大きな変化も、プロ化という点では大きく後退

 日本バレーボール機構(Vリーグ機構)は5月31日にスーパーリーグ構想についての最終的な報告を行った。公式サイトにアップされた資料を見れば分かるように、「プロ化」という言葉はどこにもなくなり、「ビジネス化」という言葉が使われていた。主な改革は、名称をプレミア、チャレンジⅠ、チャレンジⅡから、S1、S2、S3にすること。プレミア男女各8チームを、S1男子10チーム、S1女子12チームと増やすこと。そして、試合の運営権を、現在持っている各地方の協会から、チームに譲渡すること。

 大きく変わったようにも思えるが、プロ化という視点で見たときに、昨年9月に行われた当初の発表から大きく後退したのは間違いない。1年早く始まったバスケットボールのBリーグと比べれば、その違いは明らかだ。チームは独立採算制をとり、ほぼ完全ホーム&アウェイ。各自治体との関係性も密になった。バレーはなぜ、バスケに抜かれてしまったのか。

 答えは簡単だ。「外圧」と「川淵三郎氏の存在」がなかったからだ。バスケットは2005年にbjリーグが生まれ、企業主体のリーグNBLと分裂した。それぞれで運営がなされてきたが、国際バスケット連盟(FIBA)がこの状態を許さなかった。「1国1リーグ」の原則を盾に、二つのリーグが併存する日本に対し、国際試合の参加を禁止する制裁を行ったのである。2015年、これら諸問題を解決するため、サッカーのJリーグ創設に大きく貢献した川淵三郎氏を招聘し、「JAPAN 2024 TASKFORCE」を創設。2つのリーグをまとめて、2016年9月にBリーグとして開幕した。

1994年にもプロ化に動いたものの、実現には至らず

©共同通信

 バレーボールは以前にもプロ化の道を探ったことがある。1994年、Jリーグ開幕の翌年だ。松平康隆会長(当時)、山田重雄(モントリオール金メダル監督)らを中心としたプロジェクトだった。1994年6月6日に「21世紀に向けたバレー改革案」と題したプロ化構想が発表され、『プロ契約選手の承認』、『外国人選手の復活』、『プロチーム(株式会社化クラブ)チーム参加の承認』が掲げられた。新シーズンから日本リーグをVリーグと改称し、世界選手権が開催される4年後の1998年には完全プロ化を目指すとの構想だった。

 しかし、Vリーグが開幕しても日本人プロ選手は誕生せず、プロチームも結成されなかった。当時全日本の主力選手であった大林素子と吉原知子を含む9人の選手がプロ契約を所属する日立に提案したが、「1年待ってくれ」と言われVリーグ発足記念パーティの翌日に、2人だけ一転解雇された。2人はイタリア・セリエAにプロ選手として旅立ったが、Vリーグには前述の通りプロ契約選手は一人もいなかった。

 その後、松平には金銭の、山田にはセクハラのスキャンダルがあちこちで報道され、2人は表舞台を去らざるを得なくなる。一説には、これらのスキャンダルはプロ化を嫌がった企業チームがリークしたと言われている。

 Vリーグは松平が退任したあとの1996年にプロ化の凍結を決定、事実上の断念を宣言した。その後、堺ブレイザーズ(元新日鐵)、岡山シーガルズ(元東芝)などがプロチームとなり、選手も、企業チームに属したままプロ契約を行う選手が複数現れた。昨季で引退した木村沙織や、栗原恵、清水邦広といった選手たちがそうである。

 そのような状態の中で、昨年9月に新たなプロ化構想である「スーパーリーグ構想」が発表された。しかし、前回と同じく、Bリーグの発足を受けて慌てて発表した感がぬぐえず、期間も9月に発表して、リーグ開幕中の11月末に決断を下すという拙速なものだった。根本には同じ体育館スポーツであるバスケットにプロ化され、試合会場をおさえにくくなったということがある。地方自治体が、体育館の使用に関して、いち企業のチームよりは、地域に根ざしたプロリーグを優先するという現実を目の当たりにしたVリーグ機構は、早急にプロ化を推し進めようとした。しかし、発表した構想に、チームや選手、ファンのメリットが明確にされず、期限ばかりが3ヶ月後に強調されていたのを見て、各チームは反発した。乗り気になったチームもあったというが、結局プレミア全チームの部長が連名で、リーグを割ってスーパーリーグを創設することに反対を表明したのである。

 だから、バスケットのようにリーグの分裂もなく、国際バレーボール連盟からの外圧もなく、川淵三郎氏のような豪腕を持つチェアマンもいなかった。バレーボールの今回の結論の先送りは、ある意味で当然の結末だったといっていいだろう。

 元日本代表のOBからは、「プロ化しなければ、バレーボールは置いて行かれるだけです。今回の発表は、プロ化の概念にビジネスの視点が全く入っていない、極めて視界不良の船出ではないでしょうか。数字でリーグの経営展望を示さなければ本当にバレーボールが日本から無くなると思います」と危機感を語ってくれた。

 このまま手をこまねいて見ているしかないのか。または、川淵氏にバレーボールにも辣腕を振るってもらうのか。だが、Bリーグもまた、困難を抱えた船出とも言える。Jリーグのように、開幕バブルもなく、バスケファン以外に知られた選手は田臥勇太ら、数人のみ。BリーグとVリーグの共催などで活路を見いだすのも一つの手かもしれない。

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VictorySportsNews編集部