文=中西美雁

フルセットのゲームは5戦5勝、中田ジャパンが示す勝負強さ

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バレーボール全日本女子代表・中田久美監督の初陣である、ワールドグランプリ2017予選ラウンドが終わった。日本は予選グループで6位。決勝ラウンドに駒を進められるのは上位6位までだが、決勝ラウンド開催国中国が繰り上がるので、日本はひとまずここで一区切りだ。

6勝3敗で12チーム中6位。スタートとしては上々の成績ではないだろうか。しかも、昨季覇者のブラジルや、リオ五輪銀メダルのセルビアを、メンバーを落としてきたとはいえ、フルセットで倒した。今大会はフルセットにもつれ込んだ試合が多かったが、すべてものにしている。6勝のうち、5勝がフルセットだ。セルビア戦、ロシア戦は2セット先取されてからの大逆転劇。普通ならストレートで敗れてもおかしくない流れである。間違いなく勝負強いチームだということができるだろう。

中田監督はチーム始動時に5つの目標を定めた。それは、「スピード、正確性、連携、桁外れの集中力、世界に負けない強さ」。

大会をとおして成長を見せているのは、木村沙織の後継者と目される古賀紗理那だ。中田監督の掲げる「スピードバレー」にフィットしているかを問われ、監督は「古賀は、スピードバレーに戸惑っていた部分もあったと思います」と振り返る。そこは柔軟に、「どうしてもスピードについていけないところが見えたときには、逆に古賀の打ちやすいトスを上げてあげたほうがいいんじゃないかと思い、セッターには『速く攻めるばかりではなく、状況によってはスパイカーが一番打ちやすいトスを供給したほうがいい』とメリハリを要求しています。徐々に慣れてきているかなと思います」と評価した。

スターティングメンバーにこだわらず、控えをうまく使ってきた今大会だが、香港大会のセルビア戦では、成長させるために古賀をフルで使い続けた。コーチからは別の意見もあったというが、中田監督の期待に応え、古賀も徐々に調子を取り戻し、セルビアに金星をあげることができた。古賀は「セルビアに勝てたことは、チームにも自分にも自信になった」と顔をほころばせた。

多くの選手たちが結果を出し、チーム内の競争は熾烈に

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選手のセレクションの意味も大きいであろう今大会だが、出てくる選手がみなそれぞれに活躍するので、監督としてはうれしい悲鳴を上げていることだろう。セッターは、2009年、2010年に選出されて以来、久しぶりの冨永こよみと、実戦では初めての佐藤美弥の二人が、それぞれ持ち味を生かして結果を出した。特に佐藤はブラジル戦をフルに戦い、ロシア戦でも3セット目から投入されて大逆転の流れを作った。ミドルブロッカーを多用するトス回しで、ここしばらくの全日本にないバレーを展開している。ここにリオ五輪経験者の宮下遙がいかに食い込んでいくか。

ミドルブロッカー陣の競争も熾烈だ。安定した得点力とブロック力で、177センチの奥村麻衣が一歩リードするが、始動時に「岩坂名奈(187センチ)と松本亜弥華(188センチ)の高い二人を我慢強く育てていきたい」と語っていた中田監督。リオ五輪経験者の島村春世(182センチ)と合わせ、アジア選手権やグランドチャンピオンズカップでの起用が注目される。

中田監督は最終戦となったロシア戦「チームにとって結果を残すことが大きな栄養になる。勝って終われて本当に良かった。結果が残せていることで、選手の意識や世界と戦うために何が必要か少しずつ見えていると思う」と手応えをかみしめていた。

ワールドグランプリの後、8月9日から17日まではフィリピン・マニラで「第19回アジア女子選手権大会」。次いで、9月5日から10日まで東京、名古屋で「ワールドグランドチャンピオンズカップ2017」が行われる。

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中西美雁

名古屋大学大学院法学研究科修了後、フリーの編集ライターに。1997年よりバレーボールの取材活動を開始し、専門誌やスポーツ誌に寄稿。現在はスポルティーバ、バレーボールマガジンなどで執筆活動を行っている。著書『眠らずに走れ 52人の名選手・名監督のバレーボール・ストーリーズ』