[特別対談 第1弾]野村克也×池田純「監督が決まらないなら、俺に相談してくれりゃ良かったのに」[特別対談 第2弾]野村克也×池田純「いかにして客を入れるかはあんたらの仕事、我々は勝つのが仕事」[特別対談 第3弾]野村克也×池田純「恵まれているチームって好きじゃないんだ。弱いチームが好きだね」

インタビュー=日比野恭三、撮影=松岡健三郎

「野村ノート」は球界には出回っている!?

©松岡健三郎

池田 新しい本を出されたそうですね。『野球論集成』ですか。

野村 俺の本は今までにもう100数十冊出ているらしいよ。それ聞いてビックリした。

池田 野村さんの本、すごく売れるらしいですからね。

野村 だから出版社が言ってくるんだろう、次から次に。

池田 帯に「門外不出の野球ノート、完全初公開」とありますけど、これって門外不出じゃないですよね。私、読んだことありますよ。球団社長になった2年目ぐらいに、「これが野村ノートだ」って言われてA4のコピーをもらったことがあります。熟読しました。

野村 今回の本は、その後にまとめ直した野球ノートがベースになっているんだけどね。それで、熟読はいいけど、タメになったのかね。

池田 少年野球しかやっていない素人でしたから、プロの現場の人たちと話をするうえですごくためになりました。私が最初に野球を学んだのは野村ノートなんですよ。

野村 そう。それを聞くとうれしいね(笑)。

「正論を言う人は嫌われるんだよな」

©松岡健三郎

池田 今のプロ野球界を見渡して、いちばんの問題点は何だと思いますか?

野村 監督がいない。監督の人材不足だ。

池田 たしかに。名前で話題になる人、騒がれる人を探す世界になっている感じがします。政治の世界と同じですよね。

野村 何でこうなっちゃったのかっていう、その原因を突き止めないと……。一つはやっぱり、誰が監督やっても2年3年で短いじゃない。昔のいい監督ってのは、最低5年10年はやっているよ。鶴岡監督なんて20年もやっている。今じゃ考えられない。

池田 監督の任命権をフロントが持っていますからね。

野村 1年でも2年でも長くやりたいから、自分の保身に走っちゃうんだよね。自分が残ることに精一杯。後輩を育てるとかって、そんな余裕が全くない。

池田 ヤクルトの監督をされていたときは、在任中から次の監督を決めていたそうですね。

野村 相馬社長から言われてね。若松(勉)を教育してやってくれと。わかりましたと言って、若松には試合中ずっと俺のそばから離れるなと言ったんだ。俺がぶつぶつしゃべるから、それをよう聞いとけってね。若松は功労者だし球団の気持ちはわかるけど、でも監督は無理だ。器じゃない。

池田 その“器”っていうのは、どういうことですか?

野村 言葉で表現するのは難しいけど……わかりやすく言えば、後輩から慕われているってことじゃないかな。手前みそになるけど、俺が選手だった時代は何か問題があるとみんな俺のところに聞きにきたんだよ。こうじゃないか、ああじゃないかって答えていたけど、そういうのが積もり積もって監督の道につながったんじゃないかと思う。

池田 野村さんは、聞かれれば教えていたんですか。たとえば後輩のキャッチャーにも自分の技術を隠すことなく。

野村 教えていたと思うよ。聞きにくるってことは、やっぱりそれだけ進歩欲があるわけだから。非常にいいことだよね。

池田 野村さんのような、経験と実績のある人が“監督の先生”をやるというのは、一つの方法だと思います。ただ、どの球団も面倒くさい人を敬遠する傾向がありますよね。御せないから。

野村 正論を言う人は嫌われるんだよな。

池田 ええ。どんどん面倒くさい人が少なくなってます。選手にしても。

野村 おれめんどくさいか?

池田 めんどくさいですよね(笑)。

「総理大臣を監督にしたら強くなるのかって、そんなわけない」

©松岡健三郎

野村 やっぱりヤクルトには足を向けて寝られないんだよ。ほかのチームと何が違うって、ヤクルトだけは相馬さんが俺の言うことを聞いてくれた。ほかは聞かない。阪神なんか特に聞かない。

池田 そうだったんですか(笑)。

野村 一回、オーナーのところまで言いに行ったことがあるんだ。阪神は結果が出ないと監督ばかりコロコロ変えるけど、今の球団の心臓部は編成部ですよって。そしたら、俺が辞めてから編成部改革だって。これからよくなるんじゃないの、阪神は。

池田 野球人ではない人が監督をやる、ということはありえますか。

野村 それは無理だろ。総理大臣を監督にしたら強くなるのかって、そんなわけない。東京ドームの記者席に座って眺めていても、いないんだよな、監督の器の人間が。こんなんで野球界、大丈夫かね、しかし。

[特別対談 第1弾]野村克也×池田純「監督が決まらないなら、俺に相談してくれりゃ良かったのに」[特別対談 第2弾]野村克也×池田純「いかにして客を入れるかはあんたらの仕事、我々は勝つのが仕事」[特別対談 第3弾]野村克也×池田純「恵まれているチームって好きじゃないんだ。弱いチームが好きだね」

野村克也氏がすべて野球人に捧げる野球理論の集大成 『野村克也 野球論集成』(徳間書店)が絶賛発売中!

選手としても、監督としても輝かしい実績を残す野村克也氏。その野球理論を詳細に書き留めたノートが存在することを知っているだろうか。これまで門外不出となっていた野村克也氏の野球ノートが完全公開された。著者の野村氏も「私にとって最初で最後の実践向け野球書です。プロ野球関係者だけでなく、野球を愛し、楽しんでいるすべてのひとに届けたい」と語る一冊で、これを読めばID野球のすべてがわかる。

『野村克也 野球論集成』
野村克也(著)
(書影)
1850円+税/四六判ハードカバー/徳間書店

野村克也(のむら・かつや)
1935年京都府生まれ。27年間の現役生活で、三冠王1回、MVP5回、本塁打王9回、打点王7回、首位打者1回、ベストナイン19回と輝かしい成績を残す。三冠王は戦後初、さらに通算657本塁打は歴代2位の記録。90年、ヤクルトスワローズの監督に就任。低迷していたチームを立て直し、98年までの在任期間中に4回のリーグ優勝(日本シリーズ優勝3回)を果たした。


日比野恭三

1981年、宮崎県生まれ。PR代理店勤務などを経て、2010年から6年間『Sports Graphic Number』編集部に所属。現在はフリーランスのライター・編集者として、野球やボクシングを中心とした各種競技、またスポーツビジネスを取材対象に活動中。