出場選手登録で日給が発生する野球選手

お盆も過ぎ、つかの間の夏休みが終わった人も多いことだろう。8月も下旬に差し掛かり、プロ野球もいよいよ終盤戦に差し掛かかってきた。セ・リーグは広島が首位を独走し、早くも優勝へのマジックナンバーが点灯している。楽天とソフトバンクがデッドヒートを演じてきたパ・リーグは、ここにきてソフトバンクが首位に立った。3位の西武が猛烈な追い上げを見せており、優勝争いに割って入る勢いを見せている。

リーグ優勝、そして、クライマックスシリーズ進出圏内を巡る戦いが佳境を迎える中で、その争いから脱落したチームは、来季以降を見据えて、若手の起用など育成へと舵を切り始めたところもある。チームの将来を支えていく若い選手や、これまでなかなか出番の無かった選手たちが1軍に昇格し、出場機会を得ていく。これはこれで、ポストシーズンへの希望が薄くなり、寂しい思いをしているファンにとっては、終盤戦の楽しみの1つである。

若い選手たちにとって、1軍での戦いは、なにものにも換え難い経験になる。そこで自信をつける、あるいは1軍の舞台で戦うために自らに足りない課題を見つける。その1つひとつのプレー、そして1日1日が、成長への糧となるのである。

ただ、若い選手や、2軍での戦いが主だった選手たちにとって、1軍での日々は、これだけにとどまらないメリットもあるのである。下世話な話ではあるが、それは「お金」の部分である。

実はプロ野球の世界では、年俸の低い選手たちは、1軍に出場選手登録をされるだけで、1日いくらかの収入になっていることは、あまり知られていないのではないだろうか。

日本プロフェッショナル野球協約では、以下のように定められている。

第89条(参稼報酬の最低保障) 
支配下選手の参稼報酬の最低額は、年額420万円とする。

第89条の2(出場選手追加の参稼報酬)
1 球団は参稼報酬年額1430万円未満の選手がセントラル野球連盟及びパシフィック野球連盟の年度連盟選手権試合に出場選手として登録された場合は、登録日数1日につき、1430万円とその選手の参稼報酬年額との差額の150分の1に相当する金額を追加参稼報酬として支払う。
 
2 追加参稼報酬はその選手の契約した参稼報酬年額と出場選手追加参稼報酬の合計額が1430万円を超える場合は、その超過額は支払われない。

3 支払に際しては、追加参稼報酬には消費税及び地方消費税を加算した金額をもって行う。

4 登録及び登録抹消の効力は公示の日から発生する。

プロ野球とJリーグのシステムの違い

これはどういうことか。参稼報酬とは、世に言われる「年俸」のこと。プロ野球の世界では、言うなれば、1軍選手の最低保障年俸が1430万円と定められている。その年の年俸が1430万円に満たなくても、150日以上、シーズンのほとんどで出場選手登録されていた選手は、この協約により、少なくとも、年俸が1430万円まで上がることになるのだ。

さらに、年俸1430万円に満たない選手は、1軍に1日でも出場選手登録された選手は、最低保障の1430万円と、その選手の年俸の差額を150で割った金額が、出場選手登録日数1日につき、支払われることとなっているのだ。

例えば、年俸420万円の選手が、1軍に昇格したとしよう。最低保障年俸となる1430万円との差額は1010万円。これを150日で割ると、約6万7千円となる。仮に、1日で登録を抹消されたとしても、その選手には年俸プラス約6万7千円が支払われる。これが、10日間出場選手登録となれば、約67万円、100日間となれば、約670万円が年俸に上乗せされる。

年俸800万円の選手だと、1日につき、4.2万円で、100日間、出場選手登録されたなら、420万円となる。これは試合に出ようが、出なかろうが、ましてや、試合に勝とうが、負けようが、それは関係ない。1軍に出場選手登録されるだけで支給される。これは、年俸の低い選手にとっては、大きなモノで、1軍に昇格する、さらには何としても1軍にしがみ付いてやろうというモチベーションに繋がる1つの要因となるだろう。

サッカーのJリーグでは、こういったシステムはない。Jリーグの選手の契約はA契約、B契約、C契約と3つの契約形態があり、A契約となるには、いくつかの条件が定められている。基本的に新人選手が結ぶC契約や、その上のB契約には460万円という上限が定められているものの、下限は定められていない。A契約にのみ下限が定められているが、それも460万円だ。これは各クラブの経営健全化や、新人選手の年俸高騰など様々なリスクを考慮されてのものである。

Jリーグの場合は、この基本給に、試合に出場した際の「出場給」や試合に勝利した際の「勝利給」、試合に出場し、勝利した際の「出場勝利給」といったプレミアムがプラスされるが、このシステムや金額は各クラブによって、まちまちとなっている。基本的には、ベンチに座っているだけではダメで、試合に出てナンボのものである。

逆に、プロ野球には1試合ごとにプレミアムが発生することはない(その日活躍した選手に監督から贈られる「監督賞」と、選手個々の契約での出来高はあるが…)。プロ野球とJリーグでは、各球団、クラブの予算規模に大きな違いがあり、それぞれの事情もあるだけに、一概に、どちらがいいかというものではない。ただ、プロ野球の世界では、若手が1軍昇格、1軍定着を目指す上で、その目の前には、知られざる“ニンジン”がぶら下がっている。

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VictorySportsNews編集部