文=池田敏明

華々しいデビューを飾りながら“放出要員へ”

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 2016年6月、サッカー日本代表MF清武弘嗣は、4年間にわたってプレーしたドイツからスペインへと新天地を求めた。移籍先はアンダルシア州に本拠を置くセビージャ。UEFAヨーロッパリーグで3連覇を達成し、スペインではレアル・マドリー、バルセロナ、アトレティコ・マドリーに次ぐ強豪とみなされるクラブだ。チリ代表をコパ・アメリカ2015優勝へと導いたホルヘ・サンパオリを指揮官に招聘し、更なる強化を目指す中で日本屈指のテクニシャンである清武に白羽の矢が立てられ、4年契約を結ぶこととなった。

 清武はリーガ・エスパニョーラ第1節のエスパニョール戦で1ゴール1アシストを記録するなど、開幕当初は目覚ましい活躍を見せていた。しかしポジションが重なるガンソ(元ブラジル代表)やサミル・ナスリ(元フランス代表)といった実力者がチームにフィットするにつれて徐々にベンチへと追いやられ、招集メンバーから外れることも多くなった。16年12月の時点でチームはリーグ戦3位と好調を維持しているが、清武の出場機会はわずか4試合のみと、ほぼ蚊帳の外に置かれている。そして、その状況ゆえに冬の移籍マーケットに向けて様々なうわさが飛び交っている。

以前から伝えられたデポルティボの関心に加え、最近のドイツ『キッカー』の報道ではヘルタ・ベルリンが清武に興味を抱いているという。
清武をめぐりデポルティボとヘルタが争奪戦か...レンタルなら国内移籍が濃厚に - Goal.com

 現状で考えられ得る選択肢は、①セビージャ残留 ②デポルティボへのレンタル移籍 ③ヘルタ・ベルリンへの移籍 の3つだろう。この中で、清武にとって最善の道はどれになるのだろうか。

セビージャでの復活のカギは語学力

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 セビージャに残留し、レギュラーを奪取するのが理想であるのは間違いない。清武が出場機会を失っているのは、語学力不足が大きな要因だと言われている。清武はスペイン語の個人レッスンこそ受けているが、通訳はつけていないため、監督やチームメートの言葉を完璧に理解できる状態ではない。そのため、申し分のない実力を備えていながら、チームとしての機能性を求めるサンパオリ監督にとって“扱いづらい選手”になっているのだ。

 ただ、セビージャはリーガとスペイン国王杯に加えてチャンピオンズリーグでも勝ち進んでおり、スケジュール過多になれば清武の出場機会も増える可能性がある。その日が来るために、日頃のトレーニングでのアピールを欠かさず、周囲とコミュニケーションを取りながらスペイン語力も磨く必要がある。今は苦しい状況かもしれないが、世界的名将の指導を受け続けることは、清武のキャリアにとっては間違いなくプラスとなるはずだ。

 デポルティボへのレンタル移籍の噂は11月頃からささやかれている。来シーズン以降もスペインでプレーし続ける意思があるのなら、こちらも悪い選択肢ではない。通訳がつかない状況は恐らく変わらないだろうが、残留争いを演じているデポルティボであれば、試合出場のチャンスも多く巡ってくるはず。出場機会を確保しながらスペイン語力を向上させ、半年間である程度の結果を出した上で来シーズン、セビージャで再チャレンジするというシナリオは描きやすいだろう。

 ヘルタ・ベルリンへの移籍は“即効性”が最も高い選択肢だ。ドイツでのプレー環境を熟知している上に、日本代表の同僚でもあるMF原口元気も所属している。クラブ側も以前から清武に注目しており、戦力として期待されている。清武が馴染みやすく、プレーしやすい環境であるのは間違いない。ただ、周囲から「スペインで通用しなかったからドイツに戻った」と見られ、そのイメージが広まって今後、スペインでの挑戦が難しくなる可能性もある。

 残留か、移籍か――。清武は今冬、どのような決断を下すのだろうか。


池田敏明

大学院でインカ帝国史を専攻していたが、”師匠” の敷いたレールに果てしない魅力を感じ転身。専門誌で編集を務めた後にフリーランスとなり、ライター、エディター、スベイ ン語の通訳&翻訳家、カメラマンと幅広くこなす。