文=高崎計三

ネリ陣営は意図的な薬物摂取を否定

8月15日に行われたボクシング・WBC世界バンタム級タイトルマッチで王者・山中慎介を4ラウンドTKOで下して新王者となったルイス・ネリに、ドーピング検査で陽性反応が出たとWBCが発表した。禁止薬物として規定されているジルパテロールの反応が出たという。ジルパテロールは海外の畜産業において牛に投与され、脂肪蓄積を抑制し筋肉を増大させることから飼育成績の改善に使われる薬物だ。ちなみに日本国内ではジルパテロールを使った薬剤は承認されていない。

ネリ陣営は薬物反応が故意の摂取によるものではなく、牛肉から体内に入ったものである可能性を示唆している。今後、別の検体による再調査でも陽性反応が出た場合は聴聞会でネリの主張を判断し、最終的な処遇が決定されることになる。

最終的にネリの薬物使用が“クロ”と認定された場合、山中とのタイトルマッチの裁定は無効試合に変更となり、ベルトは山中の腰に戻る可能性が高い。ネリ戦は日本人世界王者として最多となる連続防衛記録「13」に並ぶか否かで注目を集めていたが、無効試合は防衛回数には含まれないため、そうなった場合山中は次戦で改めて記録に挑むという形になる。

ドーピング検査の徹底を宣言したWBC

©共同通信

日本人が絡んだ世界戦でのドーピングと言えば、一昨年5月に行われたWBO世界ライト級王座決定戦で粟生隆寛と対戦したレイムンド・ベルトランの一件が記憶に新しい。試合後、勝者のベルトランに筋肉増強剤の陽性反応が出て、3カ月後の聴聞会を経て試合結果は無効試合に変更。ベルトランにはその他、25500ドル(ファイトマネーの30%)の罰金と9カ月間の出場停止処分が下された。

ただし、この一戦ではそもそもベルトランが体重超過しており、粟生が勝った場合のみ王座獲得という条件下でベルトランの勝利に終わっていたため、ドーピング違反が発覚しても王座に影響はなかった。新王者、または防衛した王者のドーピングが発覚した場合は当然、王座は剥奪となる。

折しもWBCではドーピング検査の徹底を宣言していたばかりでもある。世界ランカーには検査結果の提出を求め、検査に応じなかった選手をランキングから除外している。東日本ボクシング協会が昨年10月に開いた理事会後の会見ではこの件に触れ、検査に関してはジム、選手個別の対応となること、協会として注意喚起を促し、検査方法や経費などの面で調査、検討する意向を示していた。

ボクシングは生身の人間が1対1で直接相手の肉体を破壊し合う競技だ。同じ階級の中でもリーチや体型など各選手の特徴や能力は様々に異なるからこそ、有利不利が複雑に絡み合い、勝負の機微が生まれる。それはすべて、「生身の力をぶつけ合う」という前提あってこそである。そこに薬物の力を持ち込むのは卑劣の一語しかない。

もし結果が変更され、記録の上では「敗者」から「勝者」に変わったとしても、その試合で受けたダメージや、当日の敗北で感じさせられた絶望感、その他すべてがきれいになくなってしまうわけではない。また卑劣な手を使って(その時は)勝利した側も、すべてが白日の下に晒されたら、ベルトを返せばいい、処分を受ければいい、というものでもない。それこそファイターとしての、人間としての根底の部分が問われなければならない問題だ。

ただし今回の試合に関しては、ネリに関してまだ最終結果が出たわけではない。続報を待ちたい。

ボクシングはスポーツだ 山中慎介敗戦、セコンドの判断が正当である理由

世界王座連続防衛の日本記録に並ぶはずの一戦で、山中慎介はキャリア初の黒星を喫した。本人がダウンしたわけではなく、セコンドの判断で試合が終わったことで大きな物議を醸している。格闘技ライターの高崎計三は、その判断は正当だったと主張する。その理由とは――。

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高崎計三

著者プロフィール 高崎計三

編集・ライター。1970年福岡県出身。1993年にベースボール・マガジン社入社、『船木誠勝のハイブリッド肉体改造法』などの書籍や「プロレスカード」などを編集・制作。2000年に退社し、まんだらけを経て2002年に(有)ソリタリオを設立。プロレス・格闘技を中心に、編集&ライターとして様々な分野で活動。2015年、初の著書『蹴りたがる女子』、2016年には『プロレス そのとき、時代が動いた』(ともに実業之日本社)を刊行。