文=西森彰

海外組からなでしこリーグ2部まで幅広い選考

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 リオ五輪アジア最終予選敗退の責任をとって退任した佐々木則夫前監督からバトンを受けた高倉麻子監督は、新生なでしこジャパンのチーム作りについて「私のチームの戦術、特に攻撃の部分は、ピッチに出ている選手の個性によって変わる」と語る。独創的な戦術を練り上げ、これに選手を当てはめていった前任者とは対照的なアプローチだ。

 2016年4月に就任して以来、これまで国内合宿を含めて招集した選手は38名。選考基準は「テクニックがありクレバー」「走力がある」「チームのために戦える」「日本代表への思いが強い」の4項目だが、所属チーム名など、選手の能力以外の項目は気にしていない。むしろ、地味なプロフィールが災いして選ばれていなかった選手を拾い上げる傾向にある。

 事実、その顔ぶれは熊谷紗希(リヨン/フランス)のような海外組から、千葉園子(ASハリマ・アルビオン)、大矢歩、上野真実(いずれも愛媛FCレディース)ら、なでしこリーグ2部所属選手まで多岐に渡る。現在、レギュラー目指して奮闘中の高木ひかりの所属チーム(ノジマステラ神奈川相模原)も、初招集時には2部で戦っていた。

 一方、高倉監督が指揮したリトルなでしこ、ヤングなでしこで中心選手を務め、U−17女子ワールドカップ、U−20女子ワールドカップで連続MVPに選ばれた杉田妃和(INAC神戸レオネッサ)は一度も呼ばれていない。

 高倉監督就任後、なでしこジャパンは国際Aマッチを10試合消化しているが、プレー時間が半分の450分に達しているのは8名だけだ。それぞれの個性を試合の中で見るために、一部の選手を除いてメンバーを入れ替えながら戦っている。その一方で、試合を壊さないための保険として、キャプテンの熊谷と1試合を除いてフル出場の阪口夢穂(日テレ・ベレーザ)、高倉体制発足後、起用方法にこだわらず、チーム最多の7得点を奪っている横山久美(AC長野パルセイロ・レディース→フランクフルト/ドイツ)の3名が、現段階でチームの核をなしている。

唯一、手薄なのが有吉佐織を欠くサイドバック

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 このほか、攻撃陣ではプレー面での引き出しの多さが武器で、年代別代表でもチームメートだった横山との連係も良い田中美南(日テレ)が、また、守備陣では熊谷のパートナーとして前述した高木が存在感を増している。

 また、GKは2試合連続完封の池田咲紀子(浦和レッズレディース)が故障し、最多の5試合でゴールを守った山下杏也加(日テレ)が先頭を奪い返した。中島依美(I神戸)と身長148センチの中里優(日テレ)も、ユーティリティーの強みを活かして、出場時間を延ばしている。

 これらに、鮫島彩(I神戸)や宇津木瑠美(シアトル・レインFC)といった11年女子W杯ドイツ大会優勝メンバー、ケガなどで出遅れていた菅澤優衣香、猶本光(いずれも浦和)、さらに籾木結花、長谷川唯(いずれも日テレ)、市瀬菜々(マイナビベガルタ仙台レディース)らU−20からの昇格組が加わり、ポジション争いは激しさを増してきた。

 そんななか、唯一、手薄なポジションがサイドバックだ。もともと女子W杯カナダ大会でMVP候補にノミネートされた有吉佐織(日テレ)が軸と目されていたが、今年3月のアルガルベカップ開幕直前に全治数か月の大ケガを負った。さらに浦和や年代別代表で、サイドバックとして活躍してきた北川ひかるも、同大会のアイスランド戦で骨折。これも長期離脱を余儀なくされた。

 残存戦力で胸を張ってSBに置けるのは鮫島と中島くらい。スピードを見込まれてFWから転用されている大矢をはじめ、他の選手の起用はリスクと背中合わせになる。であれば、人材が溢れている中盤の人数を増やして、サイドの選手が背後のスペースへの意識を高めればいい。ベルギー戦では、高倉体制下初の3バックシステムでスタートしたが、目先の勝利を拾うためのベルギー対策や、単なる酔狂ではなく、SB不足という難題に対する、ひとつの答えだろう。

今のなでしこジャパンは、世界大会でベスト8〜16クラス

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 対外試合に積極的な姿勢を見せる指揮官の下、昨年はリオ五輪に参戦するアメリカと2試合戦った(就任前から両国の五輪前強化試合として開催が決まっていた)。また、プレーオフを勝ち抜いて五輪出場が決まり、強化試合の対戦相手を探していたスウェーデンのスパーリングパートナーも務めた。シーズン後半は国内合宿に終始したが、2017年に入ると本格的に対外試合が増えてきた。

 まず3月にはポルトガルで行われる女子代表チームのフェスティバル、アルガルベカップに参戦し、スペイン(●1−22)、アイスランド(〇2−0)、ノルウェー(〇2−0)、オランダ(●2−3)と対戦して2勝2敗。大会を6位で終えた。続いて4月9日には高倉体制下初のホームゲームを、震災復興支援試合として熊本で開催。来日したコスタリカを3−0で破った。

 さらに、今月には女子EURO本大会を控える欧州へ遠征。6月9日(日本時間10日)にEURO開催国のオランダと対戦し、横山のゴールで1−0で下してアルガルベカップの借りを返すと、6月13日(日本時間14日)、男子の日本代表がイラク代表とワールドカップ予選を戦った数時間後にベルギーと対戦。菅澤のゴールで先制しながら追いつかれ、1−1で引き分けた。

「基本的にはFIFAランキング上位のチームから順番にリクエストを出していますが、『あそこも(試合の申し込みを)受けてくれないの?』ということもあります」と高倉監督。今年の対戦相手はコスタリカ(同30位)を除けば、いずれも7月29日に開幕する女子EUROの出場国で、同20位以内のチームだ。

 同6位の日本と比べれば格下に映るが、ランキングは数年間の成績が反映されてのもの。日本がチーム立ち上げ後の初動段階なのに対して、欧州勢は女子W杯、五輪を経て、4年間の集大成となるEURO直前とあって完成度も、モチベーションも高い。実際、これら欧州中堅どころとの6試合で、なでしこジャパン3勝1分2敗の五分に近い成績に終わった。

 新戦力をテストしたり、新しいシステムに挑んだり、自分たちに対する枷はあった。だが、同じ条件で戦ったとき、五輪を制したドイツや女子W杯を制したアメリカが、これほど苦戦するだろうか。今ここで女子W杯を行えば、グループステージを何とか突破してベスト8に進めるかどうか、といったあたりが、(あくまで現時点での)なでしこジャパンの実力だろう。

 10年前なら、それだけの成績が残せれば、大成功だった。だが、今は違う。昨年のU−17女子W杯決勝でリトルなでしこがPK負けしたことについてコメントを求められた高倉監督は、報道陣にこう答えた。

「世界で2位という結果に、みなさんから『残念でしたね』と声をかけられ、私自身も実際にそう思っている。そこが、日本の女子サッカーの現在地だと思うんです」

 なでしこジャパンは7月28日からアメリカで行われる「2017 Tournament of Nations」に参加する。リーグ戦形式のミニ大会で、参加国は日本、アメリカの他にブラジル(同9位)、オーストラリア(同8位)という強豪揃い。そこで、日本の強さを再認識させることが「銀メダルでも残念」と言えるだけの地位へ返り咲くための第一歩になるだろう。


西森彰

2003年から女子サッカーの取材をはじめ、なでしこライターの“はしくれ”に。現在は『週刊サッカーダイジェスト』『高校サッカーダイジェスト』や、『AERA dot.』『INSIDE WEB』などのWEB媒体に女子サッカーの記事を寄稿中。