引退即監督1年目は過去7名中5名がBクラス

 チーム立て直しへの最後の切り札。
 
 それが近年の「引退即監督就任」の正直な印象だ。今オフもロッテの井口資仁が兼任監督を除くと史上8人目の引退して即監督に就任した。2年前には、巨人でも高橋由伸が同じケースで40歳の若さで監督になっている(正確に言うと由伸の場合は監督就任要請後に引退発表したわけだか)。
 
 今回、VICTORY編集部から届いた原稿テーマは「プロ野球は、いつまで引退選手を即監督に起用するのか?」。要は「引退即監督どうよ?」である。17年ロッテは54勝87敗2分でパ・リーグ最下位に終わり、15年巨人の場合は選手の高齢化に加え賭博事件発覚直後でチームは揺れていた。誤解を恐れず書くと、それぞれ崖っぷちの球団の危機的状況だ。そこで、切られたカードが“引退即監督”だった。
 
 過去には引退直後に西武監督に就任した伊東勤が就任1年目の04年にリーグ2位からプレーオフを勝ち上がり日本一。16年の巨人高橋監督は首位広島に17.5ゲーム差離されながらもなんとか2位をキープしたが、それ以外の5名の引退即監督ケースは就任1年目はいずれもBクラスに終わっている。

「俺らのボス感」のプラス面とマイナス面

 結果を見ると厳しいと言わざるを得ない「引退即監督」のリアル。それなのになぜ球団はこの流れでチームを託すのだろうか? 
 
 まず「若い力で雰囲気を変えたい」というのは当然あるだろう。青年監督はメディアで話題になるし、見れくれやイメージもいい。前年苦戦した暗い雰囲気も一新できる。当然、ファンもついこの間まで選手時代を応援していたので感情移入がしやすい。例えば由伸監督の24番、井口監督の6番と彼らは現役時代と同じ背番号で指揮を執る。これは今持っているレプリカユニフォームを球場でそのまま着て応援できるし、もちろん首脳陣の定番の70番台や80番台よりもグッズが作りやすく、売れやすいという現場の事情も関係しているはずだ。
 
 現役引退即監督のプラス面と言えば、選手にとってもファンにとっても圧倒的な「俺らのボス」感である。若いファンからしたら、どんな大物OBよりも実際に応援していた選手が監督になった方が期待値も大きく、サポートしようという気になれる。
 
 例えば、この文章を書いている自分も長嶋茂雄の背番号3の偉大さは理解しているつもりだが、ミスターの現役時代はまだ生まれていなかったので、やはりリアルタイムで見ていた高橋由伸の方があらゆる感情をワリカンできる気がする(世代がより近いからというのも大きい)。
 
 同時にその距離の近さは時にマイナスにもなるはずだ。例えば、会社でついこの間まで同じ立場で働いていた人間が出世して、ボスになったり部下になったりする。多くの社会人が経験したことがある、微妙な距離感に戸惑うあの感じ。引退即監督にとって、自軍の選手は部下であると同時に去年まではチームメイトでもある。そういう関係性で、シビアに選手の力量を見ることができるのだろうか? 
 
 例えば衰えたベテランが、昔可愛がっていた後輩だったりする。結婚式に出てるから奥さんのことも知っている。そうなると当然「こいつはもう使えない」とは判断しづらいのではないか? プロ野球でも一般企業でも、リストラするならヘッドハンティングで外部から連れてこられた上司の方がしがらみなく、やりやすいはずだ。

 つまり、現役引退即監督を要請する時点で、チームは低迷期で世代交代を必要としているケースが多いにも関わらず、苦楽を共にしたベテランを優先的に起用するなんて事態になりかねない(監督に物申せるコーチがいたり、GM制が機能しているチームならまた別だろうが)。実際に巨人の由伸監督の采配を見ていると、一部のベテラン選手にこだわりすぎでは?…と感じたのは事実だ。来季のロッテ井口監督がどのような選手起用を見せるのか注目したい。

現代の理想のキャリアは西武・渡辺久信シニアディレクター

 ならば、どのような形の監督就任が理想的なのだろうか? 
 
 個人的には渡辺久信の名前を挙げたい。現役時代は新人類と呼ばれた西武黄金期のエースである。99年には台湾球界に渡り選手兼任コーチで3年間プレーしたのち帰国。04年から西武2軍コーチとして古巣復帰すると、2軍監督を経て08年に42歳の若さ(偶然にも今の井口と同い年)で1軍監督に就任。渡辺は自著『寛容力』(講談社)の中で、就任要請を受けた時の心境をこう書いている。

「僕は幸いにして、二軍コーチや二軍監督として長い間、ライオンズを見続けてきていました。だからこそ、常にレギュラーだった数人をのぞいて、二軍にいたことのある若手の選手やプレーは、ほとんどつかめていました。つまり、僕に「やめたほうがいいよ」と進言をしてくる周囲の人たちよりも、ずっと「本当のライオンズ」を知り尽くしていたのです」
 
 さらにファームで年上のコーチとやってきた経験から「目上の人でも言うべきことは言う」という監督としてのスタンスも身につけていた。こうして、渡辺監督は2軍時代から知ってる若い選手を次々に抜擢して新しいチームを作り、就任1年目にリーグ優勝と日本一に輝き正力松太郎賞を受賞する。6年間の監督生活で5度のAクラス入りと堂々たる成績を残し、13年限りで退任しフロント入り。現在は西武シニアディレクター兼編成部長を務めている。
 
 渡辺のキャリアを振り返ると、地道な2軍の指導者経験がいかに重要かというのがよく分かる。球団にとってスター選手は大事な財産。だからこそ、「引退即監督」ではなく、焦らずじっくり「引退即“2軍”監督」からスタートするのがベストではないだろうか。
 
(参考文献)
『寛容力』(渡辺久信/講談社)

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中溝康隆

著者プロフィール 中溝康隆

1979年埼玉県生まれ。大阪芸術大学映像学科卒。 年間約50試合球場観戦をするライター兼デザイナー。 ブログ『プロ野球死亡遊戯』が累計7000万PVを記録し話題となる。 主な著作に『プロ野球死亡遊戯 そのブログ、凶暴につき』(ユーキャン)、『プロ野球死亡遊戯 さらば昭和のプロ野球』(ユーキャン)、『隣のアイツは年俸1億 巨人2軍のリアル』(白泉社)など。