里崎智也×池田純 球団社長に、オレはなる! #1里崎智也×池田純 球団社長に、オレはなる! #2

インタビュー=日比野恭三

言葉が自分を守る一番の武器

里崎 もし今、球団社長になったとして、最初にやりたいことがあるんですよ。チームに関わる人を全員、集めるんです。一軍と二軍の監督、コーチ、バッピやブルペンキャッチャー、トレーナー、用具係といった裏方さん、それにスカウトとかの編成の人たちにも集まってもらって、全員にペーパーを配ります。そこに、チームのストロングポイントとウィークポイント、何が足りなくて、どうしなきゃいけないのか、それと自分がこのチームで仕事をしてきて、何に取り組み、どんな成果が出たのかという自己PR。まず、そういったことをすべて書いてもらいます。真剣に取り組んでいたら、論文の1つや2つ、絶対に書けるはずですから。

池田 それを読めば、各スタッフの本気度がわかりますね。

里崎 そうですね。どこまで深く考えているかを見てみたいんです。まさか1行で終わりってことはないでしょうから。朝から集まってもらって、書き上げた人から帰っていいよ、というのをやりたいですね。

池田 里崎さん自身は、文章を書いたりすることはあるんですか?

里崎 書きますよ。僕も昔は漫画しか読まなかったんですけど、30歳を過ぎたあたりからビジネス書、自己啓発本、もちろんアスリートの人が書いた本なんかも読むようになりました。

池田 先日、元陸上選手の為末大さんと話をする機会があったんですけど、彼は現役のときに言葉にする能力にすごくこだわっていたらしいんです。そうじゃないと、「コーチに自分のことをきちんと伝えることができないし、コーチからも正しいことを伝えてもらえない。それから世の中にも伝えることができない」とおっしゃっていました。文章を読んだり、書いたり、言葉にするということって、本当に大切だと思います。経営者が選手に何かを伝えようと思ったら、とにかく言葉にするしかありません。

里崎 言葉が自分を守る一番の武器ですよ。特にキャッチャーは。リードを批判されたときに、その配球に正当性があったのかを説明しなきゃいけない。そうじゃないと、「すみません」だけになってしまって、「お前は思いつきでリードしているのか」ってことになってしまう。今はツイッターが僕の文章力を上げてくれていますね。

池田 そうか、ツイッターやっているんですね。フォローしときます(笑)。

里崎 基本的には告知用に使っているんですけど、それでも140字以内という制限の中で、何をはしょって何を入れるかを考えなきゃいけないので、めっちゃ文章の勉強になります。あと、3月にビジネス書を出したんですよ。『エリートの倒し方』っていうタイトルなんですけど、これは出版社にプレゼンしに行ったんです。

池田 自分から?

里崎 はい。黙っていてもそういう話が来るわけないんで(笑)。出版社に行って、1時間ぐらい編集者の人の前でプレゼンして、おもしろそうだからやってみようとなりました。タイトルのとおりエリートの倒し方について書いているんですけど、エリートの人が読んでも役に立ちますよって、あちこちで言っているんです。倒し方がわかるということは、「どうすれば倒されないか」もわかるってことなので(笑)。

池田 実は私も新しい本が出まして……。『スポーツビジネスの教科書〜常識の超え方』という本なんですが、1冊お持ちしたので、良かったらどうぞ。

里崎 ありがとうございます。

池田 球団社長になったら何をすれば良いかが書いてあります(笑)。

里崎 タイトルがいいですね。僕も常識というものがあんまり好きじゃない。プロ野球界って、特に固定概念が強いんですよ。「前例がない」とかってすぐに言う。でも、前例がないからおもしろいのであって、だからやる価値があるんでしょって思うんです。僕はディナーショーをやったこともあるんですよ。プロ野球選手が一人でディナーショーなんて普通はやらない。だけど、おもしろいじゃないですか!? 現役のときと、引退したときの、合わせて2回やりましたけど、ホテルに400人もファンが集まりました。

池田 400人も! それ、料金はいくらにしたんですか?

里崎 安いですよ。1万3000円でやりました。

池田 それ、もったいないなあ。安すぎますよ。今でも3万円ぐらいでいけそうですけど……。

里崎 いやいや。僕、歌手じゃないんで(笑)。

池田 いけますよ。うちの奥さんも里崎さんのこと大好きみたいで、家を出るときに里崎さんに会ってくるという話をしたら、解説がすごくおもしろいって言っていましたよ。

里崎 思ったことを何でも言っちゃうからじゃないですか。僕は高校・大学の先輩がプロ野球界にいないんで、誰かに気を使わなきゃっていうしがらみが全くないんです。だから、いつも好き勝手に言っています(笑)。

「優勝したら、全員で優勝旅行に行くぞ」と言います

©松岡健三郎

里崎 池田さんは球団社長をやってみて、おもしろくなかったですか?

池田 おもしろかったですよ。

里崎 何がいちばん大変なんですか?

池田 やっぱり、親会社とオーナーがいるってことかな。そこが普通の会社とは違う、球団の特殊なところ。親会社やオーナーが球団をどう評価するのか、定まった基準がないのが難しい。ビジネスがうまくいっているかどうかを見る人もいるし、チームの戦い方だったり勝ち負けを重く見たりする人もいる。そことのすり合わせがすごく大変ですね。

里崎 上の人たちが球団に何を求めているか……。

池田 それが変わっていく。私が球団社長になったばかりのころは、チームの人気もなかったし、親会社は何も言ってこなくて自由にやらせてもらえたんです。それでガンガンと売上を伸ばしていって、人気も出てきだした。すると、また事情が変わってきて、親会社との間でいろいろなルールができてきたり、関与する人が増えてきたりします。ドンドンとがんじがらめになっていきました。ずっと自由にやらせてもらえるんだったら、おもしろいと思うんですけどね。

里崎 でも、池田さんの時代にベイスターズの経営はかなり良くなったんですよね。

池田 最初は売上が約51億円で、赤字が約24億円。その赤字を親会社がずっと補てんするのは、あまりにも重いということで、どうにかして黒字にしてくれとは言われていたんです。それで黒字にしたら、今度はもっと稼いでくれ、親会社でもスポーツ事業に注力だ!という方針に変わっていって、それはちょっと話が違うんじゃないかと……。黒字が出た分は、チームを強くするために選手に投資したりだとか、スタジアムに投資したりするべきであって、お金儲けを主軸に求められるようになってしまうときついですよね。

里崎 広告宣伝というようにはとってくれないんですか?

池田 ベイスターズの場合、その役目はもう終えていたんです。球界に参入したころはDeNAの認知度も全くと言っていいほどなくて、ベテラン解説者の方たちにDeNAと言ってもらうだけでも一苦労でした。いつまで経っても、“横浜”とか、“ベイスターズ”としか言ってくれなかった。それが今は、みんな当たり前にDeNAと言うようになりましたし、野球の力で全国へ認知が広まりました。じゃあ、次はどうするんだという話なんです。ロッテも企業ブランドを知らない人はもはやいないわけで、マリーンズという球団を保有している意味をどこに見出すかというのは難しいですよね。里崎さんは、現役のときにロッテが球団を保有している意味とか考えましたか?

里崎 そこまで考えたことはないですね。もちろん、ロッテのブランドイメージを上げたいなという思いはありましたけど……。でも、僕が球団社長になりたい理由というのは、親会社うんぬんではなくて、球団をがんばっている人たちが幸せになれる組織にしようよっていうのが一番なんです。前にも言いましたけど、特に選手以外の人たちががんばっていようが、がんばっていなかろうが、一律に評価されているところが僕は気に入らない。裏方さんたちは素晴らしい人がたくさんいます。でも、素晴らしくない人もいっぱいいる。素晴らしい人は選手と同じように給料を上げて、がんばっている人が幸せになれる組織にしたいんです。僕が球団社長になったら、真っ先に言うフレーズはもう決めてあるんですよ。

池田 すごい! イメージトレーニングができている(笑)。

里崎 いつ話が来てもいいように、イメージはめっちゃできています(笑)。一番に言うのは、まず現場じゃないです。勝ち負けはありますけど、グラウンドは放っておいてもがんばりますから。球団の背広を着た、営業とか総務とか経理とか、そういう人たちがどれだけがんばれるかも、僕は勝負だと思っている。チームと球団の中の人たちがもっと密接にやっていくためにも、僕は「優勝したら、全員で優勝旅行に行くぞ」と言います。チケットを売るのも、スポンサーを取ってくるのも、総務も、経理も、みんなががんばって勝ち得た優勝なんだから、選手やコーチだけが優勝旅行に行くっていうのは納得がいかないんです。

池田 それ、いいアイデアですね。

里崎 そうすれば、みんなもがんばりますよね。会社として全員が一緒に行くのが無理なら、2班に分かれて行けば良い。その代わりに球団職員の人たちも、選手と同じように家族も連れて行ける。奥さんと子ども、家族全員でハワイに行くぞ、とこれを第一声で言うって決めているんですよ。

実現できなかった“日本一エコな球場”案

©松岡健三郎

池田 職員全員で優勝旅行に行くというアイデアはすごく良いですね。球団で仕事をしていると、チームとそれ以外の職員の垣根を感じることが確かに多かった。ベイスターズでは、春季キャンプの初日に集合写真を撮るんですけど、監督、コーチ、選手、それに球団の偉い人たちだけで並ぶんです。裏方のスタッフやキャンプ地まで来ている球団職員は入っちゃいけないことになっていた。それってすごくおかしいなと感じたので、「全員で撮ろう」と私が提案したら、みんながすごく喜んでいましたね。

里崎 選手の立場から言うと、誰が球団の人なのかがわからないこともありました。チームに接する機会のある部署の人はまだしも、総務とか経理の人とかは全くわからない。それもさみしい話なので、一緒に優勝旅行に行って、選手と経理の人が同じ円卓に座れば良いと思うんです。そうすればコミュニケーションが深まって、今後は職員から選手に何かお願い事をするときにも頼みやすくなったりする。それに、球団に関わるすべての人が、チームの勝利に対して心の底から喜べるようになると思う。負けたら本気で悔しがる。そういうことが、まずは大事なんじゃないかなって思いますね。みんな、チャーター機で行けばいいじゃないですか。1億円ぐらいは、日本一になったら予算出ますから。

池田 球団社長になったらやりたいこと、他にも考えているんじゃないですか?

里崎 はい(笑)。これは絶対にロッテ本社も喜ぶだろう、っていうアイデアがあります。毎年、夏休み期間中に本拠地6連戦が必ずあるんですよ。それに“ロッテ・デー”みたいな名前をつけて、その1週間はロッテの商品をイメージしたユニフォームにするんです。チョコレート色でも良いし、帽子のつばをウエハースみたいなデザインにしても良い。球場に来た子どもたちにはロッテのお菓子を配るとか、新商品の発表会を球場でやるのも良いですよね。ビジョンでドーンと映像を流して、イメージキャラクターの人に始球式をやってもらう。

池田 それ、おもしろい。ロッテならではの感じがありますね。

里崎 その期間中に着用したユニフォームはオークションに出して、収益をチャリティーに回す。そういうロッテ・デーみたいなものがやりたいんですよね。

池田 すごくいいアイデアだけど、この記事を見た人にマネされちゃうかもしれませんよ?

里崎 マネされたら、「考えたのは俺だから!」って言い張ります(笑)。

池田 でも、いろいろとアイデアは出せますよね。球場名は「QVCマリンフィールド」から、今は「ZOZOマリンスタジアム」になっていますけど、例えば「ロッテ“お口の恋人”スタジアム」というネーミングもありだと思う。キャッチーだし、日本人は照れてなかなかしてくれないですが、あえてキスカム(ビジョンに映し出されたカップルがキスをする)なんかをいっぱいやると、“お口の恋人”感があって楽しそう。

里崎 僕は現役のときから、球団にいろいろと提案してきたんです。東日本大震災のとき、電力消費を減らすためにデーゲームにしたりしていたじゃないですか。僕はあのときにマリンのスタンドの上についている屋根全部に太陽光パネルをつけましょうって、当時の社長に言ったんです。それに風力発電の設備もつけましょうとも言いました。周りに日差しを遮るものは何もないですし、年中強い風が吹いていますから、そういう発電設備をこの機会に整えて、マリンを“日本一エコな球場”にしたら良いんじゃないですか、と提案した。試合に必要な電力を自前で賄って、試合がないときには、そこでつくった電力を売って収益化もできます。予算がどれくらいかかるのかは、度外視したアイデアでしたけどね。

池田 いや、お金儲け以上に、ものすごいイメージアップにつながったと思いますよ。それに、ほとんどお金をかけずにできたんじゃないかな。太陽光や風力発電の事業者にスポンサーになってもらうとか、あとは補助金を活用する手もあったかもしれない。やってみれば何とかなったかもしれないけど、「やってみる」ということをなかなかしないんですよね。

里崎 あのときにやっておけばって、今でも思いますね。やっぱりタイミングってあると思うんで、「今だ!」っていう。

池田 経営する立場の人間にとって、そういう感覚はすごく大事ですよね。これをやったらどれだけ話題になるだろうっていう想像を働かせて、思い切ってやれるかどうか。

里崎 僕は、そういうくだらないアイデアは思いつくし、考えるのが好きなんです。まあ、すべては球団社長になれればの話なんですけどね。

池田 Jリーグでは、選手出身者がクラブの経営者になったり、今治FCの岡田武史さんのようにオーナーになったりというケースもありますね。日本のプロ野球界では、そういう人はまだ出てきていない。

里崎 だからこそ、それにチャレンジしたいという思いもあります。

鎖国化している野球界

©松岡健三郎

池田 どうやったらなれるんだろう……。例えばロッテだと……。

里崎 どうしたらなれるんでしょうね! 今後の人生をかけて模索して行きます。あとはタイミングの問題もあるでしょう。でも、僕は死ぬまでにできればいいなと思っているんですよ。あと40年はあるので、今は今の時間を大事にしたい。

池田 私も球団社長を辞めてからフリーの身ですけど、今はいろいろな人に会ったりできる貴重な時間ですよね。

里崎 そうなんです。僕は野球の世界でしか生きてこなかったので、野球界の中の人しか知らない。でも、引退してからいろいろなところに仕事で行かせてもらって、いろいろな人に会っています。そうやって新しい知識や考え方を得ることができる。よその球場に行って、「あ! そういうやり方もあるんだな」という発見があります。今日だって、引退したからこそ池田さんとお話しする機会を持てたわけです。世界を広げていく大事な時間だと考えています。

池田 私はJリーグやラグビー協会の特任理事だったり、明治大学のスポーツ全般を見ていたりとか、いろいろとやらせてもらっていますけど、やればやるほど野球界からは声がかからなくなる。何というか……おもしろい業界だなと思います。

里崎 野球界って、鎖国化しているんですよ(笑)。

池田 知見のある人や、元選手で外の世界で活躍している人、組んだらおもしろそうな人とかをドンドン取り込んでいくのが良いと思いますけど……“野球村”にいる人だけで完結しているような印象があります。里崎さんは、今後しばらくはどういう活動をされるんですか?

里崎 今は、自称“何でも屋”です。何でもやっていって、自分の可能性を知りたい。ロッテのスペシャルアドバイザーという仕事もしているので、片足はそこに置きつつ、どんなステージにも行けるような態勢を取っています。後は、子どもが小さいので、プライベートも大事にしたいなと思っています。

池田 お子さんはおいくつですか?

里崎 3歳の双子がいるんです。子どもの相手をしているのもすごく楽しい。野球界に戻るとそういう日常もなくなってしまうので、今しかできない経験を大事にしたいですね。子育ても含めて、本当に野球以外のことが楽しくて仕方がない。スポンジみたいにいろいろなことを吸収しています。

池田 ロッテのために恩返しをしたいという思いもあるんですよね?

里崎 そうですね。クライマックスシリーズの恩恵を最大限に受けたとはいえ、2回も日本一になれた。本当に奇跡的な経験を味わわせてくれた球団ですから恩義は感じています。僕はスタンドがガラガラだった時代から知っていますけど、そのころに比べればずいぶんとお客さんが入ってくれるようになりました。でも、まだまだ完璧ではないし、常勝軍団と言われるようなチーム作りもできていない。やっぱり、本社からすればお荷物的に思われているところもあるはずなんです。だからこそ、マリーンズをロッテの象徴と言われるぐらいのチームにしたいなという思いがあります。そういう意味では、本社ともっと交流し合えるような仕組みができないかなと考えています。

池田 例えば、どんな形ですか?

里崎 選手の道をあきらめなければならなくなった人を、本社や工場で雇うような関係づくりとかですかね。もちろん、最終的には本人のやる気次第ですけど、そういう道筋が用意されているほうが絶対に良いと思います。

池田 本当にいろいろなアイデアを持っていますよね。本気で球団社長をやったらどうするというイメージが明確なんだなということが伝わってきました。

里崎 やっぱり、想像できない人生のほうが楽しいじゃないですか。人がやらないことをやってみたい。どうなるかはわからないですけど……。

池田 いつか里崎球団社長が誕生して、そのアイデアが実現するのを楽しみにしています。

里崎 きっと実現させますよ、死ぬまでには(笑)。

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日比野恭三

1981年、宮崎県生まれ。PR代理店勤務などを経て、2010年から6年間『Sports Graphic Number』編集部に所属。現在はフリーランスのライター・編集者として、野球やボクシングを中心とした各種競技、またスポーツビジネスを取材対象に活動中。