文=大島和人

20年ぶりの降格チーム誕生へ

 Bリーグの発足により、日本のバスケ界には様々な変化が生まれた。例えばこの5月にはシーズン閉幕とともに、男子バスケのトップリーグにおいて20年ぶりとなる降格チームが誕生する。

 BリーグはbjリーグとNBLの二大リーグが合流して16年9月に開幕している。bjリーグは立ち上げ時から最後の15-16シーズンまで『全チーム1部』で公式戦を戦っていた。NBLはNBDLという下部リーグを持っており、前身のJBLやスーパーリーグも含めて昇格例はある。しかしリーグ戦や入替戦などの結果で下部リーグに降格したという例は、1996-97シーズン後にJBL2へ降格した丸紅が最後だった。

 2000-01シーズンから7シーズンに渡ったJBLスーパーリーグや、その後のJBL時代は『脱退による欠員が出た場合にのみ下部リーグの上位チームが昇格』という制度だった。いすゞ自動車、ボッシュ、新潟など複数のクラブが解散やbjへの転籍によりリーグを脱退している。自分の意思でリーグから抜ける、活動を止めるチームが多かったため、強制的に降格チームを出す必要はなかった。例えば08年にJBLへ昇格したリンク栃木ブレックスは、大塚商会から会員資格を譲渡されて上位リーグに参入している。JBLの流れを汲み13年に発足したNBLも、初年度を除くと新規参入クラブが無かった。

 しかしBリーグ発足後は単純にチーム数が増えたこともあり、上を目指す競争が激しくなっている。NBAや日本のプロ野球のように昇降格のない制度も当然あっていいのだが、降格の緊迫感がリーグ戦に及ぼす好影響は見逃せない。

 5月にB1からB2に降格するのは最大3チーム。昇格するクラブも当然それと同数だ。B2に所属する18チームのうち、8チーム(山形、福島、茨城、群馬、西宮、広島、島根、熊本)が17-18シーズンのB1ライセンスを得ている。

 B2の最終順位を決めるプレーオフに参加するのは4チーム。出場チームがすべてB1ライセンスを持っている場合は、「B2の3位」が「B1残留プレーオフの2位」(B1の16位)と一発勝負の入れ替え戦を行うことになる。仮に「B2の3位」がB1ライセンスを持っていない場合は入れ替え戦が行われない。

 またB2の1位、もしくは2位がB1ライセンスを持っていない場合は、B1からの自動降格枠が「2」から「1」に減った上で、「B1残留プレーオフの3位」(B1の17位)が入れ替え戦に進むことになる。

 第29節を終えた時点(4月23日)でB2は群馬が東地区、島根が西地区の優勝を決めている。またB1ライセンスを持っていないクラブで、B2プレーオフに絡みそうなのは中地区2位(4月23日時点)のFE名古屋のみ。「FE名古屋が中地区を制して、B2の3位になる」という場合を除けば、入替戦は開催されることになる。

Jには降格を機に飛躍したクラブも

©Getty Images

 昇格や降格によってクラブの経営環境がどう変化するか――。それはBリーグが初めて経験するチャレンジだ。Bリーグの大河チェアマンは「Bリーグは昇降格が初めてで、経験値が乏しいことは事実」と懸念も口にしている。

 Bリーグは昇降格によってスポンサー料や入場料収入がどれくらい増減するという”経験値”がまだない。スポーツクラブは期初の予算で経営が極端に大きく左右される弱みがあり、過大な支出を設定するとその後の建て直しが難しい。昇格をすれば入場料やスポンサー料、分配金の増加は期待できるが、特に人件費とのバランスは難しい。試合という商品の品質やその後の成長を考えると、コストを削ればいいということでもない。

 一方で昇降格制度自体はリーグ戦の緊張感、エンターテイメント性を高める。B1は残り5試合という山場を迎えているが、残留プレーオフ圏内を回避しようというバトルも見どころになっている。B2も広島、熊本によるプレーオフの出場枠をかけた2位争いが熾烈。これも昇降格という仕組みがあるからこその現象だ。

 Jリーグは1999年のシーズンから入れ替え制度を導入しており、J2を経験していないクラブは鹿島アントラーズと横浜F・マリノスの2クラブのみ。幸いにして降格後にリーグから撤退した、消滅したというクラブはない。逆に降格が飛躍のバネになってJ1復帰後すぐにリーグを制した11年の柏レイソル、14年のガンバ大阪のような例もある。

 Jクラブが共有している強みは昇降格時の経験値だ。分かりやすいのがスポンサーの継続交渉。Jクラブは「昇格時に何%の増額をお願いできる」「降格時に何%の減額で許してもらう」というある種の『相場観』を共有しており、それは昇降格リスクを緩和している。

 Bリーグはまだ不確実性の高いリーグだ。現状としてB1とB2の格差もサッカーと比較にならないほど大きい。リーグのプロモーションやメディアの報道も「まずB1から」という入り口の段階だ。昇降格という制度自体は是だが、降格したクラブの痛みは大きく、20年ぶりの混乱もあるだろう。

 加えてどう言い繕おうと降格はやはり悲劇。有力選手の移籍やコーチ、スタッフの入れ替えが増え、応援している人の心も荒む。結果的にそれがいい新陳代謝を産み、再生への転換点になる場合はあるが、短期的には必ずストレスに見舞われる。

 ただそんな恐怖感、残酷さもまたスポーツの魅力を引き立たせるスパイスだ。B1の残留争い、昇格争いも、結果としてチャンピオンシップに負けない魅力的なエンターテイメントとなるのかもしれない。


大島和人

1976年に神奈川県で出生。育ちは埼玉で、東京都町田市在住。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れた。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経たものの、2010年から再びスポーツの世界に戻ってライター活動を開始。バスケットボールやサッカー、野球、ラグビーなどの現場に足を運び、取材は年300試合を超える。日本をアメリカ、スペイン、ブラジルのような“球技大国”にすることが一生の夢で、球技ライターを自称している。