文=河合拓

大会名称は「DUARIG Fリーグ」に

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 Fリーグが誕生してから10年が経った。しかし、今も一般的にフットサルは「見るスポーツ」というよりも、「やるスポーツ」の印象が圧倒的に強い。そんな状況が少しずつ変わっていくかもしれない。今シーズンより、FリーグはJ SPORTSに加えて、Abema TVにより試合の映像が配信されることになったからだ。

 その話題に触れる前に、いくつかあった変更点を記していく。昨シーズンはリーグの冠スポンサーがスポーツショップの「SUPER SPORTS XEBIO」だったが、今シーズンからはフランスのサッカーブランドである「DUARIG(デュアリグ)」がエグゼクティブスポンサーとなり、大会名称も「DUARIG Fリーグ」に変更となった。

 なぜ、冠スポンサーが変わったのか。この流れについて、会見に出席していたゼビオホールディングス株式会社の中村考昭副社長執行役員が説明してくれた。昨シーズン、Fリーグは初めてオールスターを開催したが、この試合で選手たちが着ていたユニフォームは、DUARIG社製のものだった。Fリーグ初のオールスター開催が決定した直後に、XEBIOはDUARIG社に対して「初めてオールスターが開催されるので、チャレンジを含めて、サプライヤーになってもらえませんか?」と打診したという。

 初のオールスターは、フットサルの見所が詰まった好ゲームとなり、DUARIG社にも好印象を残した。企業としてアジア進出を考えているDUARIG社は、「可能性のあるリーグとしっかり取り組んでいきたい」と、新シーズンのリーグの冠スポンサーに名乗りを挙げ、XEBIO社、Victoria社は、引き続き、エグゼクティブパートナーとしてリーグを支えていくこととなった。中村氏も「二人三脚で盛り上げたいと思っている」と、話している。

 もう一つの大きな変化は、レギュラーシーズン後に開催されるプレーオフだ。上位5チームまでがプレーオフに進出できることは変わらないが、プレーオフ・ファイナルでレギュラーシーズン1位のチームに与えられていたアドバンテージがなくなった。プレーオフ・ファイナルは必ず2試合を行い、その2試合の結果で優勝が決まる。両チームの対戦成績が1勝1敗、あるいは2分けとイーブンになったときは、得失点差で優勝チームが決まる。得失点差も並んだとき、ようやくアドバンテージが適応され、レギュラーリーグ1位のチームが優勝するという仕組みになる。

 今回のルール変更は試験的な側面もあり、今後も毎シーズン、この形でやるわけではないという。それでも、これまでと比べるとメリットしかないと個人的には思う。レギュラーシーズン優勝チームには、翌年のAFCフットサルクラブ選手権の出場権が与えられる。さらにプレーオフの1次ラウンド、2次ラウンドは免除されている。これだけで、レギュラーシーズン1位になる価値は十分あるだろう。

 また、決勝戦が必ず2試合行われることになったことで、ファン・サポーターもスケジュールを組みやすくなった。これまでは、最も重要なゲームであるはずのプレーオフ・ファイナル第2戦は、第1戦よりも観客が入らなくなっていたが、そうした事態はなくなるだろう。そして何より、仕組みが分かりやすい。3シーズン前のプレーオフ・ファイナルで、シュライカー大阪が1勝1分けだったにもかかわらず、アドバンテージのあった名古屋オーシャンズに延長戦の末に敗れたことがあったが、そうしたわかりにくいことはなくなるのだ。レギュラーシーズン1位のチームが2位と圧倒的な差をつけることがあり得るかもしれないが、そもそも開幕前から「優勝はプレーオフで決める」ことになっているのだから、条件的には全チーム平等だ。

FリーグとAbema TVはWin-Winの関係になれるか

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 さて、ここからが本題だ。Fリーグは今シーズンから、これまでのJ SPORTSに加えて、Abema TVでも試合の映像が配信されることとなった。この会見ではセントラル会見および6クラブ共同開催の試合放送の90試合が放送・配信されることが発表されたが、その他にもホーム&アウェーの試合、プレーオフも放送・配信されるため、最終的には110試合以上の映像をアリーナ外で見られることになるという。

 フットサル日本代表がコロンビアW杯の出場権を逃したこともあり、昨シーズンはアリーナ観戦者も減少して、1000人以下の観衆しかいない会場で試合が行われることも珍しくなかった。アリーナに足を運べない人にも、試合やプレーを見てもらえる環境ができることに加え、フットサルは「見るスポーツ」でもあることを印象付けることができる。

 Fリーグにとっては、まさに願ったり叶ったりの配信開始なのだが、Abema TVにもメリットがあるという。サイバーエージェント執行役員・Abema TV編成制作局長の藤井琢倫氏によると、そもそもAbema TVがフットサルを扱うことになった背景には、テレビ朝日の早河洋会長の推薦があったという。「早河会長の『Abema TVのユーザーに合うんじゃないか』というご推薦があり、調べていったところ『これはいけるな』となり、全日本フットサル選手権を扱うことになりました」。そしてAbema TVで配信された第22回全日本フットサル選手権は、「サッカーチャンネルの中では、過去にないほど良い数字」の視聴者を集めたという。

 この実績に加えて、「フットサルの生中継を見る人の層とAbema TVの利用者の層が合う」ことも、今回の提携につながった。Abema TVは視聴者の性別、年代を集計しているが、その結果、フットサルは若い人たちに人気のあるコンテンツと判断された。もともとAbema TVの視聴者の70%は34歳以下ということもあり、フットサルは人気が出る可能性があるコンテンツと判断してもらえたのだ。

 現在では、ほとんどの若者がスマートフォンを持っているが、フットサルはスマートフォンで視聴するのに非常に適したスポーツでもあるという。小倉純二FリーグCOOは、Abema TVの藤田晋社長と話をしたときに、「フットサルのサイズが面白い」と言われたと明かす。

「Abema TVの社長さんと話したとき、彼は『フットサルのサイズが面白い』という発想だったんです。たとえば、一つのカメラでピッチの全体が追えるとか。スマートフォンの小さい画面で長時間見ていても違和感がないとか。そういうイメージもあると言っていたんです。それは面白いなと。僕なんかみたいに、ちょっと目が悪くてスマートフォンの画面では小さかったら、タブレットのように少し大きい画面で見ればいいわけです。スマートフォンで電車の中でも、より手軽に見ることができる。それは、フットサルの特性かもしれません」

 そのほかにも、FリーグとAbema TVが手を組む利点は大きい。今後、サッカー放送にも力を入れていきたいAbema TVは、Fリーグを配信することで日本サッカー協会とつながりができる。Fリーグも引退した選手たちに解説者というセカンドキャリアのオプションを提供できることになる。両者にとってWin-Winの関係ができるのだ。

 現時点でAbema TVは、「フットサルに賭けたい」(藤井氏)という思いがあり、Fリーグを放送することに対して特別な見返りを要求したり、来季の放送を続けるためにノルマを設けたりする予定もないという。それでも、日本フットサル連盟の渡邊眞人総務主事はリーグのボトムアップの必要性を強調した。

「今回、J SportsさんとAbema TVさんの中継で、上位のチームの試合だけではなく、下位のチームの試合も放送されるんです。それを見たお客さんが『Fリーグの試合はつまらない』と思ってしまったら、数字は落ちてしまいます。全部が名古屋と大阪の試合のようにはならないかもしれません。順位も出てしまうものですが、下位のチームにいる選手たちも『自分だけでも代表に行くんだ』という気概を持ってプレーしてほしい。それが視聴者に届けば、『良い試合を見た』と思ってもらえるかもしれません」

 面白い試合を見せることができれば、アリーナに来る人も増えるかもしれない。しかし、放送される試合がつまらなければ、画面を通しても試合を見てくれなくなるだろう。チャンスは一転して、ピンチにもなり得る。新シーズン、Fリーグの舞台に立つ選手たちには、そのことを肝に銘じてプレーしてほしい。


河合拓

2002年からフットサル専門誌での仕事を始め、2006年のドイツワールドカップを前にサッカー専門誌に転職。その後、『ゲキサカ』編集部を経て、フリーランスとして活動を開始する。現在はサッカーとフットサルの取材を精力的に続ける。