競技場の外で社会貢献活動を行うことも、スポーツマンシップ

アスリートが競技場の中だけではなく、社会とつながり、社会の助けとなる活動を積極的に行うのも、またスポーツマンシップ――。

「HEROs」は、そんな想いを込められて発足した。「HEROs ACADEMY」「HEROs ACTION」「HEROs AWARD」の3つのプロジェクトを通じて、教育/実践/評価の機会をつくることで、現役時代にも、引退後にも、アスリートが社会とつながり活躍できる仕組みをつくり広げていくことを“使命”に掲げている。この日開催された「HEROs AWARD 2017」では、実際に競技場の外での社会貢献活動を実践しているアスリート、チーム、団体が表彰された。

今回、最優秀賞となる「HEROs OF THE YEAR」を受賞したのは、宮本恒靖氏の活動、『マリモスト~小さな橋~』。ボスニア・ヘルツェゴビナのモスタル市に子どもを対象としたスポーツアカデミーをつくり、スポーツを通じた民族融和活動を推進している。約25年前に起きた三民族の対立による内戦で多くの人命が失われ、今もなお人々の心には拭いきれない不信と対立が残されている。宮本氏はこの地で、民族の異なる子どもたちが一緒にサッカーをすることを通じ、心を通い合わせるその懸け橋になりたいと考えてこの活動を始めたという。受賞に際し、宮本氏はこのように話した。

「たった一つのボールを2~3分蹴り合うだけで、知らない人ともハイタッチできる関係になれます。ゴールが決まればチームメートと一緒に喜び合うことができます。言葉も要りません、ボールがそのツールになってくれますから。スポーツを通じて、仲間と協力すること、相手をリスペクトすることを学ぶことができますし、こうしたことをきっかけにしてより深くお互いを知ることにもつながります。スポーツの持つ力というものはたくさんある。多くの人と手を取り合いながら、社会に対してより良いものをもたらしていければと思います」

宮本恒靖氏は、ボスニア・ヘルツェゴビナにおけるスポーツを通じた民族融和活動の推進で「HEROs AWARD OF THE YEAR」を受賞した。/(C)荒川祐史

スポーツには社会課題を解決していく力がある

また同アワードには、宮本氏の他にも次の5組がノミネートされていた。

1つ目は、阪神タイガース・鳥谷敬選手の『RED BIRD PROJECT』。フィリピンで貧困に直面している子どもたちに靴や文房具などを届け、新たな生活を促進する活動を行っている。

2つ目は、プロサーファーであるアンジェラ・磨紀・バーノン氏の『Ocean’s Love』。障がいを持つ子どもたちに、サーフィンを通して無限の可能性を感じてもらいたいというノーマリゼーション活動を推進している。

3つ目は、元プロボクサー・坂本博之氏の『SkyhighRingS~SRS~』。自身の幼少期の経験から、全国の児童養護施設を訪問し、そこで生活する子どもたちと触れ合い支援するために活動している。

4つ目は、福島ユナイテッドFCの『ふくしマルシェ』。震災による風評被害をなくすための活動として、クラブが県産品を仕入れてアウェーのスタジアムで販売・PRを行っている。

5つ目は、世界ゆるスポーツ協会の『ゆるスポーツ』。新たな『ゆるスポーツ』を開発することで、世界からスポーツ弱者をなくし、これまでスポーツとは無関係だった人たちにもスポーツの楽しさを広める活動をしている。

宮本氏の『マリモスト~小さな橋~』を含めた受賞6組に共通しているもの。それは、それぞれの活動を通じて社会課題を周知したり、参加者・支援者を拡大していくうえで、「アスリートやスポーツの力を活用している」ことだ。

宮本氏も話していたように、スポーツには一緒に汗を流すだけでも心を通い合わせることのできる力がある。またアスリートやチームには、こうした活動やそこに込められたメッセージを、より深く、より広く、より多くの人に伝える力がある。

HEROsアンバサダーを務める中田英寿氏はイベント終了後、このような話をしていた。

「社会貢献活動に関する情報は普段なかなか手に入れにくいものですが、今日のような場でそうした活動を知ることができると、自分でも『ああいうことができるかな』と考える機会になりますし、大きな影響力があると感じました。社会貢献というと難しく考えがちですが、(こうした活動の)輪をみんなで大きくしていくことも、その一つの形だと思います。そう考えたとき、スポーツというのは人をつなげる強い力があり、世の中の多くの人が社会貢献に対して踏み出しやすくなる窓口になれるんじゃないかとあらためて感じました」

中田英寿氏は、「HEROs」が多くの人にとって社会貢献に踏み出すきっかけになればと語った。/(C)荒川祐史

また、同じくHEROsアンバサダーを務めるプロボクサーの村田諒太選手もこう口にしていた。

「明日も継続的に訪れている児童養護施設に行ってきます。スポーツという枠で何かするというよりも、(子どもたちと)一緒に遊んでくるだけなんですが、喜んでもらえるならそれでもいいのかなと。(今自分が)やれることをやっていれば、そのうち賛同してくれる人も出てくると思いますし、今はそんなに大きなことができているとは思っていませんが、やっていく中で(もっと)できることは見つかってくるのかなと思っています」

村田諒太選手は、自分のやれることから始めていくことでもっとできることが見つかってくると話した。/(C)荒川祐史

HEROs設立には、アスリートによる社会貢献活動を促進することで、さまざまな社会課題を解決する動きを加速させ、ソーシャルイノベーションの輪を広げていきたいという想いが背景にある。

日本は今、さまざまな社会課題に直面している。こうした社会課題は今後ますます多様化・複雑化していくことが予想され、もはや“誰かが解決してくれる”のを待つような時代ではないといえるだろう。この社会に生きる一人ひとりが、その解決に対して自分の“できること”を見つけていくことが求められるようになる。

そうした時代背景の中で、スポーツは何をすべきか。スポーツには何ができるのか。今回開催された「HEROs AWARD」には、スポーツのあるべき未来のヒントが映し出されていたように感じられた。

<了>

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野口学

著者プロフィール 野口学

約10年にわたり経営コンサルティング業界に従事した後、スポーツの世界へ。月刊サッカーマガジンZONE編集者を経て、現在は主にスポーツビジネスの取材・執筆・編集を手掛ける。「スポーツの持つチカラでより多くの人がより幸せになれる世の中に」を理念とし、スポーツの“価値”を高めるため、ライター/編集者の枠にとらわれずに活動中。書籍『プロスポーツビジネス 私たちの成功事例』(東邦出版)構成。元『VICTORY』編集者。