男子は3枠、女子は2枠の狭き門

©Getty Images

フィギュアスケートの2018年平昌五輪代表最終選考会を兼ねた全日本選手権が21日、東京都調布市の武蔵野の森総合スポーツプラザで開幕する。男女ともに五輪の椅子をめぐる激しい戦いが予想される今大会。大会が近づくにつれてニュースでも多く取り上げられているが、ところで、平昌五輪の代表はどのようにして決定するのか、説明できるだろうか。今さら聞けない代表選考。イチから説明しよう。これが分かれば、きっと戦況の見方が変わるはずだ。

まず、フィギュアスケートには、男女シングル、ペア、アイスダンスという4つのカテゴリーがある。先述のように、日本は男子が3、女子が2、ペアとアイスダンスは1組の枠を獲得しており、代表選手は全日本選手権後に発表される。今回は、なじみの深い男女シングルに絞って考えていこうと思う。

男女とも、最終選考会である全日本選手権大会への参加は必須。代表1人目は全日本選手権優勝者が内定する。至ってシンプルで、これは非常に分かりやすい。

問題は2人目以降だ。一言で言えば「全日本選手権で2位、3位に入った選手や、これまでの実績を総合的に判断して決まる」ということなのだが、それではこの記事が意味をなさないので、細かい選考基準を見ていくこととする。

男子2人目は、(A)全日本選手権大会2位、3位の選手、(B)グランプリファイナル出場者上位2名。 (A)と(B)を総合的に判断して決まるとされている。

3人目は、2人目の条件に該当しながら漏れた選手、世界ランキング上位3名、シーズンランキング上位3名、シーズンベストスコア上位3名から、総合的に判断される。

女子の2人目は、(A)全日本選手権大会2位、3位の選手、(B)グランプリファイナル出場者上位2名、(C)世界ランキング上位3名、(D)シーズンランキング上位3名、(E)シーズンベストスコア上位3名 (A)~(E)を総合的に判断して決まるとされている。

どういうことか。具体的に女子で見ていこう。

(A)全日本選手権大会2位、3位の選手
こればかりは終わってみないと分からない。

(B)グランプリファイナル出場者上位2名
=宮原知子と樋口新葉が該当。

今月初旬に名古屋市内で開催されたグランプリ(GP)ファイナルは、世界6カ国(日本、ロシア、カナダ、中国、フランス、アメリカ)で開催されるGPシリーズ全6戦で獲得したポイントの上位6選手のみが出場できる「頂上決戦」。ロシア杯3位、中国杯2位と連続して表彰台に乗った樋口が全体6番目で進出を決めた。NHK杯5位、スケートアメリカ優勝の宮原は7番目だったが、1番手の世界女王、エフゲニア・メドベージェワ(ロシア)がケガで欠場となったため、繰り上がりで出場。結果的には、宮原5位、樋口6位に終わったが、選考要項には2選手が当てはまる。

(C)世界ランキング上位3名
=5位の宮原知子、9位の本郷理華、11位の樋口新葉が該当。

(D)シーズンランキング上位3名
=5位の樋口新葉、7位の坂本花織、9位の宮原知子が該当。
世界ランキングは過去3シーズンの成績から算出され、シーズンランキングは今季の成績から決まる。ジュニアカテゴリーの選手はポイントが得にくいため、シニア在籍年数が長い選手の方が世界ランキングでは有利となりやすい傾向にある。近年はシニアに上がってすぐに世界トップで戦える選手も少なくないため、それを考慮して(D)シーズンランクの項目が設けられた。

なお、今季も好成績を収めている宮原がシーズンランク3番手なのは、昨季後半戦を棒に振った左股関節疲労骨折の回復が思わしくなく、GPシリーズ前に開催される〝オープン戦〟の位置づけの大会に出場しなかったという経緯があり、分母が他選手より少ないからだ。

(E)シーズンベストスコア上位3名
=217.63点の樋口新葉、214.03点の宮原知子、210.59点の坂本花織が該当。
ちなみにこれは、樋口が世界3位、宮原が同7位、坂本が同8位の高得点。日本人4番手の三原舞依は11位の206.07点(自己ベストは218.27点)、5番手の本田真凜は18位の198.42点(自己ベストは201.61点)だけに、今大会の優勝は210点オーバーで争われることになりそうだ。

以上から、(B)~(E)の全項目で名前が挙がった宮原と樋口は一歩リードしていると言えそうだ。仮に全日本選手権でミスが出て下位に沈んでも、選考対象であることに違いはないし、選出される可能性も十分にある。

全日本を欠場する羽生結弦はどうなるか?

©Getty Images

男子の場合は
GPファイナル進出 =宇野昌磨
世界ランキング上位3選手 =羽生結弦(1位)、宇野昌磨(2位)、田中刑事(18位)
シーズンランキング上位3選手 =宇野昌磨(4位)、羽生結弦(24位)、田中刑事(28位)
シーズンベストウコア上位3選手 =宇野昌磨(1位、319.84点)、羽生結弦(3位、290.77点)、田中刑事(20位、247.17点)となる。

ところで、男子は羽生結弦が、今大会を欠場することが決まった。11月9日のNHK杯(大阪)の公式練習中に負傷した右足関節外側じん帯損傷の回復が遅れていることが理由だという。参加必須の全日本選手権を欠場したら、平昌五輪はどうなるのだろうか。選考基準にはこうも記されている。

「最終選考会である全日本選手権大会への参加は必須である。ただし、過去に世界選手権大会3位以内に入賞した実績のある選手が、けが等のやむを得ない理由で全日本選手権大会へ参加できなかった場合、不参加の理由となったけが等の事情の発生前における同選手の成績を上記選考基準に照らして評価し、大会時の状態を見通しつつ、選考することがある。」(2017-2018 シーズン フィギュアスケート国際競技会派遣選手選考基準より)

14年ソチ五輪金メダリストの羽生は、五輪直後の14年世界選手権優勝、翌15年は2位、16年2位、17年で再び頂点に返り咲いた。現在世界ランクは1位。現世界王者を代表から外す理由はないはずだ。

選考基準を細かく見ていくことで、それぞれの選手の立ち位置が見えてきたと思う。

たとえば、子役の妹・望結を持つなど人気・知名度の高い本田真凜は、現在条件を1つも満たせていない。彼女の場合、代表入りのためには一発逆転を懸けて優勝を狙う必要があると考えられるのだ。

この選手は当落線上だ、この選手は優勝に懸けるしかない、など、それぞれの立ち位置が分かると、選手の心情を想像しながら観戦できるのではないだろうか。「成功した」「失敗した」だけでなく、そこに1つ、違った角度からの見方を加えることで、代表選考争いがさらに面白く見えてくるはずだ。

羽生結弦の内にあるショパン、SP『バラード第1番』その世界観を考察する

激動の時代に書き上げたピアノ曲。美しくも激しい旋律に、羽生結弦の魂がシンクロする。オリンピックを控えた今シーズン、通算3季目になる『バラード第1番』をポーランドの天才作曲家フレデリック・ショパンの人生に重ねる。文=いとうやまね

VICTORY ALL SPORTS NEWS

宇野昌磨が描く、浅田真央とは違った“ラヴェンダーの風景”

ある夜、難破した客船から投げ出されたひとりの青年が、暗く冷たい海の中で波にもまれ死の淵をさまよう。やがて嵐は過ぎ去り、美しい朝の光の中で入り江の海岸に打ち上げられる。青年を見つけたのは海辺の屋敷に住む老姉妹だった――。宇野昌磨が演じる、映画『ラヴェンダーの咲く庭で』のメインテーマをひも解く。

VICTORY ALL SPORTS NEWS

フィギュアスケート・衣裳デザイナー伊藤聡美の『デザイン哲学』(後編)

羽生結弦、宇野昌磨、宮原知子ら、トップアスリートの色彩豊かで華やかな衣裳を生み出す本人は、いつもシンプルな「黒」を纏っている。衣裳デザイナー・伊藤聡美さんのインタビュー「後編」は、フィギュアスケートという“仕事の場”からすこし距離を置いた “本来のデザイン感”や、影響を受けたデザイナー、発想の起点について語ってもらった。また、デザインの本来あるべき姿と将来のことにも触れた。(取材・文/いとうやまね)

VICTORY ALL SPORTS NEWS

[引退]浅田真央の美しき記憶〜「最高傑作」/FS『ラフマニノフ・ピアノ協奏曲・第2番』

「その羽は青く鋭い光を放ち、豊かな翼と長い尾を飾る。雲のその上の宮殿に住み、この世の鳥族の頂点に君臨する。美しき青い鳥は、鷲の強さと、鳩の優しさを併せ持つといわれる」。幸運をもたらす「青い鳥」はロシアの伝承のひとつである。衣装はタチアナ・タラソワから贈られたものだ。

VICTORY ALL SPORTS NEWS
進化する社会人フィギュアスケーター、山田耕新

VictorySportsNews編集部