インタビュー=岩本義弘

【第三回】中田英寿がFIFAでやろうとしていること

中田英寿が現在、FIFAの評議機関であるIFAB(国際サッカー評議会)のオファーでFootball Advisory Panel (サッカー諮問委員)を務めていることを知る者は少ないだろう。自ら語るように、現役引退後はサッカーを通じた社会貢献に意義を見いだし、協会やクラブによる強化・発展の取り組みとは一線を画してきた。そんな彼が今、サッカーのルールを検討・変更することができる唯一の機関、IFABにどんな思いで参加し、何を感じているのか。そこでの活動を通じて認識を新たにした、日本サッカー発展の課題や可能性と併せて、大いに語ってくれた。

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今、ヨーロッパの人たちが何を考えて何を見てやってるかを知ることが大事

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——日本サッカーの発展のために、他に何か面白いアイデアはありますか?

中田 たとえば、中東あたりはけっこうやってるんですが、世界的な選手や監督を集めての議論だったりというのを日本でもやるべきだと思う。中東は世界中のレジェンドを集めて、試合をやったり表彰したりというのを頻繁にやってるんです。一方、日本にいろいろなレジェンドたちが集まる機会ってほとんどない。JFAやJリーグが、世界的なレジェンドプレーヤーを日本に呼んで、指導者やサッカー関係者を集めて、そこでいろいろなテーマで話させる機会を作るだけでも、全然違うと思う。

——確かに、そういう機会が、日本は特に少ないイメージです。

中田 そういうことをJFA、Jリーグが主導でやると、協会の人間や監督・コーチ、クラブ関係者含めて、日本サッカー界全体のレベルが上がると思う。今、ヨーロッパの人たちが何を考えて何を見てやってるかを知ることが大事。例えば、ジダンやモウリーニョ、ペップクラスの監督を何人か呼んで、丸一日かけて様々なテーマでトークセッションをやってもらう。練習方法について、教えてもらってもいい。大きな会場でやるカンファレンスにすれば、一気に全国から指導者を呼べるわけで、それだけでもこれまでとは全然違う経験値になると思う。今、何が世界で今起こっていて、日本と何が違うのか、今はわからないわけですよ。それは、これまでは向こうに行っている人にしかわからなかったけど、逆にこっちに呼ぶことで、間違いなく全体のレベルアップ、意識面でのレベルアップにはつながるわけです。

そういうのも改革の一つですよね。

——ヒデさんが子どもの頃と違って、世界中のリーグの映像も見られるわけですから、実際に誰がすごい指導者なのかわかる。そういう人を日本に呼んで話を聞くことによって、その後の試合映像を見る上でも、すごく大きな財産になりますよね。

中田 そういうことを実現する上で、「力を貸してくれ」と言われれば、それはもちろんやりますよ。まだ多くの選手達と繋がっているので、連絡するのは簡単だし。そうやって全体のレベルを上げるための方法だとか、これからより良くしていくための方法については、リーグももっと考えていかなきゃいけない。外に出ていって経験するということはもちろん大事だけども、自分たちに取り込むというのも大事だから。

技術面はどんどん向上していると思います。ただ、その技術の活かし方が上手くはまっていない

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——ヒデさんの選手時代について聞きたいんですが、ヒデさんの時代は、ヨーロッパのリーグもそこまで見られる環境じゃなかったわけじゃないですか。つまり、世界のトップレベルについて、向こうに行ってからじゃないとわからなかったわけですよね? それなのに、よくいきなり、あそこまで通用したと思います。

中田 うーん……なんでですかね。

——実際、行ってみたら、思っていたものと全然違ったわけですか?

中田 僕は日本にいる時は、セリエAの映像はほとんど見たことがなかったから、イタリアに行った時には、チーム名すら半分以上わからなかったですからね(笑)。でも、ワールドカップを経たりして、なんとなく世界のレベルは分かってはいましたが……。あとは、自分はとにかく、子どもの頃から考えていた選手でした。走っても速くなく、技術も高くない。だから、ともかく考えること、戦える状況を整えることに集中していました。持って生まれた身体的能力や技術的能力は高くなかったので。

——今は、そういう選手が本当にいなくなったと感じます。それと、中盤で強度のある選手がいないのが一番苦しいところだなと。ヒデさんは昔から、当たり負けしないコツは、「絶対に当たり負けしないと思って当たれば、当たり負けしない」と言っていました。

中田 でも、それは本質ですからね。

——つまり、今はそういうふうに思って相手と当たってる選手がいないということですか?

中田 どれだけ体の芯に力を入れて当たっているかだと思います。当たり負けしないやり方なんかはいっぱいあると思います。ただ単に、力比べの腕相撲だったら負けるかもしれないけど、サッカーの場合は角度やタイミングなど沢山違うやり方がある。そういうところをもっと考えられる選手を育てる。そこはやっぱり現場の判断になるんだと思います。その考える力が大事なんだと思います。指導者が教えて、それをやらせることでは決して身につかない。

——考える力を伸ばせるような指導者が増えることで、日本のサッカーのレベルは劇的に上がると思いますか?

中田 それは間違いないです。技術面はどんどん向上していると思います。もともと日本人は技術を身につけるのは得意だし、アジリティーもある。ただ、その技術の活かし方が上手くはまっていない感じはします。局面では上手いんだけど、全体の流れを掴むのは苦手というか……。それを考えてやることができれば、絶対にレベルは上がっていくと思います。

——久しぶりに、サッカーの話をたっぷり聞くことができて、本当に楽しかったです。ぜひ定期的によろしくお願いします!

【第一回】中田英寿がFIFAでやろうとしていること

中田英寿が現在、FIFAの評議機関であるIFAB(国際サッカー評議会)のオファーでFootball Advisory Panel (サッカー諮問委員)を務めていることを知る者は少ないだろう。自ら語るように、現役引退後はサッカーを通じた社会貢献に意義を見いだし、協会やクラブによる強化・発展の取り組みとは一線を画してきた。そんな彼が今、サッカーのルールを検討・変更することができる唯一の機関、IFABにどんな思いで参加し、何を感じているのか。そこでの活動を通じて認識を新たにした、日本サッカー発展の課題や可能性と併せて、大いに語ってくれた。

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岩本義弘

サッカーキング統括編集長/(株)TSUBASA代表取締役/編集者/インタビュアー/スポーツコンサルタント&ジャーナリスト/サッカー解説者/(株)フロムワンにて『サッカーキング』『ワールドサッカーキング』など、各媒体の編集長を歴任。 国内外のサッカー選手への豊富なインタビュー経験を持つ。