3位という結果は称賛されるべきものだが…

 大会中に自身の持つ高校通算本塁打記録を111まで伸ばした清宮幸太郎(早稲田実)、その清宮と実力的には「双璧」とまで評価される安田尚憲(履正社)、甲子園で清原和博(元PL学園)の持つ1大会本塁打記録を更新した中村奨成(広陵)らを擁し、悲願の初優勝が期待されたU-18ベースボールワールドカップ。日本代表はオープニングラウンドこそ4勝1敗で乗り切ったものの、スーパーラウンドでカナダ、韓国に敗れ決勝進出を逃した。3位決定戦ではカナダにリベンジを果たしたものの、選手たちも、そして周囲も期待した「世界一」には手が届かなかった。

 選手たちはなれない木製バットに苦心しながらも、異国の地で懸命に戦った。結果は期待されたものではなかったかもしれないが、称賛されてしかるべきだろう。

 しかし、である。大会前、そして大会中には多くのメディアが日本の「世界一」を期待し、「決勝に進出して当たり前」といったような風潮が見られたのも事実だ。昨今、高校野球界で見られる「勝利至上主義」が、甲子園が終わった後の国際舞台にまで及び始めている――。そう感じたのは筆者だけだろうか。

 そもそも、甲子園後の「高校日本代表」、いわゆる「ジャパン」の遠征・大会は過去、それほど重要視されていなかった。もちろん、試合となれば選手たちは必死にプレーするだろうが、どこか「親善試合」のような雰囲気と、甲子園や高校野球の舞台で活躍した選手たちへの「ご褒美」のような感覚さえあった。

 それが近年、WBCの開催や侍ジャパンの常設化により、世代を問わず「国際舞台」がより真剣勝負の場へと変化してきたのだ。

 ここで、一つの疑問が生まれる。果たして今大会は、トッププロが集結するWBCのような「絶対に負けられない」ものだったのだろうか――。

 断言してもいいが、それは間違いだ。

今大会の問題でもっとも象徴的だったのは…

 出場する選手はみな高校生。彼ら、そして日本の野球界の将来を考えたとき、この大会の立ち位置はあくまでも「選手に国際舞台を経験させる」、「これまでに経験のない海外の選手とのプレーから何かを感じ取ってもらう」ことであるべきだ。

 そもそも、大会自体の開幕が9月1日。甲子園決勝戦のわずか9日後である。高校生活の全てをかけて挑んだ甲子園で限界まで消耗した選手が、それから2週間も経たないうちに今度は日の丸を背負って戦う。清宮、安田といった甲子園出場を逃した選手にしても、地方大会を戦い、一息ついたと思ったらその1カ月後に召集される。甲子園出場組にとってはあまりにも過酷で、未出場組にとっては逆に中途半端なスケジュール。この状況でベストなコンディションを保てという方が無理な話だ。

 そして今大会、そんな違和感をもっとも象徴したのが、秀岳館の左腕・田浦文丸の起用法だ。今大会の田浦は主にリリーフで起用され、その好投が評価されて決勝進出のかかったスーパーラウンド・韓国戦では先発マウンドにも立った。大会を通じて、田浦の全投球成績は以下の通りだ。

9/3 アメリカ戦 2回1/3無失点 球数42
9/4 キューバ戦 2回2/3無失点 球数44
9/5 オランダ戦 4回無失点 球数67
9/7 オーストラリア戦 1回無失点 球数21
9/9 カナダ戦 2回1/3無失点 球数35
9/10 韓国戦 1回1/3 失点5 球数47

 9試合中、6試合に登板し、計13回2/3。失点は先発した韓国戦のみで、大会通じて29もの三振を奪った。まさに獅子奮迅の活躍だ。

 この結果をどう見るか。もちろん、田浦自身は「行け」と言われた場面で登板し、しっかりと結果を残した。それでも、初登板の9月3日から10日まで、8日間で6度の登板機会はあまりにも多すぎる。リリーフ起用とはいえ、そのほとんどが2イニング以上。大会中、無失点を続けた田浦は確かにチームの投手陣の中では随一の信頼感を得ていた。それでも、高校3年生の、将来ある投手への起用法としては、「アウト」の領域といっていい。

 例えば、WBCでは投手に対して球数制限、連投制限のルールが設けられている。
・50球以上投げたら中4日空ける
・30球以上投げたら中1日空ける
・球数に限らず、連投したら中1日空ける

 このルールは、メジャーリーグの各球団の要望もあり、投手の故障を防ぐために設けられたものだが、今大会の田浦に当てはめるとどうだろう。球数も、連投も、全て制限に引っかかる。

 今大会の規定には、確かにWBCのような厳格な投球制限ルールはなかった。それでも、コーチや監督が、田浦の酷使を「止める」チャンスはなかったのだろうか。

 U-18日本代表は、決して投手が不足している地方の公立高校などではない。全国から選りすぐりの好投手を、実に8名も招集している。連戦が続けば、当然リリーフにしわ寄せが来るのは分かる。であればせめて、投手起用はもちろん、メンバー選考の時点でもう少し吟味する必要があったのではないか。

 現時点では、田浦の体に不調が生じたというニュースは入っていない。しかし、「結果、何もなかったからよかった」で終わらせてはいけない。

「勝利にこだわる」のか「選手を育成する」のか。U-18ワールドカップの次回開催は順当にいけば2年後。開催地などはまだ決定していない。

 もしも、この舞台をWBCのような「真剣勝負の大会」と位置付けるのであれば、日本球界は大会日程、さらにはレギュレーションについて、主催の世界ソフトボール連盟(WBSC)に一刻も早く要望、提案を出すべきだ。

 その上で、侍ジャパン、高野連がより密に意見を交換し合い、選手の将来を考えたシステムを構築する必要があるだろう。

 何かが起こってから、では遅い。

<了>

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花田雪

1983年生まれ。神奈川県出身。編集プロダクション勤務を経て、2015年に独立。ライター、編集者として年間50人以上のアスリート・著名人にインタビューを行うなど、野球を中心に大相撲、サッカー、バスケットボール、ラグビーなど、さまざまなジャンルのスポーツ媒体で編集・執筆を手がける。