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名プログラム『エデンの東』と、彼の解釈した「ティムシェル」という言葉を、今一度振り返ってみたい。現在も話題をさらっている町田の圧倒的な表現力の原点を、アイスショーシーズン真っ盛りの夏にお届けしたい(文=いとうやまね)

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PIW2017のショーのテーマは「〜4seasons.〜」。オープニングは、ストリングスの『Viva La Vida(by Coldplay)』に乗せて、カラフルな衣装に身を包んだおなじみのPIWスケーターが登場する。リンク一面に花が咲いたかのような華やかな演出。ゲストスケーターも加わり、会場は一気に盛り上がった。

東京公演7月14・15日出演の現役スケーター

本田望結は見るたびに身長が伸び、技術的にも3ルッツを軽々跳んでみせるなど、驚くほどの変ぼうを遂げている。『Stairway to Heaven』では、持ち前の表現力にもさらに磨きがかかり、そうそうたる出演者の中でも見劣りのしない、完成度の高い演技を披露した。

五輪シーズンらしい勝負プログラム、新FS(フリー)オペラ『トゥーランドット』を披露した本田真凜。曲が発表された時には「有名すぎてどうなのか?」との声も聞かれたが、実際に演技を見てみると、プログラム自体も本田自体も「強い!」という印象を持った。これまでの数々のトゥーランドットの記憶を塗り替えかねない、インパクトのある作品になるだろう。

樋口新葉の新しいEX(エキシビション)はアカペラバージョンの『Hallelujah』。昨季の競技プログラムによって表現の幅が一気に広がり、シニアスケーターとしての貫禄すら感じさせた。

東京公演7月16日・17日出演の現役スケーター

(文=Pigeon Post ピジョンポスト 尾崎茉莉子)

本田太一は、丁寧なスケーティングで新SP(ショート)『Mambo』を披露。冒頭に3アクセルを予定しており、ジャンプには高さがあった。シーズン中にこの大技が完成する日もまもなくかと期待が膨らむ。両腕を挙げて腰を回したり、耳に手を当ててみたりと小気味いい曲調に合った振付も特徴的。シーズンを通し、このプログラムをどんどん自分のものに出来れば、表現の幅もさらに広がるだろう。

坂本花織も、新SP初お披露目となった。曲はサン=サーンスの「交響詩『死の舞踏』作品40」。スピードのあるハツラツとしたスケーティングが持ち味の坂本に、ぴったりの選曲と言える。冒頭は武器である3フリップ+3トゥループのコンビネーション。幅・高さともに十分なジャンプで、試合さながらの質で高難度技を事もなく決める強さに驚かされた。中盤から曲調が盛り上がるにつれてスケーティングの速度がぐんぐん上昇し、演技に迫力が増してより雄大に見える。音に合わせて着氷する2アクセルは見せ場のひとつ。成功の瞬間、会場が一斉に沸いた。演技の勢いの良さに加えて、随所に散りばめられたポジションの美しいスピンも魅力的。すでに完成度の高いこのプログラムが、シーズン中にどれだけ“深化”を遂げるのか要注目だ。

三原舞依が本公演で披露したのは、新EX『La Califfa』。美しい女性ボーカルが、たおやかな演技に寄り添うようだ。挑戦的というよりは、三原が持つ可憐な雰囲気をそのまま活かしたプログラムで、他の現役スケーターが競技プログラムを揃えてきたなか、より自然体で等身大のスケーティングが見られた。特に演技後半の2アクセルは踏み切りから着氷までに流れがあり、その前後のエレメンツにも途切れがなく、ジャンプが演技全体に溶け込んでいた。クライマックスを盛り上げるスパイラルや多彩なスピンも必見。今季の活躍にも期待が高まる仕上がりだった。

本田真凜と同じく宇野昌磨も、五輪シーズンのFSにオペラ『トゥーランドット』を選んだ。2015-16シーズンにも使用したこの曲で、五輪に向けて刻一刻と成長する姿が見られそうだ。曲が始まったその瞬間から、圧倒的な場の支配力で観客を引き込んでいく。スケーティングの一伸びが大きく、ショーのために縮小されたスケートリンクが一層小さく見える。重厚な滑りで足元に目が行くが、肩から腕にかけた上体の動きもしなやかかつダイナミックで、小柄ながら全身を大きく使った演技には目を見張るものがあった。表情も凛々しく、その目は平昌を見据えているようだった。

©坂本清

PIWチーム~4seasons.~

Springパートのハイライトは、BABYMETALの『メギツネ』バイオリンバージョン。狐のお面を手にしたメンバーが、疾走感あふれる力強い滑りを見せた。

Summerパートでは女性陣がフラメンコを披露。大人数でのスケートの動きを交えた壮観なフラメンコは、PIWメンバーの技術力の高さがあってこそ。また、『夏の思い出』ではPIW2年目の小沼祐太、新加入メンバー吉野晃平のさわやかコンビが、高原のそよ風のような優しいスケーティングで魅了した。

Autumnパートの『ALL IS FINE』は氷上のハロウィンパーティ。PIWメンバーとゲストが仮装して登場する。前半日程は、小塚崇彦が『ONE PIECE』の人気キャラクター、チョッパーの着ぐるみで登場。また、本田真凜はパティシエ、樋口新葉はベルガールの制服姿で登場し、終始笑顔でキラキラとした二人の魅力を振りまいていた。

Winterパートで場内はクリスマスムード一色に。外はギラギラと真夏の太陽が照りつけるなか、涼しい会場でクリスマスソングに乗せたスケーターたちの優雅な演技を見てクリスマス気分に浸ることが出来る時間である。『Merry Christmas Mr.Lawrence』はPIWメンバーによるシンクロナンバー。この時だけはメンバーも観客も、他の演目にはない気持ちの良い緊張感に包まれた。

このシンクロ要素というアクセントは、PIWの大きな見どころになっている。これからも様々なシンクロ技に挑戦し、シンクロナイズドスケーティングの魅力を発信してくれることを願っている。

プロスケーター

東京公演で一際大きな歓声があがったのは、1年3ヶ月ぶりに氷上に帰って来てくれた小塚崇彦。会場には「おかえり崇彦」と書かれたバナーがたくさん掲げられていた。復帰でもあり、プロスケーターとしての初舞台でもある本公演。『愛は面影の中に(The First Time Ever I Saw Your Face)』は、しっとりとしたテンポで小塚のスケートを引き立てる、ちょうど良い耳馴染みの曲だ。その演技はとにかく、“小塚崇彦とはこういうスケーターだ!”と、例えば初めて見た人が居たとしても一瞬で伝わる内容になっている。

じっくりと見せるバッククロス、アウトサイドイーグルで1周、そのままインサイドイーグルへ。ステップでの美しい重心移動には、思わず「上手い」と唸ってしまう。復帰を待ちわびたファンにとっては、一番見たかったものがギュッと凝縮されたプログラムだった。自身の良いものや求められているものをわかっていて、その通りのプログラムを作ってきたところに、さすが小塚らしいと感じた。

4月に引退したばかりの村上佳菜子がプロスケーター1年目に見せるのは、自身が振り付けたAdeleのヒット曲『Hometown Glory』。歌詞には村上の現在の複雑な心境が現れているようで、引き込まれる演技だった。

安藤美姫の『Eres tú』は海外のショーで評判が良く、PIWで日本初披露された。スペインの人気歌手、ディアナ・ナバーロのボーカル。安藤の滑りは、代名詞のような技があるわけではないが、どんな曲を演じても人を惹きつける力がある。それは努力だけで身につけることの出来ない、安藤美姫の最大の個性なのかもしれない。

初回公演のオープニングから「一番気合いが入っている!」と遠くからでも感じた織田信成。群舞も全力、笑顔も全力、また、オープニングでは3アクセルにトライ、エンディングでは4トゥループにトライし、現役引退ながら今季も自己ベストを更新するつもりかもしれない。ステファン・ランビエール振付の新EX『To Build a Home(by The Cinematic Orchestra)』は、プロスケーター織田信成のステージが一段上がったと感じる素晴らしいプログラム。技術も表現もさらに磨きがかかっている。テレビで見る面白い彼の姿しか知らない人にこそ、この演技をどうにかして見て欲しい。

本田武史は、初回公演中で一番高いジャンプを跳んだスケーターかもしれない。また、『I’m Already There』の演技では、先に滑った小塚に負けじと、たっぷりと得意のイーグルで魅せた。

荒川静香は、ジェフリー・バトル振付の通称「彼シャツプロ」、『With You』の演技。いつどこで見ても出来にブレのない、奇跡のスケート技術を堪能させてもらった。見せ場は何と言っても無音で魅せるストレートイーグル。息を呑む美しさだ。

町田樹は、昨年に続き、会場の空気を支配し、最後に全部持って行った。前代未聞、ひとりでバレエ『ドン・キホーテ』の3幕構成を演じるプログラム。オーケストラのチューニング音が流れた後、無音の状態で氷上に現れ、無音のまま3ルッツを跳んでスタート位置に着く。曲が始まると町田バジルのオンステージ。発想だけではなく確かな技術と表現力があるからこそ、いろんなことにチャレンジが出来るのだと、滑り始めてすぐに心を掴まれた。第3幕『祝祭のバジル』ではリンクサイドの観客の間近を通りながら軽快に舞い、手拍子とともに会場が興奮に包まれた。フィニッシュでは思わず報道関係者席からも大きな拍手が。

フィギュアスケートで、エキシビションのプログラムで、ここまでのことが出来るのかと、またしても町田樹に度肝を抜かれてしまった。彼が突然現役を引退した時は、誰もがもったいないと思っただろう。しかし現在の姿を見ると、プロスケーターにしか出来ない演技というものがあり、プロスケーターはただ現役を引退した元選手ではないのだと、町田に教えられた気がした。

これからのアイスショー、PIWは?

アイスショーは現在乱立状態。スイスの『Art on Ice』や歌舞伎とのコラボレーションの『氷艶』など、個性的なショーが出現したことにより、見る側の要求もこれまでより高くなっている。また、日本スケート界はここ数年で黄金期の選手が一気にプロ化したことで、“プロスケーター黄金期”の始まりと言えるだろう。

PIWに「THE CONVOY」主宰の今村ねずみが演出で加わってから4年目の今年。変化の年、手探りの年、成長の年を経て、かなり完成形に近いものになったように感じられた。衣装、振付、構成、ともに確実に洗練されてきている。そして、PIWメンバー個々の技術が高まっている。

プロスケーター黄金期を迎え、PIWはとても良いタイミングで改革をしたと言える。これからも、世界でも珍しい“チームとしてのアイスショー”のさらなる追求に期待している。

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名プログラム『エデンの東』と、彼の解釈した「ティムシェル」という言葉を、今一度振り返ってみたい。現在も話題をさらっている町田の圧倒的な表現力の原点を、アイスショーシーズン真っ盛りの夏にお届けしたい(文=いとうやまね)

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アイスショー『Dreams on Ice』詳報!平昌五輪代表争いの行方は?

アイススケート界の年度は7月に切り替わる。『Dreams on Ice』は、毎年その切り替え頃の6~7月、シーズンイン直前に開催される、昨季のフィギュアスケート日本代表が招集されるアイスショーだ。他のアイスショーと異なるのは、開催に日本スケート連盟が深く関わり、プロスケーターはゲスト出演のみである点だ。世界選手権/四大陸選手権/世界ジュニア選手権/冬季アジア大会といった大きな大会に派遣された選手や、全日本選手権/全日本ジュニア選手権の表彰台選手、全日本ノービス(13歳以下)選手権優勝選手がメインとなる。

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