多くの人が抱いたCSへの素朴な疑問

今季のクライマックス・シリーズ(CS)は、多くのファンにとって、例年以上にその存在や方式を考えさせられる機会になったようだ。
 
まずは雨の影響。ファースト・ステージのMVPは「阪神園芸さん」の声が数多く挙がるほど、グラウンド整備に注目と感謝が集まった。泥だらけ、というより池のような水たまりの中で大事なCSが強行される光景に悲しみと疑問を感じたファンは多かっただろう。
 
セカンド・ステージまでの合間がなく、もし17日(火)の試合が雨天中止になれば、「自動的に2位チームである阪神の進出が決まる」といった規定を今回初めて知ったファンも少なくないだろう。皮肉にも、「阪神園芸さん」の努力と技術で2試合目も3試合目も最後まで実施され、阪神が敗れる結果となった。
 
セカンド・ステージも2日間、雨で流れた。もし勝負を決しられなければ、1位チームが日本シリーズに進出するところだった。何のためのCS? 勝負と日程と、どちらが大事なの? 日程を調整する方法はないのか? など、素朴な疑問が渦巻いた。
 
パ・リーグは公式戦を圧倒的強さで制覇したソフトバンクがそのまま日本シリーズに進出したが、セ・リーグは昨季以上の安定感でリーグ優勝を果たした広島が3位横浜DeNAに下克上を許す形となってますます「CSの存在や方式を考え直すべきだ」との声が高まっている。予め決められた方式とはいえ、横浜DeNAに公式戦で14.5ゲーム、勝率では1割以上もの差をつけて優勝した広島が日本シリーズに出られない現実に「釈然としない」広島ファン、野球ファンは少なくないだろう。
 
ファイナル・ステージでは優勝チームに1勝のアドバンテージが与えられるが、公式戦を終えた後、ファースト・ステージの間、待たされるハンディキャップがある。今季は10月1日に最終戦を終えた後、ファイナル・ステージ開幕まで18日まで、中16日もの間が開いた。この間の調整は、難しい。むしろ優勝チームが不利になる要因でもある。
 
もちろん、ラミレス監督率いる横浜DeNAは、現状の日本のシステムをふまえて今季を戦ってきたわけで、まるで3位からの下克上を最初から狙っていたかのような試合ぶり、チームづくりの見事さ、短期決戦の采配ぶり、勢いの生み出し方には感服するので、横浜DeNAの進出に異を唱えているわけではない。だが、普通に考えたらやっぱり「広島が可哀想」という素朴な感想も当然だ。

CSの良さも活かせる代替案はないのか?

CSの良さもある。長い公式戦、たとえ優勝には遠くなっても「3位に入れば日本シリーズのチャンスがある」という期待感は、シーズン終盤まで大半のチームのファンに応援の意欲を提供することになり、なかなかの効果があると思う。だが、公式戦の価値を問えば、やはり再考の必要はあるだろう。
 
日本のCSは、言うまでもなくメジャーリーグ(MLB)のポスト・シーズンに倣ったものだが、MLBのそれは矛盾が少なく、理に叶っている。ワイルドカードのチームを含めた全8チームがトーナメント形式でワールドシリーズを目指す。公式戦は地区優勝を決める戦い。ポスト・シーズンのトーナメントでリーグ優勝が決まり、両リーグの優勝チームがワールドシリーズを戦う。公式戦でリーグ3位だったチームが「世界一」になる可能性はない。
 
日本のプロ野球(NPB)がMLBのポスト・シーズンと同じようにできないのは、何よりチーム数が足りないからだ。リーグ優勝チームが日本シリーズに出場できない矛盾を解消する方法は、CSをやめるか、あるいはチーム数を増やすことだと思う。
 
もし仮に、セパ両リーグとも各8チームに増やし、東日本地区・西日本地区、あるいは北地区と南地区、4チームずつに分けて順位をつけたら、まずはリーグ優勝を争うプレーオフができる。そして、各リーグの優勝チーム同士で日本シリーズを戦える。さらに、セパ各12チームに増やし、4チームずつ3地区に分けたら、ワイルドカード・ゲームも含め、MLBと同じ方式が可能になる。
 
チーム数を増やす問題は、ポスト・シーズン充実のためというより、それ以前の根本的なテーマだが、日本のプロ野球もそれを本気で議論してよい時期だと思う。
 
だいたい、このような提案がNPBの会議では言うまでもなく、メディアでも一切語られない不思議な現実に私は戸惑う。たとえ夢物語でも、荒唐無稽なアイディアでも、ファンが語る、メディアが提言してもいいだろう。それさえしない、プロ野球の硬直化。ファンはもっと自由でいいはずだが、ファンさえも発言を自主規制しているか、見えない何かに束縛されている。

デメリットよりメリットが多い球団増枠

1950年(昭和25年)にセパ2リーグに分かれた時には全部で15球団あった。それが1958年(昭和33年)、12球団になって以来ずっとその数を維持している。近鉄消滅で減りそうになった危機はあるが、増える動きはない。その間にサッカーのJリーグが誕生し(1993年)、当初の10チームが18チームに増えたばかりでなく、傘下のJ3まで合わせて54ものプロ・チーム(クラブ)が全国に生まれている。
 
野球とサッカーの人気逆転の背景には、こうした全国的な動き、あらゆる意味で新しい組織が自治体、企業そして人々を巻きこんでいくエネルギーのうねりがある。野球にはその波紋がまったくない。元来、全国津々浦々までクラブを誕生させる潜在力があったのは野球の方だろう。いまも根強く、地方まで野球ファンは存在する。この力を熱に変え、実際の動きに変えるためにも、チーム数を増やし、J1、J2のように入れ替え可能な仕組みを作ることも検討してほしいと強く願う。

このような提案をすると決まって、「採算制」「レベルの低下」を懸念する声が上がる。地方の都市で球団の採算をどう取るか、観客動員をどう確保するかはもちろん難しい課題だが、サッカーに出来て野球にできない理由はない(サッカーも苦労はしているが)。新球団創設の挑戦をすることで、新しいビジネスモデルも、新たなパートナーも生まれる可能性がある。

プロのレベルに叶う選手は決して不足しない。いまも2軍で埋もれている優秀な選手は数多い。今季、巨人から日本ハムに移籍して活躍した大田泰示の例もある。巨人から戦力外通告を受けたベテラン村田修一の行き先がすぐに決まらない現実を見ても、またトライアウトで次の活躍の場を望みながら声がかからない多くの選手がいることでもわかるとおり、チームが増えたら十分に力を発揮できる選手はまだまだ存在する。

プロ野球が「12球団の所有者のもの」という時代を終わりにしなければ、プロ野球の未来は閉ざされる。リーグ再編、球団増を前提にして、本格的なポスト・シーズン改革が議論され、実行されるよう期待する。


小林信也

1956年生まれ。作家・スポーツライター。人間の物語を中心に、新しいスポーツの未来を提唱し創造し続ける。雑誌ポパイ、ナンバーのスタッフを経て独立。選手やトレーナーのサポート、イベント・プロデュース、スポーツ用具の開発等を行い、実践的にスポーツ改革に一石を投じ続ける。テレビ、ラジオのコメンテーターとしても活躍。主な著書に『野球の真髄 なぜこのゲームに魅せられるのか』『長島茂雄語録』『越後の雪だるま ヨネックス創業者・米山稔物語』『YOSHIKI 蒼い血の微笑』『カツラ-の秘密》など多数。