(※写真は、2015年に韓国で開催された『FIFAオンライン』eスポーツ大会の決勝戦の様子)

年内には世界のeスポーツ市場が約1000億円に達するとの予想も

2月1日、日本におけるeスポーツの普及と振興を目的とした団体「一般社団法人 日本eスポーツ連合」(JeSU)が立ち上げられた。これまで個別に活動していた日本eスポーツ協会、e-sports促進機構、日本eスポーツ連盟の3団体を統一したもので、日本のeスポーツ界が本腰を入れて動き始めた格好だ。

しかし、海外ではすでにeスポーツは大きな産業であり、コンテンツになっている。オランダの調査会社「Newzoo」によると、世界のeスポーツ関連事業の売り上げは2017年に6億5500万ドルを記録。さらに2018年には38%増の9億5660万ドルに達すると予想している。特にアメリカは、2018年に世界の売り上げの38%を占める見通しだ。

NFLとNBAが公式eスポーツ大会を発足

2017年に中国・深センで開催された『NBA 2K』のeスポーツイベント/(C)Getty Images

このeスポーツの熱気を取り込むために、アメリカのプロスポーツ業界もさまざまな動きを見せている。NFLは昨年7月、オフィシャルゲーム「Madden NFL」を制作・販売している大手ゲーム企業EAスポーツと提携し、公式eスポーツ大会「Madden NFL Club Championship」を立ち上げた。

この大会にはNFLの全32チームが参加。参加ユーザーは自分が好きなチームを選んでオンライン予選を戦い、成績上位者は各チームがスタジアムなどで主催するトーナメントで対決。最終的に各チーム1名、計32名のプレーヤーが決勝トーナメントで優勝を争う。

この取り組みは大きな注目を集めており、NFLとEAは大会の準々決勝から決勝までと、2月2日にスタートした新シリーズ「The Madden NFL Ultimate League」の独占配信権をESPN、ディズニーXDと結んでいる。ESPNは、大会に出場するユーザーに焦点を当てた番組も制作する。ちなみに、この新シリーズNFLのドラフトが開催される4月28日に最終日を迎える。ゲームとリアルのイベントを関連付けて、ゲームユーザー、ゲーム観戦者の関心を高めようという戦略だ。

この動きに触発されたように、2月9日、NBAはゲーム『NBA 2K』シリーズの発売元であるテイクツー・インタラクティブと組んで公式eスポーツ大会『NBA 2K eLeague』を発足すると発表した。2018年に開幕予定の大会には17チームが参加し、各チームは5名のeスポーツプレーヤーによって構成される。大会形式は実際のプロリーグと同様で、レギュラーシーズン、プレーオフを経て、優勝を決める形式だ。

予備登録選手を含む全102選手は、今年1月から2月にかけて行われた世界中の『NBA 2K18』プレーヤーを対象としたトライアウトと、3月に開催されるドラフト会議で選抜。全選手はチームと6カ月の契約を結び、ドラフトの最初のターンで指名された17人は、最初の6カ月間に3万5000ドル、それ以降の選手は3万2000ドルの給料が出る。

選手が指名されたチームのホームタウンに引っ越す場合は引っ越しの費用と自宅が提供されるほか、医療保険にも加入できる。また、優勝賞金の100万ドルはチームのメンバーで分配される見通しだ。

自動車レース「NASCAR」にはスポンサー獲得の狙いも

アメリカで絶大な人気を誇る自動車レース「NASCAR」は早くからeスポーツに参入/(C)Getty Images

アメリカで人気の自動車レース「NASCAR」は、eスポーツにいち早く参入。2008年にレーシングゲーム「iRacing」が発売されると、翌年には提携して、「NASCAR PEAK Antifreeze iRacing Series」を開催してきた。2018シーズンは18レースが行われ、シャーロット・モーター・スピードウェイ、ソノマ・レースウェイ、ブリストル・モーター・スピードウェイなどのバーチャルコースを走行する。レースの様子はNASCAR.comとFansChoice.TVでライブ配信され、各レースで1万7000ドル超の賞金が用意されている。

アメリカでは、「NASCAR」がさらに「iRacing」を使った新たなリーグを構想していると報じられている。今年中の開幕が予想される新リーグでは、選手が「NASCAR」に名を連ねている実際のチームに所属し、そのチームで使用される車と同じデザインの車でレースに臨む。この方式にすることで、スポンサーの獲得などによって収益を上げるとともに、よりゲームユーザーを惹きつける狙いがあるという。

大学スポーツでも急速に浸透しているeスポーツ

驚異的な収益力を誇るアメリカの大学スポーツ業界も急速にeスポーツが浸透している。今年1月、アメリカの西海岸の大学12校が所属するパシフィック12カンファレンス(Pac-12)のうち、ワシントン大学を除く11校が集まり、Pacific Alliance of Collegiate Gamers (PACG)を結成。各大学の公式のサポートはまだ得ていないようだが、今後、大学レベルでもeスポーツが本格化しそうだ。

日本でも、サッカーや野球、バスケットなどスポーツゲームの愛好家は多い。JリーグやBリーグがアメリカと同様にeスポーツを取り入れたら、スポーツファン、ゲームファンの垣根を越えて盛り上がるだろう。リアルスポーツとeスポーツがタッグを組めば、日本のスポーツ界もさらに面白くなる。

<了>

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川内イオ

1979年生まれ。大学卒業後の2002年、新卒で広告代理店に就職するも9カ月で退職し、2003年よりフリーライターとして活動開始。2006年にバルセロナに移住し、主にスペインサッカーを取材。2010年に帰国後、デジタルサッカー誌、ビジネス誌の編集部を経て現在フリーランスの構成作家、エディター&ライター&イベントコーディネーター。ジャンルを問わず「規格外の稀な人」を追う稀人ハンターとして活動している。著書に、『BREAK! 「今」を突き破る仕事論』(双葉社)など。