取材・文=田澤健一郎、写真=塚原孝顕
疲労回復と自分の体との会話のために練習後に行うランニングは効果的
「走り込み」は必要ないが、一方で、まったく走らなくてもいいか、といえばそうでもない。野球選手も適切な体力、持久力は必要であり、そのためのラン・トレーニングは効果的なケースもある。
友岡氏も目的に沿ったボール間走や短い距離をダッシュするスピード・トレーニングといったラン・メニューもときには必要だと語る。
「ポール間走は乳酸除去能力を高めて持久力をつけるために効果的ですし、瞬発的な動きに際の筋反応をよくするためには、10メートル~30メートルの短距離ダッシュは効果があります」
もちろん、むやみに走るのではなく、全力できちんと走れる適切な本数で、が原則だ。
「また、ウォーミングアップとしての軽いジョギングや、疲労除去、リカバリーとしてのロングディスタンスは意味もでてきます」
後者のわかりやすい例としては、練習後に「クールダウン」としてランニングをする、などである。
「走ることで血流を活性化させて汗をかき、代謝を促進させて疲れを取る。30分くらい、ジョギングをするようなイメージで十分です」
さらに、ゆっくりと長く走る、いわばロング・スロー・ディスタンスを、自分の体と向き合う時間としてルーチンにするは、「あり」だ。
「ランニングをすることで、自分の体重を体がどう支えているかを感じたり、体のバランスを意識したりするなどして自分の体の状態をチェックする。それを、アメリカではフラッシングといいます。現役時代の野茂英雄投手などがよく行っていました」
いわば、自分の体と会話するためのランニング、といったところだろうか。
「ルーチンとして行えば、体の調子がいい日、どこかに痛みや張りを感じる日などがわかるわけです。痛みや張りがあるということは体のどこかに不調があるわけで、ケアやコンディショニングの目安になる。少し話題はズレますが、日本人は肉体の感覚を『感じる力』が非常に繊細で、ちょっとの違いも見抜ける力が優れています。筋肉の状態もそう。活躍する選手はこの感覚が鋭い。根拠はないのですが、日本が積み重ねてきた歴史や文化の影響かなと思いますね」
同じ1時間をどう使うか? ダッシュの合間にもできることはある
友岡氏(塚原孝顕)ともあれ「走り込みは必要ない」という話は、あくまで「過度な走り」は必要ない、という話である。また「足腰を強化するならウェイト・トレーニングをして筋力をアップさせるべし」という話も、ただ筋肉を肥大化させればいいではなく、理想の動き、パフォーマンスをするために必要な筋力を、動かし方も考えながらパワーアップしようということだ。まとめてみれば、至極、当然の話のようにも感じる。
ただ、これをアマチュア選手、たとえば授業や講義で練習時間が限られる高校生や大学生の話とすると、日常では練習時間が限られているチームも少なくない。ウェイトもランも、野球の技術・実戦練習もすべてやるとなると難しい。冒頭の「走り込み」を減らした、というチームのなかには、その時間をウェイト・トレーニングの増加に充てたケースも多かった。それは限られた時間でなにを重視して練習するべきか、と考えた結果だったという。
この点について友岡氏は、工夫の仕方もあると話す。
「短距離のスピード・トレーニングは90%以上の力を出せないと意味がないから、間で休憩が必要。ゆえに1時間に5、6本しか走れないと説明しました(第1回に掲載)。ならば、その休んでいる時間に腹筋など足に影響のないエクササイズ、バランストレーニングなどをして、心拍数が下がり筋肉の疲労がとれたら次の1本を走る、といった方法もありますよね。間で肩の障害予防や股関節の可動域を広げるエクササイズをしたっていい。同じ1時間のトレーニングでも効率より効果のあるトレーニングができるかどうかで何倍もの差がつくと思いますよ」
同じメニュー量も工夫次第で時間を短縮することはできる。一見、同じラン・トレーニングのようでも、インターバルの過ごし方などで、そのチームの意識、強い弱いの背景がわかるかもしれない。
[プロフィール]
友岡和彦
1971年生まれ。立教大学文学部卒業後、アメリカに渡りフロリダ大学でトレーニング・スポーツ・サイエンスについて学ぶ。1999年、フロリダ・マーリンズのストレングス&コンディショニング・アシスタントコーチを務めた後、2001年より2008年までモントリオール・エクスポズ(後のワシントン・ナショナルズ)のヘッドストレングス&コンディショニングコーチ。2009年より現職。