文=鴫原盛之

「非リアル」だからこそ面白かった初期のサッカーゲーム

 1993年に起きたJリーグブーム以前の時代は、本物のサッカーと同様にサッカーゲームもマイナージャンルのひとつに過ぎなかった。しかし、今ではEAの「FIFA」、コナミの「ウイイレ」こと「ウイニングイレブン」シリーズをはじめ、「BFB」「サカつくシュート!」「Jリーグ プニコンサッカー」「実況パワフルサッカー」など、スマホ用アプリに至るまで数多くのゲームを遊ぶことができる。サッカー、あるいはサッカーゲーム好きにとっては実にありがたい時代である。

 では、Jリーグブームが起きる前の時代、1980~90年代の初頭には、いったいどんなサッカーゲームがあったのだろうか? 今となってはウソのような話だが、初期のサッカーゲームはコンピューターの性能の関係上、1チームの選手が11人に満たず、フィールドプレイヤーが5、6人しかいなかったり、使用するボタンはパスとシュートのたった2個だけというのが当たり前だった。

 本物のプロチームや選手が実名で登場することもなければ、選手ごとの能力差もなく、表情や体格も全員同じだったり、オフサイドやファウルの反則が存在しないのもごく当たり前のこと。ボールが空中を飛ぶことはあっても、ヘディングやゴールキーパーのセービングによる空中戦がない、つまり3Dの立体空間ではなく、実質的には2Dの平面でボールを蹴り合うだけのサッカーゲームも珍しくなかった。

©1985 Nintendo

任天堂のファミリーコンピュータ版「サッカー」より。1チームの人数はゴールキーパーを入れて6人で、選手のジャンプ操作は存在しなかった

©Konami Digital Entertainment ©2015 D4Enterprise Co.,Ltd. ©2015 MSX Licensing Corporation All Rights Reserved. 'MSX' is a trademark of the MSX Licensing Corporation.

こちらは1985年に発売された、MSXパソコン用ソフトの「コナミのサッカー」。1チームの人数はやはり7人と少なく、現代の目で見ればフットサルに近い※写真はWii Uバーチャルコンソール版にて撮影

 ならば、昔のシンプルなゲームはどれもつまらなかったのかというと、そんなことはまったくない。むしろ近年のサッカーゲームでは体験できない、独特の面白さがあったとさえ言えるのだ。

 以下、筆者がサッカーゲームを30年以上遊び続けてきた体験から、サッカーゲームならではの面白さについてご説明しよう。なお本稿では、「サカつく」シリーズのようなシミュレーションゲームは対象から外し、プレイヤーが選手やボールを直接動かして遊ぶものに限って述べていることを、あらかじめご了承いただきたい。

サッカーとしての不条理さが、ゲームに面白さを与えていた

 Jリーグブーム以前に登場したサッカーゲームで、自身が特に気に入った、あるいは友人たちと何度も夢中になって遊んだものに共通する特長は何だったのか? 当時はサッカーゲーム自体が珍しかったのも要因のひとつだが、あらためて振り返ると以下の2点に行き着いた。

1:目まぐるしく攻守が入れ替わるスピード感とスリル感
2:ゴールが絶対に決まる「必勝パターン」の存在

 以下、本稿で説明するのは「1」のみで、「2」のほうは次回の後半にてご紹介させていただく。

「1:目まぐるしく攻守が切り替わるスピード感とスリル感」を実現させたタイトルの一例としてまず挙げたいのは、1991年にタイトーが発売したアーケードゲーム、「ハットトリックヒーロー」だ。

 本作は、ドリブルする選手のスピードが従来のサッカーゲームよりもかなり速く、ボタンを押しっぱなしにするだけで、ダイレクトパスをスピーディかつ連続でつなぐことができるのが斬新だった。そのスピード感は、現在の「FIFA」や「ウイイレ」シリーズをも凌駕していると言っていいだろう。

 またピッチがコンパクトなため、ボールを早く動かさないとすぐに相手に囲まれてしまうので、必然的にターンオーバーが起きやすくなる。さらに驚くことに、相手選手をパンチで倒してボールを奪うことも可能で、しかもレフェリーにバレなければ反則にはならない。まったくもって非常識なルール(?)だが、ゲームとしてはとても面白いものになっていた。残念ながら、本作は国内では大ブームとはならなかったが、実は海外では「売れに売れまくった」のだそうだ(※)。

※筆者注:2005年に発売されたPS2用ソフト「タイトーメモリーズ下巻」に添付されたマニュアルに、本作の企画者の証言として上記のコメントが掲載されている。

©TAITO CORP. 1978-2005©TAITO CORP. 1978-2005

「ハットトリックヒーロー」。審判にバレなければ、相手をパンチで倒してボールを奪ってもOKだ ※写真はPS版「タイトーメモリーズ下巻」にて撮影

 もうひとつ、1986年にテーカン(現:コーエーテクモゲームス)が発売したアーケードゲームの「ワールドカップ」も、初期のサッカーゲームを代表する傑作だ。本作はトラックボールを回転させて選手を操作するのが特徴で、速く回すほど選手の移動スピードやキックの距離が増す仕組みになっていたので、トラックボールを回すのが上手なプレイヤーほど試合を有利に進められた。

 慣れてくると、自陣からわずか4、5秒ほどで単独ドリブルからシュートに持ち込むことも可能となるスピード感は、他の作品にはない独特の面白さがあった。また、本作はオフサイドやファウルのルールがなく、ピッチの外にボールが出ない間はずっとプレイが続くので、タイムアップになるまでスリリングな試合が楽しめた。

 時には夢中になる余り、トラックボールと筐体の間に指や手のひらの肉を挟んで出血したり血豆を作ってしまうこともしばしばあった。しかし、それでも対戦相手に負けまいと、痛みと疲労に耐えながらプレイするのがたまらなく面白い逸品であった。

 常識外のすごいスピードで選手やボールが動き、ラフプレイはやりたい放題、オフサイドになってもお咎めは一切なし……。これほどまでの不条理さは、今やサッカーゲームにおいては「消えた文化」と言ってもいいだろう。しかし、たとえ本物のサッカーを忠実に再現していなくても、スピードやスリル、そしてゴールを決めたときの快感をプレイヤーが楽しめることによって、ゲームとして立派に成立していたのだ。

©TECMO, LTD. 2004©TECMO, LTD. 2004

「テーカンワールドカップ」より。選手をジャンプさせることはできないが、トラックボールで操作するアイデアとスピード感は秀逸だった ※写真はPS2用ソフト「テクモヒットパレード」に収録された「テクモカップ」にて撮影

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鴫原盛之

著者プロフィール 鴫原盛之

1993年にアーケードゲーム雑誌の攻略ライターとしてデビュー。その後ゲームセンター店長、メーカー営業などの職を経て2004年よりフリーライターに。これまでにゲーム関連・攻略書籍を多数執筆し、ゲーム関連の学会にてゲーム史の収集・記録なども手掛ける。主な著書は『ファミダス ファミコン裏技編』『ゲーム職人第1集』(共にマイクロマガジン社)などがあり、近刊では『日本ゲーム産業史』(日経BP)にも寄稿。趣味はサッカー観戦で、1980年代からACミランとオランダ代表の大ファン。