文=高崎計三

“まさか”の決着からダイレクトリマッチへ

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連日の報道で決戦ムードが高まる衆議院選手だが、10月22日の投開票日はボクシングファンにとっての「決着戦」の日でもある。今年5月20日、初の世界タイトル挑戦で判定負けを喫した村田諒太と、その試合に勝利して正王者となったアッサン・エンダム(パナマ)がWBA世界ミドル級タイトルマッチの再戦を行うのだ。

5月の試合では村田が4回にカウンターの右でダウンを奪取。その後も攻勢を握り、王座獲得成ったかと誰もが思ったが、ジャッジの判定は1-2(110-117、111-116、112-115)でエンダムに。村田本人はその場で崩れ落ち、会場に詰めかけた観客、TVの前の視聴者が口を揃えて驚きと不満の声を上げるという“まさか”の決着となった。

その後、WBAのヒルベルト・ヘスス・メンドサ会長がツイッター上で村田を勝ちとする自身の採点結果を発表。村田と陣営、そしてファンに謝罪の言葉を述べ、すぐに再戦を行う意志を表明した。

試合から3日後の25日には会見を開き、正式に再戦を指示。さらに当日のジャッジ3名のうち、エンダムを支持した2名(パナマ人とカナダ人)に6カ月の資格停止処分を下したことを発表した(ちなみに唯一、村田を支持したもう一人のジャッジはアメリカ人)。また後日、日本ボクシングコミッション(JBC)はWBAに対しこの判定に文書で抗議し、再検証を求めた。

その後、WBAが試合開催権について入札を指示したことなど紆余曲折もあったが、結局は村田とエンダムのダイレクトリマッチが決定。5カ月を経て両者が再び対峙するに至った。

さて、「疑惑の判定」と呼ばれた中身はどうだったのか。前述の通り村田は4回にダウンを奪い、7回にもニアダウンの場面を作っている(エンダムがロープにもたれて倒れず、ダウンとは認定されず)。有効打でも明らかに村田が上回っていたが、唯一劣った点があるとすれば手数。特に序盤、村田の手数は明らかに少なく、足を使いジャブを繰り出すエンダムにその点では後れを取った。

ジャッジの点数から逆算して判断するならば、この手数を評価してエンダムにつけたということなのだろうが、それもあくまで「ジャッジを尊重するなら」という話。改めて試合の映像を振り返ると、差をつけるのが難しいラウンドもあり、できるだけ差をつけることが推奨される(絶対ではない)採点法では「これをエンダムにつけたのだろうな」と推測される部分もありはするものの、それでも全体では村田の勝ちで問題ないように思える。一部には、最近のWBAの採点の傾向からこの判定を「正しいとは言わないまでもありうる範囲」とする意見も聞かれた。陣営がそれを見越した対策を立て、遂行すべきだったという意見だ。しかしこれも結果論の範疇である。

別競技と言えるほど違うボクシングのアマとプロ

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それでも、この試合で村田が世界レベルでも十分戦えることを示したのは大きな収穫ではあった。そもそも2008年のロンドン五輪で、ボクシングでは44年ぶり2度目の金メダルをもたらした村田は、直後からプロ入りを期待されていたが、当時本人にその意思はなかった。そこにはいくつかの理由があったが、アマチュアボクシングとプロボクシングの違いを考えれば無理もない判断と言えた。

それほど、アマチュアとプロのボクシングは異なる。1ラウンド3分は共通だが、アマは3ラウンド。プロでは新人が4ラウンドから始まり、世界戦では12ラウンドを戦う。アマはその短い時間の中でナックル(拳の平たい部分)を正確に当てた有効打の回数がポイントとして加算され、そのポイントを競うのが中心だ。ダウンを奪っても「有効打1回分」にしかならない。

対してプロボクシングの判定基準は、①クリーンエフェクティブヒット(有効打)②アグレッシブネス(積極性)③ディフェンス④リング・ジェネラルシップ(主導権)の順番で優劣をつけ、各ラウンドで最高点10点から引いていく減点法だ。1回ダウンを奪えば原則的に10ー8となる。この他にも違いはあるが、そのために「同じボクシングでもプロとアマは別競技」と言われるほど。だからアマで優秀な成績を挙げた選手がそのままプロでも活躍できるというわけではない。

現に、オリンピックの金メダリストからプロで世界王者になった選手はモハメド・アリをはじめとして、それほど多いわけではない。村田からさかのぼること44年、1964年の東京オリンピックで日本人初の金メダルを獲った桜井孝雄はプロ入りして世界王座にも挑戦しているが、戴冠は果たせないままリングを去っている。

村田は当初、プロ入りを期待する周囲の声に「アマがプロより劣っているわけではない」という反発を抱いていたという。アマチュアはプロの登竜門ではないということだ。それも上記のような違いを考えれば十分に理解できることで、「アマは卒業して当然プロでしょ」というような声が相次いだであろう状況を考えれば、村田の反発も当然だ。

しかしその後、紆余曲折あったものの最終的にはプロの道を選び、アメリカでの練習を経て2013年にプロデビューを果たした。すると今度は、「プロで通用するのか」という声が飛び始める。逆にプロとアマの違いを理解している者にしてみれば、これはこれで当然の懸念だ。大きな期待を背負ってプロのリングに足を踏み入れた村田はその声にも反発するかのように、勝利を重ねていった。

日本人初の「金メダリスト世界王者」誕生なるか

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そうして3年4カ月間に12個の白星を積み上げた末に臨んだのがエンダムとのタイトルマッチだったわけだが、今度は「世界レベルの選手との対戦がほとんどなく、本当の実力が判断できない」と言われた。そのためにエンダム戦の予想も割れたが、WBAの暫定王者で1位のエンダムを相手にしての試合内容を見れば、もうそこに疑問の余地はない。

ただ一つ懸念されたのは、ダウンを奪った後も村田がペースを上げず、倒しに行かなかった点だ。これが結果的に(不当であったとしても)敗戦につながったわけで、ここにプロとしての難点を指摘されることとなった。ここまでの12勝ではKO・TKOが9、判定が3と高いKO率を誇ってきているが、倒せていれば判定問題も起きることはなかった。今回の再戦については、相手の戦力もスタイルも分かった上でこの点を改善できるか、技術というよりは意識の変化が最大の焦点となってくるだろう。

今回、村田が勝利する可能性は高いと見る。勝てば日本人初の「金メダリスト世界王者」の誕生となる。また日本人世界王者としては、95年に戴冠した竹原慎二と並ぶ最重量王者にもなる。村田の勝利は、歴史を塗り替えるものとなる。

最後に今回の経緯に関して、WBAの措置には疑問を投げかけておきたい。前述の通り試合直後にメンドサWBA会長が自身の採点を披露し勝敗とジャッジの判定に異議を表明したこと、同時に村田サイドとファンに謝罪したこと、それからすぐに(敗戦側の抗議も待たずに)ジャッジ2名を処分したことについてだ。観客の不満をできるだけ早く解消したいという意思の表れであることは十分に理解できるが、WBAがタイトル認定機関であることを考えると、そのトップがこのような行動に出ることはあまりにも恣意的と言わざるを得ない。

同じ結果になるにせよ、一定の審議を経た上で行われるのでなければ、また別の試合で同じことが起きないとも限らないではないか。それが今回の再戦で起きないと、誰が言い切れるだろうか(一方のWBCも8月の山中慎介の防衛戦で、試合後に薬物反応が出た勝者ルイス・ネリの処遇も曖昧にされているままだが……)。王座乱造など運営面でいろいろと指摘されている面もあり、競技管理団体としてはちょっと心もとない部分があるのは事実だ。少なくとも22日のエンダムVS村田戦が前回のようなことなくスッキリと終わることを祈りたい。その上で、村田がベルトを巻く姿が見たいところだ。

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村田諒太の“判定問題”の背景。足並み揃わぬボクシング4団体の弊害か

5月20日のWBAミドル級王座決定戦における村田諒太の“疑惑の判定”を巡る議論は未だ収束せずにいる。議論の中で、ジャッジのミスや不正ではなく、団体間の採点ルールの違いを指摘する意見を目にした人もいるのではないか。問題の背景には、世界のボクシング界に4団体が“乱立”することの弊害も垣間見える。

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高崎計三

著者プロフィール 高崎計三

編集・ライター。1970年福岡県出身。1993年にベースボール・マガジン社入社、『船木誠勝のハイブリッド肉体改造法』などの書籍や「プロレスカード」などを編集・制作。2000年に退社し、まんだらけを経て2002年に(有)ソリタリオを設立。プロレス・格闘技を中心に、編集&ライターとして様々な分野で活動。2015年、初の著書『蹴りたがる女子』、2016年には『プロレス そのとき、時代が動いた』(ともに実業之日本社)を刊行。