前半の45分間はそれまでのW杯アジア最終予選の試合の中で最も好印象を残した。ハリルホジッチ監督も手応えをつかんだ様子だった。

与えられる役割は"アフロ封じ"

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 ところが17年に入ってからはアクシデントが続いた。1月末にセビージャからセレッソ大阪に電撃復帰した清武は、2月に臀部の違和感を訴えてリーグ開幕から2試合連続欠場。3月16日の代表メンバー発表を目前に控えた12日には、日本代表でキャプテンを務める長谷部がバイエルン・ミュンヘン戦で左すねをポストに強く打ちつけて負傷。ここまでの予選で中盤の要であった両者が、万全のコンディションにならない可能性があった。実際、一度は代表チームに合流した長谷部だったが、結局、右膝にも負傷を抱えてしまい、日本代表を離脱している。

 次に相手に目を移す。UAEにはアフロヘア―でもお馴染みの技巧派MFオマル・アブドゥッラフマーンが在籍。昨年9月1日に行われたW杯最終予選・第1節の試合でも、日本はオマルのテクニックに手を焼き、何度もカウンターの危機にさらされた。ホームでの初戦を1-2で落とすこととなったが、そのリターンマッチとなる今回の試合でも、〝アフロ封じ〟が勝利への近道になることは明白だ。仮に今野がオマルに仕事をさせずに高いポジションでボールを奪取し続ければ、ショートカウンターで久保や大迫らノッているアタッカー陣が得点を挙げる確率も高くなる。

 年齢的にも経験値的にも円熟の域に達した中盤2人のコンディション不良に、オマル封じ。そして過去の対戦成績が3分け1敗と一度も勝ったことがないアウェーでのUAE戦。これらの難題を解決できる人材は、今野泰幸以外にいなかった、と思う。21日の非公開練習では所属するG大阪と同じインサイドハーフに入り、MF山口蛍やMF香川真司との連係を確認。最善の準備を進めた。

「呼ばれたからには何かを求められていると思うし、それに応えたい。とにかくまず慣れて、監督の要求に応えられるように、心と体を準備したい」

 22日の取材対応日に今野は言葉を選びながら、それでも前向きな姿勢を見せた。代表メンバー発表時の迷いは、もうない。


飯間健

1977年9月24日、香川県高松市生まれ。02年からスポーツニッポン勤務。06年からサッカー担当。名古屋、G大阪、浦和、鹿島、日本代表などを担当する。