文=日比野恭三

人気向上のために「接点」を増やすべき

©共同通信

 近年、プロ野球の地上波放送がめっきり少なくなったことは、いまさらいうまでもないだろう。1994年には年間平均世帯視聴率23.1%(関東地区)をたたき出すなど、毎年120試合以上の巨人戦が放送されていた1990年代~2000年代初頭の隆盛はもはや過去の話。現在の巨人戦の地上波放送(日本テレビ)は数にして年間20試合弱、視聴率も10%を切るのが常態化している。

 プロ野球といえども、テレビで試合を流せば人気が維持できるような時代でないことは明白だ。そうした状況のなか、球界は新たなファンを獲得するために社会との「接点」をどのように増やしていくのか。NPBや各球団は、そうした命題と向き合うことが求められている。

 だが、プロ野球の現場で取材をしていると、球界は社会との「接点」を増やすつもりなどないのだろうと思わざるをえない現実にしばしば直面する。最も簡単に「接点」を増やす方法の一つは、より多くのメディアにプロ野球を、自球団の情報を取り上げてもらうことだ。

 テレビのパワーダウンは先に触れたとおりだが、それに加えて、新聞もかつてのような影響力を失いつつある。スポーツ新聞の発行部数は355万部(2015年)。2005年は538万部だったというから、10年間で200万部を減らしたことになる。要するに、テレビや新聞といった旧来の報道機関ばかりを当てにしていても、これから先、「接点」が増えることは期待できないのだ。

 一方で、これもいまさらいうまでもないことだが、インターネットメディアが勃興し、紙媒体や電波媒体をしのぐ勢いでネットを通じて情報を得る人の割合が増えている。新聞の電子版は別にして、そうしたネット媒体に記事を執筆しているのは多くがフリーランスの書き手である。

 ところが、フリーの書き手に対する球界の処遇は冷たいといわざるをえない。正直なところ、球場で取材活動を行っていると、いいようのない孤独感やもの悲しさに毎日のように襲われる。

 政治報道などでも既得権化しているが、プロ野球の取材活動において、新聞社、通信社、テレビ、ラジオといった「記者クラブ」加盟社の記者と、「それ以外」の取材者の間には厳然たるラインが引かれている。「それ以外」の側に立っている身としては、その線の向こう側がうらやましくてしょうがないというのが偽らざる思いだ。

 最もむなしくなるのは、ゲームの取材のために球場に足を運んでいるのに、試合の様子をモニター画面で見ている時だ――と書いても、読者の多くはおそらく意味がわからないだろう。

 球場には記者席がある。記者が試合を見るための席としてスタンドの一部が割り当てられているのだが、それはあくまで「記者クラブ」のもの。某スタジアムでは入口のドアに「記者クラブ以外は立ち入り禁止」と貼り紙がされていて、フリーライターがドアノブに伸ばした手を引っ込めさせるに十分な威圧感がある。

 詳細は知らないが、おそらく加盟各社は会費のようなものを払っていて、そうしたお金が記者席の設置、維持管理などにも充てられていると考えられる。だから、クラブ非加盟の記者がそこに座ることは権利の侵害であり、許されないという理屈は通る。

 問題は、そこに入れない取材者に、試合を生で見る代替手段がないことだ。

試合取材するフリーライターの実情

©共同通信

 Jリーグの試合では、プロ野球と同様に記者クラブのための記者席があるが、それ以外の取材者が自由に座ってよい席も一定数確保されているのが一般的だ。スタジアムまで来て、試合の見どころやJリーグの魅力を伝えようという意思のある取材者に、試合を見るための席が用意されているのは極めて当たり前の話だ。

 だが、プロ野球の場合、記者クラブ以外の取材者にどこで試合を見てもらうか、まったくといっていいほど考慮されていない。

 某球団の広報担当者に「どこで試合を見ればいいか」と尋ねたら、「さあ、自由席ですかね」と薄笑いで返された時には絶望的な気持ちになったものだ。「試合を見たいならチケットを買ってください」と要求する球団もあれば、フリーも座れる席を用意していながら、記者で混みあってくるとフリーの書き手にそこからどくように指示してくる球団もあると聞く。

 結局、フリーライターは試合中、どこで何をしているのかといえば、コンコースで3時間以上も客に混じって立ち見をするか、関係者の食堂やサロン、プレス控室など、窓さえもない部屋に閉じこもって、そこに据え付けられたモニターを通して試合を見るか。どちらにしても、あまりにむなしい時間を過ごさねばならないのだ。

 そして試合が9回に入るころ、選手通路へてくてくと歩いていき、囲み取材やぶら下がりに備える。そこで、記者席で“優雅に”試合の全容を見てきた番記者の方々と合流することになるわけだ。

 野球を伝えたい。それがささやかながらプロ野球の発展に資するという思いもある。だから、ちゃんと取材してから伝えたい。多くは望まないが、ただ、試合を見られるいくつかの席をフリーの書き手に与えてほしい……。

 日本プロ野球界にはなんらかの手を打ってほしいと切に願っている。


日比野恭三

1981年、宮崎県生まれ。PR代理店勤務などを経て、2010年から6年間『Sports Graphic Number』編集部に所属。現在はフリーランスのライター・編集者として、野球やボクシングを中心とした各種競技、またスポーツビジネスを取材対象に活動中。