文=大地功一

史上最年少での年間グランドスラム制覇

 年初早々、ビッグニュースが飛び込んで来た。

「上地結衣、全豪シングルス初優勝」

 当時22歳の上地(エイベックス)には全仏と全米制覇の経験はあったが、全豪のタイトルが欠けていた。しかも、リオパラリンピック金メダリストにしてライバルのイエスカ・グリフィユン(オランダ)を決勝で倒しての優勝だけに喜びはひとしおだったに違いない。

 14歳で日本ランキング1位になり、高校3年でロンドンパラリンピックに出場、シングルス・ダブルスで8位入賞。テニスを辞めるつもりでいたという上地はしかし、このロンドンでの刺激をきっかけに続行の決意をする。

 そして2年後の2014年——。上地の、これまでのキャリア上、最も華々しい年を迎えることになった。全豪オープン・タブルス優勝、全仏オープンはシングルスとダブルス優勝、ウィンブルドン(※ダブルスのみ開催)・ダブルス優勝、全米オープンもダブルスとシングルス優勝。女子車いすテニス界で史上最年少での年間グランドスラム制覇を果たし、ギネス世界記録になった。21歳にしてこの偉業、天賦の才なくして果たせるものではないだろう。「すべてにおいて(レベルが)高い」と千川理光コーチは上地を評す。

「40〜50%の出来」で国内9連覇

©Getty Images

「2017年はチャレンジ、2018年は強化、2019年は本番」

 千川コーチがこう言うように2020年を見据え、上地はすでに始動している。

 2017年をチェレンジの年と表現するのは、東京まで3年のいま、タイミング的に今年しかないからであり、それだけに結果よりも内容重視になるということだろう。無論、結果と内容の双方が伴えばそれに勝るものはないのだが。

 4月に兵庫県三木市で開催された「ダンロップ神戸オープン」開催期間中、上地は「年内の目標はウィンブルドンを獲る。そしてもう一度、世界ランキング1位になりたい」と胸の内を明かしてくれたが、「今年はウィンブルドンは無理」と千川コーチの見通しは違うようだ。

 全豪、全仏、全米、ウィンブルドンの4大大会シングルスのタイトルで上地に唯一欠けているのが、ウィンブルドンである。ちなみに男子の国枝慎吾は年間グランドスラムを5回も達成している。

 さて、上地であるが、コーチは「本人には今の車いすに思い入れはあるでしょうけど」と前置きした上で、5月のツアーを終えてからウィンブルドンには新しい車いすで臨むと明かした。その新しい車いすとは、高さが今のものよりもあり、それによってショットに角度がつくという。まずは新しいのに慣れるのが先決のようだ。また、ウィンブルドンのコートは芝である。同大会制覇が容易ではないことが伺える。

 新たな挑戦は新しい車いすだけでない。

 低くて速いバックスピンのショットを、優勝した今年の全豪以降、取り組んでいるという。「1日4時間のトレーニングのうち3時間はバックスピンの練習」(上地)というから、かなりの強化を目指していることが分かる。

 ダンロップ神戸オープンでは初戦から圧倒的な強さを見せ、順当に決勝へ駒を進めた。対戦相手は世界ランキング16位の田中愛美で、上地との対戦は4度目。ある程度、手応えを掴んだという田中はしかし、「低くて速い球にやられた」と敗戦を振り返る。一方、優勝した上地は「まだまだ。40~50%ぐらいの出来」と試合後に語ったが、相手の田中のコメントにあったように新しい挑戦への手応えは多少なりともあったのだろう。

 今回の優勝で上地はダンロップ神戸オープン女子シングルスを9連覇となった。5月にジャパンオープン、6月に全仏、そして7月にウィンブルドンが控える。コーチが掲げる「挑戦の年」にいかなる収穫を得るか。その収穫が来年、再来年、そして東京に少なくない影響を与える。まずは上地の2017年に注目である。


大地功一

中学、高校とオランダ、デンマークで過ごす。大学卒業後、出版社やネット企業などでの勤務を経てフリーに。雑誌やネットメディアで執筆、ポータルサイトではニュース編集に関わる。趣味はサッカー。市リーグで奮戦中!